[PF53] 学びのユニバーサルデザインを志向した教員の授業方法に関する調査
Keywords:学びのユニバーサルデザイン, 授業方法
問題と目的
通常の学級に在籍する子どものうち6.5%程度が学習面あるいは行動面の困難を抱えている(文部科学省,2015)。当該の子どもたちに共通する特性として実行機能の障害が指摘されている。実行機能は計画機能,注意集中機能,抑制機能などの下位要素からなり,集団場面における授業への参加に必須の機能である。当該の子どもたちの学習意欲を喚起し,集中度,参加度,ひいては理解度を高めるための授業方法を検討するに当たり,一つの方向性を提供するのが学びのユニバーサルデザイン(universal design for learning UDL)の理念と実践であると考える。本報告の目的は,中学校区の単位で「ユニバーサルデザインの授業づくり」をテーマに授業研究に取り組んでいる教員が,UDLの理念を具現化するためにどのような方法を選択し,実践しているかについて究明することである。
方 法
近畿地方の小学校教員78名,中学校の教員36名,合計114名を対象として質問紙調査を行った。2つの中学校区に属する小学校,中学校に所属し,筆者が特別支援教育の巡回相談員として公的に学校支援の職務を任命されている地域の教員である。調査時期は,2017年7月下旬である。
質問項目の選定にあたって,UDLの第2原則「行動と表出に関する多様な方法を提供する」の中に位置づけられている「実行機能のためのオプションを提供する」に該当する項目と授業中の教員が示す行為がすべて抽出されている知見(福本・粕谷,2012)とを照合した。さらに,筆者が巡回相談の一環として授業視察した後に,教員に提案した授業方法の改善点の項目も踏まえて7項目を選定した(Table 1)。
結 果
小学校,中学校,全体の実践率を項目ごとに示す(Figure 1)。小学校,中学校による校種の違いによる実施率は全項目において有意な差は認められなかった。そこで小学校,中学校合わせた全体の実践率に関して,項目間において差がないのかをみた。その結果,最も低い「発言の公平性」に関する実践率(小学校37.2%,中学校36.1%,全体36.8%)は,他のすべての項目との間で有意に低いことが認められた。最も実践率の高い「短い指示」の項目との間では0.1%の水準で(χ2(1)=19.622,p<.001),次いで2番目に実践率の低い「聞く,話す,読む,書く(作業)の各要素をバランスよく取り入れる」の項目との間でさえ5%水準で「発言の公平性」の方が低いという結果が示された(χ2(1)=4.560, p<.05)。
考 察
「発言の公平性」に関する実践率の低さからは,授業中の発表や役割遂行,意見交流などの機会が公平に設定されているとは言えない状況が見て取れる。これは,UDLの理念に沿うものとは捉え難い。学習上の困難を抱える学習者にとっては,受け身の状態を強いられ,授業への参加意欲の向上や到達目標の達成に負の影響が及ぼされるといえる。このような子どもたちにこそ配慮や工夫のもとに発言、発表の機会があることは,達成感、周囲からの承認を得るために有用であろう。「発言の公平性」を図ることは6割以上の実践率が認められる項目5の「話し合い」の導入と関連づけられ,校内で組織的に各授業において取り入れられてもよい。集約された意見の発表の機会を個々の学習者が公平に得るような取り組みは,先の第2原則に則り多様な方法で授業中の行動を保障する実践として位置づけられる。
周囲との相互交流を通して協働的な学びをより強めることは,学習者の学習意欲,有能感といった心理的側面の向上に肯定的に作用するといえよう。こうした実践は,主体的な学び,UDLの理念の具現化として位置づけられると考える。
通常の学級に在籍する子どものうち6.5%程度が学習面あるいは行動面の困難を抱えている(文部科学省,2015)。当該の子どもたちに共通する特性として実行機能の障害が指摘されている。実行機能は計画機能,注意集中機能,抑制機能などの下位要素からなり,集団場面における授業への参加に必須の機能である。当該の子どもたちの学習意欲を喚起し,集中度,参加度,ひいては理解度を高めるための授業方法を検討するに当たり,一つの方向性を提供するのが学びのユニバーサルデザイン(universal design for learning UDL)の理念と実践であると考える。本報告の目的は,中学校区の単位で「ユニバーサルデザインの授業づくり」をテーマに授業研究に取り組んでいる教員が,UDLの理念を具現化するためにどのような方法を選択し,実践しているかについて究明することである。
方 法
近畿地方の小学校教員78名,中学校の教員36名,合計114名を対象として質問紙調査を行った。2つの中学校区に属する小学校,中学校に所属し,筆者が特別支援教育の巡回相談員として公的に学校支援の職務を任命されている地域の教員である。調査時期は,2017年7月下旬である。
質問項目の選定にあたって,UDLの第2原則「行動と表出に関する多様な方法を提供する」の中に位置づけられている「実行機能のためのオプションを提供する」に該当する項目と授業中の教員が示す行為がすべて抽出されている知見(福本・粕谷,2012)とを照合した。さらに,筆者が巡回相談の一環として授業視察した後に,教員に提案した授業方法の改善点の項目も踏まえて7項目を選定した(Table 1)。
結 果
小学校,中学校,全体の実践率を項目ごとに示す(Figure 1)。小学校,中学校による校種の違いによる実施率は全項目において有意な差は認められなかった。そこで小学校,中学校合わせた全体の実践率に関して,項目間において差がないのかをみた。その結果,最も低い「発言の公平性」に関する実践率(小学校37.2%,中学校36.1%,全体36.8%)は,他のすべての項目との間で有意に低いことが認められた。最も実践率の高い「短い指示」の項目との間では0.1%の水準で(χ2(1)=19.622,p<.001),次いで2番目に実践率の低い「聞く,話す,読む,書く(作業)の各要素をバランスよく取り入れる」の項目との間でさえ5%水準で「発言の公平性」の方が低いという結果が示された(χ2(1)=4.560, p<.05)。
考 察
「発言の公平性」に関する実践率の低さからは,授業中の発表や役割遂行,意見交流などの機会が公平に設定されているとは言えない状況が見て取れる。これは,UDLの理念に沿うものとは捉え難い。学習上の困難を抱える学習者にとっては,受け身の状態を強いられ,授業への参加意欲の向上や到達目標の達成に負の影響が及ぼされるといえる。このような子どもたちにこそ配慮や工夫のもとに発言、発表の機会があることは,達成感、周囲からの承認を得るために有用であろう。「発言の公平性」を図ることは6割以上の実践率が認められる項目5の「話し合い」の導入と関連づけられ,校内で組織的に各授業において取り入れられてもよい。集約された意見の発表の機会を個々の学習者が公平に得るような取り組みは,先の第2原則に則り多様な方法で授業中の行動を保障する実践として位置づけられる。
周囲との相互交流を通して協働的な学びをより強めることは,学習者の学習意欲,有能感といった心理的側面の向上に肯定的に作用するといえよう。こうした実践は,主体的な学び,UDLの理念の具現化として位置づけられると考える。