[PF61] 学業生活における主体性の評価
主体性を特徴づけている心理的特性の構造の検討
Keywords:主体性, 学習動機, 学業親和性
目 的
鈴木(教心発表2016, 2017)では,学期初めに測定された学習動機(6尺度),学習方略(4尺度),学習観(主体性,自律性,継続性)の尺度得点を用いて,対象者を①情緒型学習者,②思考型学習者,③受身型学習者,④意志型学習者の4つの学習スタイルにクラスタリングした。クラスタ特性は,年度間で安定していた。また,クラスタのカテゴリを目的変数として,正準判別分析を行ったところ,ステップワイズ法により投入された変数は,学習動機(市川 2001)の「自尊志向」「報酬志向」と,学習観である「主体性」「自律性」「継続性」の5つとなり,モデル式による判別は85.7%の一致率であった。結果として,学習スタイルを識別する際に学習観の尺度が有効ではあったが,内容的妥当性が不充分であるとの認識を得た。特に,「主体性」は確たる定義はなく,積極性等との相違や関連性が充分に説明づけられていないと思われた。本研究では,「主体性」の仮説的定義に基づいて,諸変数との関連性を検討することとした。
方 法
手続き:質問紙調査法にて回答は強制ではないことを伝えて実施した。学習時に「変えていく」ことへの関与として「能力を向上させたい」などの25項目を作成し,全くそう思う~全くそうは思わないの7件法による回答を得た。また,日常活動における子どもの「主体性尺度」(浅海 1999)を用い,「あなたは,自分の考えを持って,進んで自分から言いますか」などの20項目に対して,あてはまる~あてはまらないの4件法で回答を得た。学習動機と学習方略に関しては,市川(2001)による尺度を用いた。学期全体での授業満足度として,主観的確率として満足率の回答(授業満足率),受講した科目数と満足できた授業の科目数を回答してもらい,その割合も調べた(満足授業率)。また,学業生活における親和性について「知識や技能をもっと伸ばしたい」などの15項目に対して,全くそう思う~全くそうは思わないの7件法で回答を得た。
調査時期:2017年前期終了時。調査対象者:人文社会・教育系2学部の148名(男性63名,女性84名, 不明1名)の初年度大学生。平均年令は18.6才(SD=0.67)であった。
結 果
学習時に「変えていく」ことへの関与を表した25項目に対して,探索的因子分析を実施した。固有値減衰率を基準とした最尤法によって4因子を抽出した後,斜交プロマックス解をもとめた。項目の共通点から,因子1は,自分を向上させたり,改善させたりすることに関わろうとする「更新的」関与,因子2は,目指している価値の獲得に関わる「獲得的」関与,因子3は,学習の成果の蓄積に関わる「吸収的」関与,因子4は,提示されている内容から有益な情報の抽出に関わる「集中的」関与と意味づけた。
浅海(1999)の主体性尺度20項目に対して,下位尺度数の5つを抽出数として固定し,主因子法を実施し,回転バリマックス解をもとめた(累積寄与率44.1%)。「知的好奇心」を構成するとされていた4項目が分散した他は,「自己表現」「積極的な行動」「方向づけ」「自己決定力」については,因子を構成する項目は,浅海(1999)に一致していた。
市川(2001)の学習動機36項目については内容関与動機とされている「充実志向」「実用志向」,「訓練志向」,内容分離動機とされる「関係志向」「自尊志向」「報酬志向」の尺度が,因子分析によって確認された。また,学業生活における親和性は,鈴木(教心発表 2016, 2017)同様,学校が好きで楽しくなってきたことを表している「学校親和」,既定の学力を伸ばしたいことを表している「学習親和」,探究的学習の側面が表されている「学問親和」の3因子を抽出することができた。
尺度得点を算出後,「変えていく」関与と学業親和との相関係数をもとめたところ,「更新的」関与と「学問親和」との相関が最も強く(.49),また「学校親和」(.31),「学習親和」(.39)も,総じて1%水準で比較的強い有意な正の相関が認められた。
この「更新的」関与を基準変数とし,浅海(1999)の「主体性尺度」の4尺度,市川(2001)の学習動機の6尺度を説明変数として,ステップワイズ方式による変数投入法で,重回帰分析を行ったところ,「主体性尺度」の「積極的な行動」「方向づけ」と「学習動機」の「充実志向」の3変数のモデルが有意となった(F(3,132)=27.3,p<0.1)。自由度調整済み決定係数はR2=.37であり,最も高い標準化係数は0.36の充実志向であった(t=4.91,p<0.1)。
考 察
学習時の「更新的」関与に対して,学習自体を楽しむ「充実志向」と主体性尺度の「積極的」「方向づけ」の影響が強いということがわかり,学習時の主体性は,自己を向上・改善するために,自分で実感しながら,自身を方向づけ,行動に表していくことではないかと考えることができた。
鈴木(教心発表2016, 2017)では,学期初めに測定された学習動機(6尺度),学習方略(4尺度),学習観(主体性,自律性,継続性)の尺度得点を用いて,対象者を①情緒型学習者,②思考型学習者,③受身型学習者,④意志型学習者の4つの学習スタイルにクラスタリングした。クラスタ特性は,年度間で安定していた。また,クラスタのカテゴリを目的変数として,正準判別分析を行ったところ,ステップワイズ法により投入された変数は,学習動機(市川 2001)の「自尊志向」「報酬志向」と,学習観である「主体性」「自律性」「継続性」の5つとなり,モデル式による判別は85.7%の一致率であった。結果として,学習スタイルを識別する際に学習観の尺度が有効ではあったが,内容的妥当性が不充分であるとの認識を得た。特に,「主体性」は確たる定義はなく,積極性等との相違や関連性が充分に説明づけられていないと思われた。本研究では,「主体性」の仮説的定義に基づいて,諸変数との関連性を検討することとした。
方 法
手続き:質問紙調査法にて回答は強制ではないことを伝えて実施した。学習時に「変えていく」ことへの関与として「能力を向上させたい」などの25項目を作成し,全くそう思う~全くそうは思わないの7件法による回答を得た。また,日常活動における子どもの「主体性尺度」(浅海 1999)を用い,「あなたは,自分の考えを持って,進んで自分から言いますか」などの20項目に対して,あてはまる~あてはまらないの4件法で回答を得た。学習動機と学習方略に関しては,市川(2001)による尺度を用いた。学期全体での授業満足度として,主観的確率として満足率の回答(授業満足率),受講した科目数と満足できた授業の科目数を回答してもらい,その割合も調べた(満足授業率)。また,学業生活における親和性について「知識や技能をもっと伸ばしたい」などの15項目に対して,全くそう思う~全くそうは思わないの7件法で回答を得た。
調査時期:2017年前期終了時。調査対象者:人文社会・教育系2学部の148名(男性63名,女性84名, 不明1名)の初年度大学生。平均年令は18.6才(SD=0.67)であった。
結 果
学習時に「変えていく」ことへの関与を表した25項目に対して,探索的因子分析を実施した。固有値減衰率を基準とした最尤法によって4因子を抽出した後,斜交プロマックス解をもとめた。項目の共通点から,因子1は,自分を向上させたり,改善させたりすることに関わろうとする「更新的」関与,因子2は,目指している価値の獲得に関わる「獲得的」関与,因子3は,学習の成果の蓄積に関わる「吸収的」関与,因子4は,提示されている内容から有益な情報の抽出に関わる「集中的」関与と意味づけた。
浅海(1999)の主体性尺度20項目に対して,下位尺度数の5つを抽出数として固定し,主因子法を実施し,回転バリマックス解をもとめた(累積寄与率44.1%)。「知的好奇心」を構成するとされていた4項目が分散した他は,「自己表現」「積極的な行動」「方向づけ」「自己決定力」については,因子を構成する項目は,浅海(1999)に一致していた。
市川(2001)の学習動機36項目については内容関与動機とされている「充実志向」「実用志向」,「訓練志向」,内容分離動機とされる「関係志向」「自尊志向」「報酬志向」の尺度が,因子分析によって確認された。また,学業生活における親和性は,鈴木(教心発表 2016, 2017)同様,学校が好きで楽しくなってきたことを表している「学校親和」,既定の学力を伸ばしたいことを表している「学習親和」,探究的学習の側面が表されている「学問親和」の3因子を抽出することができた。
尺度得点を算出後,「変えていく」関与と学業親和との相関係数をもとめたところ,「更新的」関与と「学問親和」との相関が最も強く(.49),また「学校親和」(.31),「学習親和」(.39)も,総じて1%水準で比較的強い有意な正の相関が認められた。
この「更新的」関与を基準変数とし,浅海(1999)の「主体性尺度」の4尺度,市川(2001)の学習動機の6尺度を説明変数として,ステップワイズ方式による変数投入法で,重回帰分析を行ったところ,「主体性尺度」の「積極的な行動」「方向づけ」と「学習動機」の「充実志向」の3変数のモデルが有意となった(F(3,132)=27.3,p<0.1)。自由度調整済み決定係数はR2=.37であり,最も高い標準化係数は0.36の充実志向であった(t=4.91,p<0.1)。
考 察
学習時の「更新的」関与に対して,学習自体を楽しむ「充実志向」と主体性尺度の「積極的」「方向づけ」の影響が強いということがわかり,学習時の主体性は,自己を向上・改善するために,自分で実感しながら,自身を方向づけ,行動に表していくことではないかと考えることができた。