[PF67] いじめに対する規範意識といじめ加害の関連
自己の罪悪感と他者の罪悪感想起を比較したマルチレベル分析
キーワード:いじめ, 罪悪感, 規範
問題と目的
いじめ(school bullying)は世界中の学校で児童・生徒を短期・長期的にも悩ませている深刻な問題である。いじめの問題を検討する際は,被害者・加害者の特性だけでなく,聴衆などいじめが起きた際の役割の関係性や教室全体の問題とすべきであるという議論が主流である(森田・清永, 1994;Salmivalli, 2010)。
また,いじめに対して規範意識や罪悪感によっていじめ加害が抑制される可能性を示した知見も存在する(大西他, 2009)。そこで本研究でも,子どもの特性だけでなく,教室レベルの要因にも注目していじめと罪悪感との関連を検討することとした。
方 法
協力者
152学級の小学5年生―中学3年生3,986名
項目
いじめ加害経験(「仲間外れや無視をした」など8項目5件法)を尋ね,いじめ加害経験の項目と同じ8項目に対して罪悪感を以下のように尋ねた。まず,罪悪感を「申し訳なくなる気持ち」と教示したうえで,「あなたはどれくらい罪悪感を持ちますか?」と尋ねていじめに対する自己の罪悪感(8項目4件法, α=.957)を測定した。また,「あなたのクラスの多くの人はどれくらい罪悪感を持ちますか?」と尋ね,いじめに対するクラス内の他者の罪悪感の想起(8項目4件法, α=.962)を測定した。
結 果
いじめ加害のコーディング
先行研究(e.g., 村山他, 2015)を参考にし,いじめ加害8項目のいずれかに週1回以上いじめ加害をしたと回答した子どもを「いじめ加害あり(=1)」,それ以外の子どもを「いじめ加害なし(=0)」とダミーコーディングした。いじめ加害ありの子どもは401名であった。
分析の手順
分析は統計パッケージソフトMplus ver.8を使用し従属変数が2値のマルチレベル構造方程式モデリング(リンク関数=プロビット, WLSMV推定)で分析を行った(Nchild=3,533, Nclass=148)。また,いじめに対する2種類の罪悪感(自己と他者)は集団レベルの変数として学級平均値を算出した。集団レベルでは全体平均で中心化,個人レベルでは学級平均値で中心化した。モデル中の統制変数は学校種と性別,独立変数はいじめに対する罪悪感,従属変数はいじめ加害であった(Figure1)。
分析の結果
マルチレベル分析の結果,個人レベルでは,2種類の罪悪感といじめ加害の間で有意な関連がみられなかった(自己の罪悪感ではb = -0.012, n.s.;他者の罪悪感想起ではb = -0.082, n.s.)。その一方で,集団レベルでは他者の罪悪感想起といじめ加害の間で有意な関連がみられた(自己の罪悪感ではb = 0.477, n.s.;他者の罪悪感想起ではb = -0.982, p<.01)。すなわち,他者の罪悪感の想起が低い学級ほどいじめ加害が多い学級であることが示された。
考 察
分析の結果から,他者の罪悪感を低く見積もる子どもが多い学級ほど,いじめ加害が多い学級である可能性が示唆された。すなわち,「クラスの他の人はいじめをそれほど悪いことと思っていないだろう」と思う雰囲気が教室でのいじめ加害に繋がり,その結果がいじめの深刻化・長期化に影響しているのではないかと考えられる。
いじめ(school bullying)は世界中の学校で児童・生徒を短期・長期的にも悩ませている深刻な問題である。いじめの問題を検討する際は,被害者・加害者の特性だけでなく,聴衆などいじめが起きた際の役割の関係性や教室全体の問題とすべきであるという議論が主流である(森田・清永, 1994;Salmivalli, 2010)。
また,いじめに対して規範意識や罪悪感によっていじめ加害が抑制される可能性を示した知見も存在する(大西他, 2009)。そこで本研究でも,子どもの特性だけでなく,教室レベルの要因にも注目していじめと罪悪感との関連を検討することとした。
方 法
協力者
152学級の小学5年生―中学3年生3,986名
項目
いじめ加害経験(「仲間外れや無視をした」など8項目5件法)を尋ね,いじめ加害経験の項目と同じ8項目に対して罪悪感を以下のように尋ねた。まず,罪悪感を「申し訳なくなる気持ち」と教示したうえで,「あなたはどれくらい罪悪感を持ちますか?」と尋ねていじめに対する自己の罪悪感(8項目4件法, α=.957)を測定した。また,「あなたのクラスの多くの人はどれくらい罪悪感を持ちますか?」と尋ね,いじめに対するクラス内の他者の罪悪感の想起(8項目4件法, α=.962)を測定した。
結 果
いじめ加害のコーディング
先行研究(e.g., 村山他, 2015)を参考にし,いじめ加害8項目のいずれかに週1回以上いじめ加害をしたと回答した子どもを「いじめ加害あり(=1)」,それ以外の子どもを「いじめ加害なし(=0)」とダミーコーディングした。いじめ加害ありの子どもは401名であった。
分析の手順
分析は統計パッケージソフトMplus ver.8を使用し従属変数が2値のマルチレベル構造方程式モデリング(リンク関数=プロビット, WLSMV推定)で分析を行った(Nchild=3,533, Nclass=148)。また,いじめに対する2種類の罪悪感(自己と他者)は集団レベルの変数として学級平均値を算出した。集団レベルでは全体平均で中心化,個人レベルでは学級平均値で中心化した。モデル中の統制変数は学校種と性別,独立変数はいじめに対する罪悪感,従属変数はいじめ加害であった(Figure1)。
分析の結果
マルチレベル分析の結果,個人レベルでは,2種類の罪悪感といじめ加害の間で有意な関連がみられなかった(自己の罪悪感ではb = -0.012, n.s.;他者の罪悪感想起ではb = -0.082, n.s.)。その一方で,集団レベルでは他者の罪悪感想起といじめ加害の間で有意な関連がみられた(自己の罪悪感ではb = 0.477, n.s.;他者の罪悪感想起ではb = -0.982, p<.01)。すなわち,他者の罪悪感の想起が低い学級ほどいじめ加害が多い学級であることが示された。
考 察
分析の結果から,他者の罪悪感を低く見積もる子どもが多い学級ほど,いじめ加害が多い学級である可能性が示唆された。すなわち,「クラスの他の人はいじめをそれほど悪いことと思っていないだろう」と思う雰囲気が教室でのいじめ加害に繋がり,その結果がいじめの深刻化・長期化に影響しているのではないかと考えられる。