[PG06] 地域交流により促される青年のアイデンティティ確立の試み
女子青年の2年間の地域ボランティア活動の質的分析から
キーワード:青年期のアイデンティティ, ボランティアと地域交流, グラウンデッド・セオリー・アプローチ
問題と目的
人の人生は,様々な人との関係の中で営まれており,特に青年期は,成人期でのキャリア形成や,結婚後の夫婦や親子,親戚関係など人間関係が更に深まり広まる時期の手前であり,社会性を磨くことが重要なテーマの一つである。また青年期は,他の何物でもない「内なる自己」と,外から見られる「社会的自己」を柔軟に調整しながらアイデンティティ(自我同一性)を確立する時期であり,それには,過去を振り返り,現状を把握しながら,未来を具体的な現実味と共に見据えられる「時間的展望」の取得が求められる(白井・都筑・森,2012)。本研究は,2年間の地域ボランティア活動を行った一人の女子大生の様子を,筆者も参与観察しながら面接調査を行い,様々な年齢層のスタッフや参加者と交流する機会のある地域活動が,青年のアイデンティティの確立にどのように影響を与えるかについて考察したものである。
方 法
研究協力者である関東在住の女子大生Aさんは,新入生のX年5月末から2年次3月までの約2年間,地域の青少年育成機関E団体が行う情報交換会,地域交流の宿泊バス旅行,夏祭り,スポーツ大会,正月のどんど焼きに参加した。面接調査は活動開始直前(X年5月),1年終了時(X+1年3月),2年終了時(X+2年3月)の3回であり,逐語録をグラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した。
結果と考察
(事前面接での語り) Aさんが活動に興味を持った理由は,「楽しめそうだから」であった。そうやって「みんなでワイワイすることが好き」と語る一方,人に迷惑をかけないようにするというマナーが感じられ,また持論があり,「相手に結構はっきり言う方」と語っていた。またAさんには人懐っこい一面が感じられ,「小さい頃からきょうだいみんなで,地域の柔道教室に通って」いて,そこでの大人との楽しいやり取りが語られた。そしてAさんの子どもとの関わり方は,「弟や妹の友達がうちに来たら『お菓子どうぞ』と持っていくけど,『これこれこうしなよ』とは言わない。」という,まずは見守るスタンスだとのことだった。また将来の夢について聞くと,「そうですね。基本的に気が小さいので。安定したものがよい。」と,具体的なものは語られなかった。
(1年後の語り) Aさんは,同じく研究参加に加わった2学年上の男子学生Bくんと,OBで参加し続けている20歳代後半のCくんと共にE団体の活動に参加した。Aさんは,会議では背筋をピンとして座っており,真面目さが感じられた。また地域の人々からの声掛けに楽しそうに返事をし,頼まれるとすぐに行動できる反応のよさが感じられた。終了後の面接では,この地域活動を「フレンドリー」で「大きな体験だった」と語った。バス旅行では,「長い時間」子どもたちと関わったことで,お互い名前や顔を覚えあい,それ以降の行事でも声を掛け合い一緒に遊んでいた。それは,子どもたちを見守るような自分を活動の外側に置いた関わりではなく,「一緒に楽しんだ」という体験であり,事前面接で語っていた「きょうだいの友だちが来訪するとまず見守る」こととは異なる親密な体験だった。先輩Cくんからは,行事準備の段取りや大学生活の情報など,多くを助けてもらった。70代の役員Dさんは博識で行動的であり,同年代仲間たちと地域の小学校の体験授業にも関わっていた。Aさんは,Dさんと話した感想を語り,「わからないこともいっぱいあったんですけど。」と断りながらも,「人生の先輩なんだなって思いましたね。」と感心していた。
(2年後の語り) Aさんの語りは,スタッフさんたちへの気遣いや使いにくくなった用具の買い替えの促しなど,先輩Cくんの後ろで見よう見まねで活動していた前年度とは異なる責任感が感じられるものであった。一方Aさんが残念がったことは,昨年度知り合いになった子どもたちと,継続して関わることができなかったことだった。バス旅行は予算等で中止となっていて,「(出会う子は)知らない子だっていうことは,残念な感じですね」と語った。子どもだったら誰でもよいのではなく,自分が関わった「あの子たち」と会いたかったということだった。またAさんは,隣地域の子どもキャンプに参加したり,大学のサークルで指名されて副会長を引き受けていた。それは,「自分は面倒くさがり」という昨年の語りとは異なるものであった。またAさんは,「他の大学生とも知り合いになりたい」と思い,「自分が楽しむだけじゃなくて,将来役に立つものを探して」,別のインカレのサークルを見つけ,施設の子どもたちと遊ぶボランティアを始めていた。そしてやりがいを語りながらも,「大変そうですね,職員さんを見てると。」と現場で働くことの難しさも感じ,将来を見据えていた。
まとめ
最初の事前面接では,「子ども好き」とは言わず,むしろ「見守る方」と語っていたAさんであったが,実際の活動は異なっていた。ゲーム大会や肝試しではスタッフの大人に見守られ,子どもたちと「子どものように」楽しんだ。そして,その後行われたどんど焼きの準備時間には,仲間と共に子どもたちとバスケに興じ,更に母親のそばから離れない子どもをバスケに誘い,下の世代と密に関わり世話をしていた。また2年目では,サークルの責任者や施設の子どもたちと遊ぶボランティアを,自分の成長や将来のためといって活動に加えていた。以上のことから,青年の成長やアイデンティティ確立への試みは,大人に見守られて「体験」し「楽しむ」ことで活性化されると結論付けられた。
(Aさんの成長のプロセスの詳細についてのカテゴリー表と関連図は,会場で示す。)
人の人生は,様々な人との関係の中で営まれており,特に青年期は,成人期でのキャリア形成や,結婚後の夫婦や親子,親戚関係など人間関係が更に深まり広まる時期の手前であり,社会性を磨くことが重要なテーマの一つである。また青年期は,他の何物でもない「内なる自己」と,外から見られる「社会的自己」を柔軟に調整しながらアイデンティティ(自我同一性)を確立する時期であり,それには,過去を振り返り,現状を把握しながら,未来を具体的な現実味と共に見据えられる「時間的展望」の取得が求められる(白井・都筑・森,2012)。本研究は,2年間の地域ボランティア活動を行った一人の女子大生の様子を,筆者も参与観察しながら面接調査を行い,様々な年齢層のスタッフや参加者と交流する機会のある地域活動が,青年のアイデンティティの確立にどのように影響を与えるかについて考察したものである。
方 法
研究協力者である関東在住の女子大生Aさんは,新入生のX年5月末から2年次3月までの約2年間,地域の青少年育成機関E団体が行う情報交換会,地域交流の宿泊バス旅行,夏祭り,スポーツ大会,正月のどんど焼きに参加した。面接調査は活動開始直前(X年5月),1年終了時(X+1年3月),2年終了時(X+2年3月)の3回であり,逐語録をグラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した。
結果と考察
(事前面接での語り) Aさんが活動に興味を持った理由は,「楽しめそうだから」であった。そうやって「みんなでワイワイすることが好き」と語る一方,人に迷惑をかけないようにするというマナーが感じられ,また持論があり,「相手に結構はっきり言う方」と語っていた。またAさんには人懐っこい一面が感じられ,「小さい頃からきょうだいみんなで,地域の柔道教室に通って」いて,そこでの大人との楽しいやり取りが語られた。そしてAさんの子どもとの関わり方は,「弟や妹の友達がうちに来たら『お菓子どうぞ』と持っていくけど,『これこれこうしなよ』とは言わない。」という,まずは見守るスタンスだとのことだった。また将来の夢について聞くと,「そうですね。基本的に気が小さいので。安定したものがよい。」と,具体的なものは語られなかった。
(1年後の語り) Aさんは,同じく研究参加に加わった2学年上の男子学生Bくんと,OBで参加し続けている20歳代後半のCくんと共にE団体の活動に参加した。Aさんは,会議では背筋をピンとして座っており,真面目さが感じられた。また地域の人々からの声掛けに楽しそうに返事をし,頼まれるとすぐに行動できる反応のよさが感じられた。終了後の面接では,この地域活動を「フレンドリー」で「大きな体験だった」と語った。バス旅行では,「長い時間」子どもたちと関わったことで,お互い名前や顔を覚えあい,それ以降の行事でも声を掛け合い一緒に遊んでいた。それは,子どもたちを見守るような自分を活動の外側に置いた関わりではなく,「一緒に楽しんだ」という体験であり,事前面接で語っていた「きょうだいの友だちが来訪するとまず見守る」こととは異なる親密な体験だった。先輩Cくんからは,行事準備の段取りや大学生活の情報など,多くを助けてもらった。70代の役員Dさんは博識で行動的であり,同年代仲間たちと地域の小学校の体験授業にも関わっていた。Aさんは,Dさんと話した感想を語り,「わからないこともいっぱいあったんですけど。」と断りながらも,「人生の先輩なんだなって思いましたね。」と感心していた。
(2年後の語り) Aさんの語りは,スタッフさんたちへの気遣いや使いにくくなった用具の買い替えの促しなど,先輩Cくんの後ろで見よう見まねで活動していた前年度とは異なる責任感が感じられるものであった。一方Aさんが残念がったことは,昨年度知り合いになった子どもたちと,継続して関わることができなかったことだった。バス旅行は予算等で中止となっていて,「(出会う子は)知らない子だっていうことは,残念な感じですね」と語った。子どもだったら誰でもよいのではなく,自分が関わった「あの子たち」と会いたかったということだった。またAさんは,隣地域の子どもキャンプに参加したり,大学のサークルで指名されて副会長を引き受けていた。それは,「自分は面倒くさがり」という昨年の語りとは異なるものであった。またAさんは,「他の大学生とも知り合いになりたい」と思い,「自分が楽しむだけじゃなくて,将来役に立つものを探して」,別のインカレのサークルを見つけ,施設の子どもたちと遊ぶボランティアを始めていた。そしてやりがいを語りながらも,「大変そうですね,職員さんを見てると。」と現場で働くことの難しさも感じ,将来を見据えていた。
まとめ
最初の事前面接では,「子ども好き」とは言わず,むしろ「見守る方」と語っていたAさんであったが,実際の活動は異なっていた。ゲーム大会や肝試しではスタッフの大人に見守られ,子どもたちと「子どものように」楽しんだ。そして,その後行われたどんど焼きの準備時間には,仲間と共に子どもたちとバスケに興じ,更に母親のそばから離れない子どもをバスケに誘い,下の世代と密に関わり世話をしていた。また2年目では,サークルの責任者や施設の子どもたちと遊ぶボランティアを,自分の成長や将来のためといって活動に加えていた。以上のことから,青年の成長やアイデンティティ確立への試みは,大人に見守られて「体験」し「楽しむ」ことで活性化されると結論付けられた。
(Aさんの成長のプロセスの詳細についてのカテゴリー表と関連図は,会場で示す。)