[PG08] 幼児期の「心の理論」の発達と実行機能(1)
多面的な心の理解の発達
キーワード:「心の理論」, 実行機能, 発達
目 的
Premack & Woodruff(1978)が「心の理論」という概念を提唱し,Wimmer & Perner(1983)等が誤信念課題を開発して以来,数多くの研究がなされてきた。総じて,誤信念の理解はおよそ4歳から5歳の間に可能になること(Wellman et al., 2001),誤信念理解には実行機能の発達が影響を与えていることが示されてきた(森口,2015; 小川・子安,2008; 島他,2017)。
ところで,「心の理論」は本来,他者の意図や信念,欲求など目に見えない心的状態を「心」に帰属させて推測する能力の総称であり,誤信念理解にとどまるものではない。Wellman & Liu(2004)や東山(2007)は広義の「心の理論」を測定する課題を開発し,段階的に進む他者の心の理解の発達を描出している。本研究では実行機能が多面的な「心の理論」の発達に与える影響を検討した。
方 法
実験参加者 A県内の幼稚園に通う年少児20名,年中児35名,年長児36名を対象とした。
課題 <「心の理論」課題> 東山(2007)による「心の理論」課題を実施した。この課題は,①他者の欲求についての理解を測るDiverse Desires,②自己と異なる信念を持つ他者の信念の理解を測るDiverse Beliefs,③見ることと知ることの関係を測るKnowledge Access,④他者の誤信念を測るContents False Belief,⑤実際と見かけの感情の違いを測るReal-Apparent Emotionの計5課題で構成されている。 <実行機能> 葛藤抑制を測定するために赤/青課題(範囲:0-10),認知的柔軟性を測定するためにDCCS(範囲:0-8),ワーキングメモリを測定するために単語逆唱スパン課題(範囲:1-5)を実施した。
結果と考察
「心の理論」課題のそれぞれについて学年×正誤のχ2検定を行ったところ,②Diverse Beliefsに有意傾向(χ2 (2) = 4.96, p < .10),③Knowledge Accessに有意な偏りが認められた(χ2 (2) = 15.71, p < .001)。残差分析の結果,②③とも年少の正答者が少なく,②は年中の正答者が,③は年長の正答者が多かった(Table 1)。また,実行機能3課題の得点について学年差を検討したところ,いずれも年少と年中・年長の間で有意差が認められた。
続いて,「心の理論」課題のそれぞれを目的変数,月齢と実行機能3課題の得点を説明変数とした階層的ロジスティック重回帰分析を行った(Table 2)。その結果,step 2で②Diverse Beliefsと⑤Real-Apparent Emotionに対する赤/青課題の効果が認められたが(順にB = -0.32, p < .10; B = -0.25, p < .05),モデル自体は有意ではなかった。
以上のことから,①Diverse Desiresは年少から,②Diverse Beliefsは年中から,③Knowledge Accessは年長からという,多面的な「心の理論」の発達が再確認された。しかし,本研究では当初予測された実行機能の影響は認められず,「心の理論」の発達を導く要因については明らかにすることができなかった。
Premack & Woodruff(1978)が「心の理論」という概念を提唱し,Wimmer & Perner(1983)等が誤信念課題を開発して以来,数多くの研究がなされてきた。総じて,誤信念の理解はおよそ4歳から5歳の間に可能になること(Wellman et al., 2001),誤信念理解には実行機能の発達が影響を与えていることが示されてきた(森口,2015; 小川・子安,2008; 島他,2017)。
ところで,「心の理論」は本来,他者の意図や信念,欲求など目に見えない心的状態を「心」に帰属させて推測する能力の総称であり,誤信念理解にとどまるものではない。Wellman & Liu(2004)や東山(2007)は広義の「心の理論」を測定する課題を開発し,段階的に進む他者の心の理解の発達を描出している。本研究では実行機能が多面的な「心の理論」の発達に与える影響を検討した。
方 法
実験参加者 A県内の幼稚園に通う年少児20名,年中児35名,年長児36名を対象とした。
課題 <「心の理論」課題> 東山(2007)による「心の理論」課題を実施した。この課題は,①他者の欲求についての理解を測るDiverse Desires,②自己と異なる信念を持つ他者の信念の理解を測るDiverse Beliefs,③見ることと知ることの関係を測るKnowledge Access,④他者の誤信念を測るContents False Belief,⑤実際と見かけの感情の違いを測るReal-Apparent Emotionの計5課題で構成されている。 <実行機能> 葛藤抑制を測定するために赤/青課題(範囲:0-10),認知的柔軟性を測定するためにDCCS(範囲:0-8),ワーキングメモリを測定するために単語逆唱スパン課題(範囲:1-5)を実施した。
結果と考察
「心の理論」課題のそれぞれについて学年×正誤のχ2検定を行ったところ,②Diverse Beliefsに有意傾向(χ2 (2) = 4.96, p < .10),③Knowledge Accessに有意な偏りが認められた(χ2 (2) = 15.71, p < .001)。残差分析の結果,②③とも年少の正答者が少なく,②は年中の正答者が,③は年長の正答者が多かった(Table 1)。また,実行機能3課題の得点について学年差を検討したところ,いずれも年少と年中・年長の間で有意差が認められた。
続いて,「心の理論」課題のそれぞれを目的変数,月齢と実行機能3課題の得点を説明変数とした階層的ロジスティック重回帰分析を行った(Table 2)。その結果,step 2で②Diverse Beliefsと⑤Real-Apparent Emotionに対する赤/青課題の効果が認められたが(順にB = -0.32, p < .10; B = -0.25, p < .05),モデル自体は有意ではなかった。
以上のことから,①Diverse Desiresは年少から,②Diverse Beliefsは年中から,③Knowledge Accessは年長からという,多面的な「心の理論」の発達が再確認された。しかし,本研究では当初予測された実行機能の影響は認められず,「心の理論」の発達を導く要因については明らかにすることができなかった。