[PG16] 説明的文章の読解表象形成における想念の「侵入」について
想念の「侵入」と文章構成との関連
キーワード:説明的文章, 読解表象, 想念の「侵入」
問題と目的
舛田・工藤(2017)は,説明的文章において不適切な読解の生じる原因の1つとして,当該の文章に記述のある情報と,それに触発された想念(解釈・感想・意見・連想等)の間の線引きが不十分であり,読解表象の形成過程において,本来持ち込まれるべきではないこれらの想念の「侵入」を許した可能性を指摘した。ところで,前述の先行研究で用いた文章はやや構成が特異であり,文章の主旨とは直接関連しないが印象的であるエピソードが文末にある。このため,読者がそれに引きずられ,触発されて侵入が生じた可能性は捨てきれない。加えて読者が,それまでの学校教育の中で培われたと考えられる「説明文の要点は文末にあり」といった方略を単純に適用した結果(以下「文末効果」)とも考えられる。そこで本研究では,元の文章の文末のエピソードの位置を変更し,文章の主旨により合致した記述が文末にくるよう文章構成を加工した場合の侵入への影響を検討する。これにより,侵入が,単に文章が持つ特異性に誘発されたものか否かについて明らかにすることが目的である。併せて,「文末効果」がどの程度侵入に影響しうるかについても探索的な検討を行う。
方 法
1) 材料文 材料文の題材は,舛田・工藤(2017)で用いた解説記事の順序を上述の目的に添って入れ替えたものである。入れ替え後の文章の構成は,(1)電車内等では心臓ペースメーカー(PM)に配慮して携帯電話の電源を切るよう示されるため,携帯がかなり危険であるとの印象を受ける。(2)PM利用者友の会は携帯の電波は影響しないとしている。PMと携帯には安全距離22cm(2008年)があるが,最近の機種では影響はなく,PM利用者自身も携帯を使用している。(3)22cmの算出根拠と,むしろ日常的には他の家電品などに携帯よりもPMに悪影響なものがある事の提示。(4) PMの現機種ではほとんど携帯の影響はない,あっても瞬間的に影響するだけであり,このように注意を促すのは日本だけ,となっている。2017年版では下線部が文末に来ていた。この材料文の主旨は,「文章中に挙げられている複数の理由から,携帯の電波はPMにとって危険ではない」と捉えるのが妥当である。2) 質問紙の構成 1.重要個所と気になる箇所の把握 この文章を理解する上で重要だと感じる箇所と,個人的に気になる箇所を区別して抽出させた。2. 文章全体の読解表象の把握 「文章が全体として説明・解説・知らせようとしている事」を自由に記述させた。3) 研究参加者と実施の手続き 文系の私立大学生94名に対し,2018年1月に実施。上述の質問紙を各自のペースで読み進め,回答してもらった。
結果と考察
記入漏れ等はなく,94名全員が分析の対象となった。研究者2名が独立に,読解表象を「適切(要点と文章に明確に記述があることのみを記述)」,「許容(要点に加えそれ以外の記述が含まれるが,文章から読み取れる内容と判断される)」,「不適切(それ以外)」の3分類で判断した後,不一致の部分は合議によって調整した(一致率81.9%)。適切と判断されたのは32名(34.0%/前研究19.8%),許容は20名(21.3%/同10.5%),不参考適切は42名(44.7%/同69.8%)であった。不適切とされる記述は前研究よりは2割程度減少したが,依然40%以上の学習者がそれに該当し,侵入の生起が改めて観察された。さらに舛田・工藤(2017)に倣い,「不適切」の32名分の記述を同様にカテゴリー化し,カテゴリーごとの件数を比較した(下図)。前研究と比べ,A:電車内でのアナウンスに対する疑問・批判がやや減少(30.9%→21.9%)したのに対し,G:情報リテラシー(4.8%→25.0%)やI:日本の特殊性(4.8%→31.3%)は大幅に増加した。また,C:携帯電話の使用マナー,E:PMの進歩,F:記事の真実性に対する疑問は今回は見られなかった。増加したGおよびIは,いずれも文章の最後の部分に当たる内容であり,これらの侵入は文末効果によるものであると推測できる。以上の結果により,侵入は用いた文章の特異性だけで説明されるものではないが,文末効果といった文章構成上の要因に影響を受け得るものであることが確認された。
舛田・工藤(2017)は,説明的文章において不適切な読解の生じる原因の1つとして,当該の文章に記述のある情報と,それに触発された想念(解釈・感想・意見・連想等)の間の線引きが不十分であり,読解表象の形成過程において,本来持ち込まれるべきではないこれらの想念の「侵入」を許した可能性を指摘した。ところで,前述の先行研究で用いた文章はやや構成が特異であり,文章の主旨とは直接関連しないが印象的であるエピソードが文末にある。このため,読者がそれに引きずられ,触発されて侵入が生じた可能性は捨てきれない。加えて読者が,それまでの学校教育の中で培われたと考えられる「説明文の要点は文末にあり」といった方略を単純に適用した結果(以下「文末効果」)とも考えられる。そこで本研究では,元の文章の文末のエピソードの位置を変更し,文章の主旨により合致した記述が文末にくるよう文章構成を加工した場合の侵入への影響を検討する。これにより,侵入が,単に文章が持つ特異性に誘発されたものか否かについて明らかにすることが目的である。併せて,「文末効果」がどの程度侵入に影響しうるかについても探索的な検討を行う。
方 法
1) 材料文 材料文の題材は,舛田・工藤(2017)で用いた解説記事の順序を上述の目的に添って入れ替えたものである。入れ替え後の文章の構成は,(1)電車内等では心臓ペースメーカー(PM)に配慮して携帯電話の電源を切るよう示されるため,携帯がかなり危険であるとの印象を受ける。(2)PM利用者友の会は携帯の電波は影響しないとしている。PMと携帯には安全距離22cm(2008年)があるが,最近の機種では影響はなく,PM利用者自身も携帯を使用している。(3)22cmの算出根拠と,むしろ日常的には他の家電品などに携帯よりもPMに悪影響なものがある事の提示。(4) PMの現機種ではほとんど携帯の影響はない,あっても瞬間的に影響するだけであり,このように注意を促すのは日本だけ,となっている。2017年版では下線部が文末に来ていた。この材料文の主旨は,「文章中に挙げられている複数の理由から,携帯の電波はPMにとって危険ではない」と捉えるのが妥当である。2) 質問紙の構成 1.重要個所と気になる箇所の把握 この文章を理解する上で重要だと感じる箇所と,個人的に気になる箇所を区別して抽出させた。2. 文章全体の読解表象の把握 「文章が全体として説明・解説・知らせようとしている事」を自由に記述させた。3) 研究参加者と実施の手続き 文系の私立大学生94名に対し,2018年1月に実施。上述の質問紙を各自のペースで読み進め,回答してもらった。
結果と考察
記入漏れ等はなく,94名全員が分析の対象となった。研究者2名が独立に,読解表象を「適切(要点と文章に明確に記述があることのみを記述)」,「許容(要点に加えそれ以外の記述が含まれるが,文章から読み取れる内容と判断される)」,「不適切(それ以外)」の3分類で判断した後,不一致の部分は合議によって調整した(一致率81.9%)。適切と判断されたのは32名(34.0%/前研究19.8%),許容は20名(21.3%/同10.5%),不参考適切は42名(44.7%/同69.8%)であった。不適切とされる記述は前研究よりは2割程度減少したが,依然40%以上の学習者がそれに該当し,侵入の生起が改めて観察された。さらに舛田・工藤(2017)に倣い,「不適切」の32名分の記述を同様にカテゴリー化し,カテゴリーごとの件数を比較した(下図)。前研究と比べ,A:電車内でのアナウンスに対する疑問・批判がやや減少(30.9%→21.9%)したのに対し,G:情報リテラシー(4.8%→25.0%)やI:日本の特殊性(4.8%→31.3%)は大幅に増加した。また,C:携帯電話の使用マナー,E:PMの進歩,F:記事の真実性に対する疑問は今回は見られなかった。増加したGおよびIは,いずれも文章の最後の部分に当たる内容であり,これらの侵入は文末効果によるものであると推測できる。以上の結果により,侵入は用いた文章の特異性だけで説明されるものではないが,文末効果といった文章構成上の要因に影響を受け得るものであることが確認された。