[PG23] 複数テキストの理解を促す指導法
メンタルモデルのアップデートに焦点を当てて
キーワード:複数テキスト, テキスト理解, メンタルモデル
問題と目的
私達は日常生活の中でさまざまな疑問を抱き,その解決のために情報を検索している。情報は書籍やインターネットなどあらゆる所に見出されるが,必要な全ての情報が一カ所に集まって存在していることはまずない。そのため,断片的な情報をつなぎ合わせたり,時には互いに矛盾し合っている情報の整合性をつけたりしながら,統合的な理解を形成することが必要となる。
こうした複数テキストの理解を促す核となるのは,メンタルモデルのアップデートである(Rouet & Britt,2011)。すなわち,抱いた疑問が解決された状態と自身の現在の理解状態(メンタルモデル)の差を把握し,1つのテキストを読むごとにその差がどう埋められたのかを確認することが肝要である。この点を重視して,本研究では,複数テキストの理解を促す指導法を提案し,その効果を検討することを目的とする。
方 法
対象者 大学生45名が参加した。
提案する指導法の概要 以下に記す。なお,複数のテキストを読むことや自身の理解状態を意識することの負荷の高さを考慮し,グループワークを取り入れた。(1)課題解決のための情報取得:5人1組のグループを形成する。グループに対し,ある課題(例として「早期教育の是非について述べよ」)のもと,5つのテキストを渡す(各テキストは,取り上げた課題に関する論文や専門書を参考に,1000~1200字程度で作成された)。グループメンバーは,一人1つのテキストの読解を担当する。(2)メンタルモデルのアップデート:読んだテキストについてグループメンバーで説明し合う。その際,1つのテキストが説明されるごとに,その時点での理解状態の確認を促す質問を与え,解答を作成させる。質問は「課題に解答するにあたって,このテキストからわかることは何か」と「既に説明されたテキストと今回説明されたテキストとの関係を記せ」の2問である。(3)課題解決:課題の解答を作成させる。
効果の測定 対象者を2群に分けた。そのうちの1群は,提案する指導法下で複数テキストの読解を2回行った。もう1群は,1回目の読解時には提案する指導法にあるような特段の質問は与えられず,グループで自由にテキストの相互説明を行った。2回目は提案する指導法を受けた。
全ての対象者は,1回目の読解前と後,2回目の読解後に,個人で複数テキスト読解に取り組んだ。グループで読んだテキストとは別の複数テキストを読み,理解度を問うテストに解答した。テストは,1つのテキストの情報から解答できるもの(単数テキスト理解テスト)と,複数のテキストの情報を統合しなくてはならないもの(複数テキスト理解テスト)の2つで構成されていた。複数テキストは3種類用意し,実施順のカウンターバランスをとった。
なお,本研究は東京未来大学倫理審査委員会で承認を受けて実施された。
結果と考察
研究への参加に同意し,全ての過程に参加した者を分析対象とした。テストの結果をTable 1に示す。2つのテストの各得点について,群×テスト時期のテスト時期を対象者内要因とする2要因混合計画分散分析を行った。その結果,複数テキスト理解テストにおいて,テスト時期の主効果(F(2, 60)=8.64, p<.01)が見られた。多重比較の結果,1回目の読解前より1回目の読解後や2回目の読解後の得点が高かった(p<.01)。
以上のことから,複数テキストの読解を重ねることで,そうした読解に熟達していくことが明らかとなった。その際,提案した指導法を行うことについては,群×テスト時期の交互作用は見られなかったものの,1回目の読解前に見られた群間差(1,2回目ともに指導した群の方が,得点が低かった)が,1回目の読解後には小さくなっていることを考慮すると,有効であると捉えることもできよう。指導時のグループメンバーのやりとりを分析し,指導効果についてより詳細な検討を行うことが今後の課題である。
私達は日常生活の中でさまざまな疑問を抱き,その解決のために情報を検索している。情報は書籍やインターネットなどあらゆる所に見出されるが,必要な全ての情報が一カ所に集まって存在していることはまずない。そのため,断片的な情報をつなぎ合わせたり,時には互いに矛盾し合っている情報の整合性をつけたりしながら,統合的な理解を形成することが必要となる。
こうした複数テキストの理解を促す核となるのは,メンタルモデルのアップデートである(Rouet & Britt,2011)。すなわち,抱いた疑問が解決された状態と自身の現在の理解状態(メンタルモデル)の差を把握し,1つのテキストを読むごとにその差がどう埋められたのかを確認することが肝要である。この点を重視して,本研究では,複数テキストの理解を促す指導法を提案し,その効果を検討することを目的とする。
方 法
対象者 大学生45名が参加した。
提案する指導法の概要 以下に記す。なお,複数のテキストを読むことや自身の理解状態を意識することの負荷の高さを考慮し,グループワークを取り入れた。(1)課題解決のための情報取得:5人1組のグループを形成する。グループに対し,ある課題(例として「早期教育の是非について述べよ」)のもと,5つのテキストを渡す(各テキストは,取り上げた課題に関する論文や専門書を参考に,1000~1200字程度で作成された)。グループメンバーは,一人1つのテキストの読解を担当する。(2)メンタルモデルのアップデート:読んだテキストについてグループメンバーで説明し合う。その際,1つのテキストが説明されるごとに,その時点での理解状態の確認を促す質問を与え,解答を作成させる。質問は「課題に解答するにあたって,このテキストからわかることは何か」と「既に説明されたテキストと今回説明されたテキストとの関係を記せ」の2問である。(3)課題解決:課題の解答を作成させる。
効果の測定 対象者を2群に分けた。そのうちの1群は,提案する指導法下で複数テキストの読解を2回行った。もう1群は,1回目の読解時には提案する指導法にあるような特段の質問は与えられず,グループで自由にテキストの相互説明を行った。2回目は提案する指導法を受けた。
全ての対象者は,1回目の読解前と後,2回目の読解後に,個人で複数テキスト読解に取り組んだ。グループで読んだテキストとは別の複数テキストを読み,理解度を問うテストに解答した。テストは,1つのテキストの情報から解答できるもの(単数テキスト理解テスト)と,複数のテキストの情報を統合しなくてはならないもの(複数テキスト理解テスト)の2つで構成されていた。複数テキストは3種類用意し,実施順のカウンターバランスをとった。
なお,本研究は東京未来大学倫理審査委員会で承認を受けて実施された。
結果と考察
研究への参加に同意し,全ての過程に参加した者を分析対象とした。テストの結果をTable 1に示す。2つのテストの各得点について,群×テスト時期のテスト時期を対象者内要因とする2要因混合計画分散分析を行った。その結果,複数テキスト理解テストにおいて,テスト時期の主効果(F(2, 60)=8.64, p<.01)が見られた。多重比較の結果,1回目の読解前より1回目の読解後や2回目の読解後の得点が高かった(p<.01)。
以上のことから,複数テキストの読解を重ねることで,そうした読解に熟達していくことが明らかとなった。その際,提案した指導法を行うことについては,群×テスト時期の交互作用は見られなかったものの,1回目の読解前に見られた群間差(1,2回目ともに指導した群の方が,得点が低かった)が,1回目の読解後には小さくなっていることを考慮すると,有効であると捉えることもできよう。指導時のグループメンバーのやりとりを分析し,指導効果についてより詳細な検討を行うことが今後の課題である。