The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

Mon. Sep 17, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG28] 協同的な学習意識を育むスキルトレーニングの開発(3)

トレーニング実施有無による学習観の変化の比較

中山留美子1, 解良優基2 (1.奈良教育大学, 2.南山大学)

Keywords:社会的(傾聴)スキル, 学習観

問題と目的
 協同学習の理論では,教育者が社会的スキルを教授したり積極的に強化したりすることが,協同成立のための「要件」であるとされている。スキルの向上は,学習者が他者から有益な情報を引き出すことにつながり,学習集団内で有益な情報が活発に交わされることで,学びの質を高めると考えられる。また,スキルが効果的に発揮され,質の高い学びが行われている集団のなかでは,学習者の学習に対する認識(学習観)がお互いに学びを得ようとするような関係的な認識に変容し,学びの集団の質が高まることも考えられる。しかし,スキルの教授や支援が学習者の学習観の変化にどのように影響するのかということについて,実証的に検討した例は見当たらない。
 本研究は,社会的スキル(特に傾聴のスキル)の訓練の導入前後のデータを比較し,この点について検討を行うことを目的とした。

方  法
使用した尺度 関係的な学習観の尺度として,Galitti et al.(1999)による Attitudes Toward Thinking and Learning Survey(ATTLS)のConnected Knowing items10項目を用いた。調査対象【トレーニング実施群】傾聴スキルトレーニング(解良・中山,2017)を導入した大学授業の受講者に協力を呼びかけ,366名(2年間での受講者)を対象とした。【対照群】トレーニング実施を導入する前年の同授業受講者121名に対して,授業の効果測定のための調査として協力を依頼し調査を実施した。調査の時期 初回と授業中盤である第8回または第9回,授業最終回の第15回授業後の3回,測定を行った。

結  果
 まず学習観の尺度であるATTLESについて,再度因子分析を行って,因子構造の確認を行い,2因子構造が妥当と判断した。2因子は主に他者の意見への関心を示す内容の項目からなる因子と,他者の視点に立って考えてみるという内容の項目からなる因子であると解釈され,それぞれ「関心」,「視点取得」と命名し,各因子に高い負荷を示す項目群により下位尺度得点を算出した(「関心」は5項目でα=.67-73,「視点取得」は3項目でα=.66-.70)。
 次に,これら学習観の時期ごとの各下位尺度得点がスキルトレーニングの実施有無によりどのように異なるかを検討するため,2要因混合計画による分散分析を行った。その結果,「関心」については時期とトレーニング実施有無の有意な交互作用がみられ(F=3.17, p<.05),下位検定の結果,3時点目(授業終了後)の「関心」得点がトレーニング実施群において有意に高いことが明らかになった(F=4.36, p<.05)。また,トレーニング実施群において,初回と2時点目より,3時点目の得点が高いことが明らかになった(F=5.39, p<.01)。
 「視点取得」については,トレーニング実施群が初回調査時点において既に得点が高く,その後の時点でも全体的に得点が高い傾向が示され,時期の主効果は有意であったものの(F=11.26, p<.001),有意な交互作用はみられなかった(Figure 1)。初回から得点差があったことを考慮し,初回得点を共変量とする共分散分析を行ったところ,授業中盤,最終回の両得点とも,初回得点の効果を取り除いても,トレーニングの効果が有意であることが示された(トレーニングの効果はそれぞれF=8.00,p=.005;F=6.06, p=.015)。

考  察
 傾聴スキルの訓練は,他者の意見に対する関心や視点取得を高める結果につながることが示唆された。関心は最終回のデータのみで差がみられたが,スキル訓練は段階を追って行われており,スキルが本人の態度的な部分を変化させるには,一定の実践の蓄積や時間が必要であると考えられる。今後,スキルの修得が意識や行動を変容させるプロセスについて,詳細な検討が必要であろう。