[PG29] やりとりの中でいかに個の考えを改め,知の獲得へと繋げていくか
キーワード:協同活動, 感情, 知識獲得
目 的
これまでの多くの研究で,他者とやりとりしながら課題に取り組む方が,単独で取り組むよりも,それ以前に持っていなかった課題に対する新たな見方,考え方などを獲得しやすくなることが示されており,知識獲得におけるやりとりの重要性が明らかになってきている。例えば,やりとりの中で他者から自分の考え等が褒められ,やりとりに対するポジティブ感情が生起することで,やりとりに積極的に参加する態度が生まれ,知識構成がスムーズに行われるようになることが明らかとなっている(奈田・堀・丸野,2012)。しかしながら,現実場面におけるやりとりでは,個が誤った考えを言うこともあり,その場合は,その考えを正すことが重要となる。やりとりの中で,他者は,個の考えを褒めるばかりではないのである。さらに,この自己の考えが正されるということはネガティブ感情を生起させやすくなるが,ネガティブ感情は,個に,より精緻な情報処理を行わせるといった特性(Forgas,2006)を持っている。知識構成においてはネガティブ感情も重要なものとなるのである。そこで,本研究は,このやりとりの中で生起するネガティブ感情が如何に個の知識構成を促すことになるのかを検討していく。
方 法
実験参加者:小学校3年生16名(NP条件:8名,/PN条件:8名)。
手続き:指定された複数の品物を購入できる最短ルートを考える“買い物課題(Radziszewska & Rogoff,1988,1991)”をプレテスト(単独学習),感情生起セッション(ネガティブ→ポジティブ;NP条件/ポジティブ→ネガティブ;PN条件),感情生起確認テスト,協同活動セッション,ポストテスト(単独学習)という流れで行った。感情生起セッションでは,やりとりの中で示された参加者の考えを褒めるか否定するかして,参加者の中に生起する感情の質を変化させた。また,感情生起確認テストは,日本語版児童用正負感情尺度(PANAS-C; Yamasaki,Katsuma,& Sakai,2006)を改変して用いた。
結 果
感情生起程度:条件ごとに生起したポジティブ感情の平均生起程度に関しては,NP条件で2.90,PN条件で2.92であり,どちらの条件もほぼ同じくらい生起させていた。一方,ネガティブ感情の平均
生起程度に関しては,NP条件で1.69,PN条件で1.25であり,若干,NP条件の方が多く生起させていたことが判明した。
課題の学習の程度:課題の学習の程度と関連して,まず,実験参加者一人で課題を行った(プレテストとポストテスト)際の課題パフォーマンス(品物を全て買って家まで戻ってくるまでの距離)から,課題を最適に行った際のパフォーマンスを引いたものを“余分にかかった距離”として算出した。その上で,“プレテストの時の余分にかかった距離”から“ポストテストの時の余分にかかった距離”を引いた値を課題の学習の程度を示す値とした。その結果,NP条件が14.1で,PN条件が5.2であり,やりとりを通した学習の程度はNP条件の方が高かったことが判明した。
考 察
まず,NP条件から述べていくと,この条件では,最初は自分の考えた課題の解き方が否定されることになる。そのため,この条件の参加者は,多少のネガティブ感情を生起させる。しかしながら,この条件は,その後,自分の解き方が否定された理由を考え,修正し,新たな解き方としてそれを調査者に示した際に,その考えが褒められることとなる。そのため,結果的に,考えを修正していく行為の重要性などを認識でき,そういった行為を一人で課題を行う際にも使用できるようになる。こういったことから,この条件の実験参加者は,2回目の課題はより適切に遂行できるようになったと考えられる。次に,PN条件に関していえば,この条件では,自分の考えた課題の解き方を最初は褒められるが,途中から否定されることになる。そのため,課題への積極性も高まらないばかりか,自分の考えを修正して示していくこともあまりできない。こういったことから,この条件の参加者は,どのような課題の解き方や考え方が適当なのかをつかめず,あまり学習を進めることができなかったと考えられる。つまり,本研究は,やりとりを通して子どもの学習を促していくためには,子どもの言動を褒め,子どもの課題に対する積極的態度(やる気)を引き出していくことが重要であるのと同時に,子どもの考えを改めさせた後は,子どもの修正した考えをきちんと認めてあげることも重要であることを示していると言える。
これまでの多くの研究で,他者とやりとりしながら課題に取り組む方が,単独で取り組むよりも,それ以前に持っていなかった課題に対する新たな見方,考え方などを獲得しやすくなることが示されており,知識獲得におけるやりとりの重要性が明らかになってきている。例えば,やりとりの中で他者から自分の考え等が褒められ,やりとりに対するポジティブ感情が生起することで,やりとりに積極的に参加する態度が生まれ,知識構成がスムーズに行われるようになることが明らかとなっている(奈田・堀・丸野,2012)。しかしながら,現実場面におけるやりとりでは,個が誤った考えを言うこともあり,その場合は,その考えを正すことが重要となる。やりとりの中で,他者は,個の考えを褒めるばかりではないのである。さらに,この自己の考えが正されるということはネガティブ感情を生起させやすくなるが,ネガティブ感情は,個に,より精緻な情報処理を行わせるといった特性(Forgas,2006)を持っている。知識構成においてはネガティブ感情も重要なものとなるのである。そこで,本研究は,このやりとりの中で生起するネガティブ感情が如何に個の知識構成を促すことになるのかを検討していく。
方 法
実験参加者:小学校3年生16名(NP条件:8名,/PN条件:8名)。
手続き:指定された複数の品物を購入できる最短ルートを考える“買い物課題(Radziszewska & Rogoff,1988,1991)”をプレテスト(単独学習),感情生起セッション(ネガティブ→ポジティブ;NP条件/ポジティブ→ネガティブ;PN条件),感情生起確認テスト,協同活動セッション,ポストテスト(単独学習)という流れで行った。感情生起セッションでは,やりとりの中で示された参加者の考えを褒めるか否定するかして,参加者の中に生起する感情の質を変化させた。また,感情生起確認テストは,日本語版児童用正負感情尺度(PANAS-C; Yamasaki,Katsuma,& Sakai,2006)を改変して用いた。
結 果
感情生起程度:条件ごとに生起したポジティブ感情の平均生起程度に関しては,NP条件で2.90,PN条件で2.92であり,どちらの条件もほぼ同じくらい生起させていた。一方,ネガティブ感情の平均
生起程度に関しては,NP条件で1.69,PN条件で1.25であり,若干,NP条件の方が多く生起させていたことが判明した。
課題の学習の程度:課題の学習の程度と関連して,まず,実験参加者一人で課題を行った(プレテストとポストテスト)際の課題パフォーマンス(品物を全て買って家まで戻ってくるまでの距離)から,課題を最適に行った際のパフォーマンスを引いたものを“余分にかかった距離”として算出した。その上で,“プレテストの時の余分にかかった距離”から“ポストテストの時の余分にかかった距離”を引いた値を課題の学習の程度を示す値とした。その結果,NP条件が14.1で,PN条件が5.2であり,やりとりを通した学習の程度はNP条件の方が高かったことが判明した。
考 察
まず,NP条件から述べていくと,この条件では,最初は自分の考えた課題の解き方が否定されることになる。そのため,この条件の参加者は,多少のネガティブ感情を生起させる。しかしながら,この条件は,その後,自分の解き方が否定された理由を考え,修正し,新たな解き方としてそれを調査者に示した際に,その考えが褒められることとなる。そのため,結果的に,考えを修正していく行為の重要性などを認識でき,そういった行為を一人で課題を行う際にも使用できるようになる。こういったことから,この条件の実験参加者は,2回目の課題はより適切に遂行できるようになったと考えられる。次に,PN条件に関していえば,この条件では,自分の考えた課題の解き方を最初は褒められるが,途中から否定されることになる。そのため,課題への積極性も高まらないばかりか,自分の考えを修正して示していくこともあまりできない。こういったことから,この条件の参加者は,どのような課題の解き方や考え方が適当なのかをつかめず,あまり学習を進めることができなかったと考えられる。つまり,本研究は,やりとりを通して子どもの学習を促していくためには,子どもの言動を褒め,子どもの課題に対する積極的態度(やる気)を引き出していくことが重要であるのと同時に,子どもの考えを改めさせた後は,子どもの修正した考えをきちんと認めてあげることも重要であることを示していると言える。