[PG31] 小学生の約分のつまずきに関する研究
キーワード:約分, 算数, 分数の計算
問題と目的
本研究は,小学5年3学期に学習する「分数のかけ算・わり算」を指導する過程において,計算途中で約分をしたがらない児童の姿に着目し, 誤りのなかに子どもが持っている知識が反映されている(吉田・栗山,1992)ことを重視しながら,約分についての児童の認識のありようを明らかにすることを目的としていた実践研究である。
大きな数を学習するとき,子どもたちは既に獲得している概念を拡張しながら学習を積み重ねていく(大西,2016)。分数や約分についてはどうだろうか。分数は,2つの数字で1つの量を表すため,量として捉えにくい面がある。そこにかけ算やわり算が加わってくるため,拡張という言葉では表しきれないのではないかと推察する。
明らかになった事実を日々の指導にフィードバックすること,また5年生と6年生の学習をつなぐことを目指したい。
方 法
調査協力者 公立小学校の6年生90名
手続き 2018年4月。分数を中心とした4つの課題のテストを行った。
課題の概要 (1) 3/6と1/2は同じ量か。また,その理由の説明。(2) 2つの数の公約数・最大公約数を求める課題10問。(3) 分数×整数・分数÷整数の計算問題12問。問題の構成は,①約分なし(4/7×3,1/3÷4),②約分する数の最大公約数が明示されている(例4/5×10,4/7÷8),③約分する数の公約数は明示されていないが,九九の範疇を超えない数(例7/12×18,10/9÷6),④約分する数の公約数は明示されておらず,九九の範疇を超えている(例2/15×105,96/9÷12)。(4) 約分は計算の途中と最後のどちらでするのが好きか。また,その理由の説明。
結 果
課題(1) ほとんどの児童が同じ量であると解答した。しかし,同じ量だと答えた児童の中には,1/2を3倍すると3/6になるからなど,説明が正確でない児童も見られた。
課題(2) 5年生の2学期に学習した内容である。全問正解した児童は90名のうち18名(20%)。2つの数の約数を見比べるという操作の難しさとともに学習してから時間が経っていることも,全問正解者数の低さの要因として考えられる。
課題(3) かけ算の問いに全問正解したのは90名のうち43名(47.8%),わり算は53名(58.9%)であった。なお,解答に際しては仮分数を帯分数にすることは求めなかった。
最後に約分することにこだわり,何度も=を書きながら約分をしていく児童や分母と分子が大きな数になり,約分できることに気がつかない児童も見られた。
課題(4) 「途中で約分する方が好き」と解答した児童は90名のうち69名(76.7%),「最後に約分する方が好き」と解答した児童は18名(20%),「両方」と解答した児童は3名(3.3%)であった。
・途中で約分する方が好きな理由:「途中で約分する方が,最後に約分するよりも数字が小さくて計算が楽になる」「小さい数なので約数が見つかりやすい」「途中で約分すると忘れない」「最後に約分すると何度も『=』を書かなくてはいけない,スペースを取る」など
・最後に約分する方が好きな理由:「最後の方が自分は分かりやすい」「最初に習ったのが最後に約分するやり方だったから」「途中に約分するとややこしい,わけが分からなくなる」「最後の方が場所をとらない」「最後にゆっくり考えると気持ちがいい」
・「両方」と答えた理由:「途中で約分しているが,分からなくなったら最後にしている」「小さい数字の時は,最後に約分してもしやすさは変わらない」「かけ算だったら最後がやりやすくて,わり算だったら途中がやりやすい」など
考 察
課題(1)(2)の結果から,すべての公約数や最大公約数を正確に求められなくても,計算の過程で約分はできるということが明らかになった。
そして,課題(3)(4)を比較してみると,(3)では途中で約分していても(4)では最後に約分するのが好きと答えている,またその逆のパターンの児童も見られた。操作活動の便利さと情意が必ずしも一致していないことが伺える。また,課題(4)からは,児童の多様な認識のありようが明らかになった。今回の調査から明らかになった事実を今学期の指導に生かすとともに,さらに分析・考察を深めていきたい。
引用文献
吉田 甫・栗山和広(1992). 教室でどう教えるか どう学ぶか 認知心理学からの教育方法論 北大路書房
本研究は,小学5年3学期に学習する「分数のかけ算・わり算」を指導する過程において,計算途中で約分をしたがらない児童の姿に着目し, 誤りのなかに子どもが持っている知識が反映されている(吉田・栗山,1992)ことを重視しながら,約分についての児童の認識のありようを明らかにすることを目的としていた実践研究である。
大きな数を学習するとき,子どもたちは既に獲得している概念を拡張しながら学習を積み重ねていく(大西,2016)。分数や約分についてはどうだろうか。分数は,2つの数字で1つの量を表すため,量として捉えにくい面がある。そこにかけ算やわり算が加わってくるため,拡張という言葉では表しきれないのではないかと推察する。
明らかになった事実を日々の指導にフィードバックすること,また5年生と6年生の学習をつなぐことを目指したい。
方 法
調査協力者 公立小学校の6年生90名
手続き 2018年4月。分数を中心とした4つの課題のテストを行った。
課題の概要 (1) 3/6と1/2は同じ量か。また,その理由の説明。(2) 2つの数の公約数・最大公約数を求める課題10問。(3) 分数×整数・分数÷整数の計算問題12問。問題の構成は,①約分なし(4/7×3,1/3÷4),②約分する数の最大公約数が明示されている(例4/5×10,4/7÷8),③約分する数の公約数は明示されていないが,九九の範疇を超えない数(例7/12×18,10/9÷6),④約分する数の公約数は明示されておらず,九九の範疇を超えている(例2/15×105,96/9÷12)。(4) 約分は計算の途中と最後のどちらでするのが好きか。また,その理由の説明。
結 果
課題(1) ほとんどの児童が同じ量であると解答した。しかし,同じ量だと答えた児童の中には,1/2を3倍すると3/6になるからなど,説明が正確でない児童も見られた。
課題(2) 5年生の2学期に学習した内容である。全問正解した児童は90名のうち18名(20%)。2つの数の約数を見比べるという操作の難しさとともに学習してから時間が経っていることも,全問正解者数の低さの要因として考えられる。
課題(3) かけ算の問いに全問正解したのは90名のうち43名(47.8%),わり算は53名(58.9%)であった。なお,解答に際しては仮分数を帯分数にすることは求めなかった。
最後に約分することにこだわり,何度も=を書きながら約分をしていく児童や分母と分子が大きな数になり,約分できることに気がつかない児童も見られた。
課題(4) 「途中で約分する方が好き」と解答した児童は90名のうち69名(76.7%),「最後に約分する方が好き」と解答した児童は18名(20%),「両方」と解答した児童は3名(3.3%)であった。
・途中で約分する方が好きな理由:「途中で約分する方が,最後に約分するよりも数字が小さくて計算が楽になる」「小さい数なので約数が見つかりやすい」「途中で約分すると忘れない」「最後に約分すると何度も『=』を書かなくてはいけない,スペースを取る」など
・最後に約分する方が好きな理由:「最後の方が自分は分かりやすい」「最初に習ったのが最後に約分するやり方だったから」「途中に約分するとややこしい,わけが分からなくなる」「最後の方が場所をとらない」「最後にゆっくり考えると気持ちがいい」
・「両方」と答えた理由:「途中で約分しているが,分からなくなったら最後にしている」「小さい数字の時は,最後に約分してもしやすさは変わらない」「かけ算だったら最後がやりやすくて,わり算だったら途中がやりやすい」など
考 察
課題(1)(2)の結果から,すべての公約数や最大公約数を正確に求められなくても,計算の過程で約分はできるということが明らかになった。
そして,課題(3)(4)を比較してみると,(3)では途中で約分していても(4)では最後に約分するのが好きと答えている,またその逆のパターンの児童も見られた。操作活動の便利さと情意が必ずしも一致していないことが伺える。また,課題(4)からは,児童の多様な認識のありようが明らかになった。今回の調査から明らかになった事実を今学期の指導に生かすとともに,さらに分析・考察を深めていきたい。
引用文献
吉田 甫・栗山和広(1992). 教室でどう教えるか どう学ぶか 認知心理学からの教育方法論 北大路書房