[PG33] 中学校理科に対する動機づけの発達的変化と心的イメージ能力による影響
キーワード:理科, 動機づけ, 心的イメージ
問題と目的
近年の研究によって,空間イメージ能力の個人差がSTEM(Science Technology Engineering and Mathematics)領域の学業達成や動機づけをかなり鋭敏に予測することが示されている(e.g., 原田・鈴木,2018; Shea, Lubinski & benbow, 2001; Wai, Lubinski & Benbow, 2009)。その影響力は学校教育の比較的早い段階で観察され,中学校理科の段階で関連性が検出される(Ganley, Vasilyeva & Dulaney, 2014; Stavridou & Kakana, 2008)。
原田・鈴木(2017)が横断的研究を行った結果,本邦の中学校3年生では先行研究と同様に心的回転課題(Mental Rotation Test; 以下,MRT)が理科の統制感と有意な相関を持つのに対し,入学直後の中学校1年生では相関が検出されないことを報告している。同時に1年生では心的イメージの鮮明度と統制感が関連することを見出しており,小学校理科と中学校理科で要求される心的イメージ処理に差異があることを示している。
これらの研究結果は中学校理科で要求される認知的処理の特徴を明らかにしたものといえ,低い空間イメージ能力を持つ生徒ほど中学校理科でつまずきを経験しやすく,動機づけが低減し理科を忌避する傾向があると予想される。
そこで本研究は,心的イメージ能力の個人差が中学校理科に対する動機づけの発達的変化に与える影響を検討することを目的とした。
方 法
北海道の公立中学校の1年生を対象とした(108名:男子44名,女子64名)。調査時期は4月初頭(T1),10月末(T2),2月末(T3)であった。
測定変数
VVIQ:VVIQの日本語版(菱谷,2005)を実施した。VVIQは心的イメージ能力の鮮明性の指標である。MRT:Vandenberg & Kuse(1978)によるMRTを実施した。MRTは空間イメージ能力の指標である。理科に対する統制感:鈴木(1996)によって作成された統制感尺度を実施した。4項目5件法。理科に対する興味価値:解良・中谷(2014)によって作成された尺度のうち興味価値の下位尺度を実施した。4項目5件法。
手続き
T1では全変数,T2,T3では統制感と興味価値を測定した。学校長より研究実施の許可を得た。
結果と考察
統制感および興味価値の各測定時点での測定値をTable 1に示した。測定値の推移より,両変数とも時間経過とともに低減し,また分散が拡大する傾向があることが推察される。
統制感および興味価値の発達的変化を表す潜在曲線モデルの結果をTable 2に示した(傾きの母数はT1:0,T2:7,T3:11)。両変数の傾きの平均値が負であることから,中学校入学以降の1年間で理科の動機づけが低減する傾向があるといえる。また,切片および傾きの分散が有意であることから,両動機づけ変数の初期値および変化パターンには個人差があるといえる。
続いて,心的イメージ能力が中学校理科に対する動機づけの発達的変化に及ぼす影響を検討するため,VVIQとMRTを説明変数,動機づけ変数の切片と傾きを目的変数とする条件付き潜在曲線モデルによる分析を行った。
統制感では,切片に対してVVIQが(b = 0.02, SE = 0.00, p<.001),傾きに対してMRTが(b = 0.01, SE = 0.00, p = .001)影響を与えていた(CFI = .99, TLI = .98, RMSEA = .06)。一方,興味価値においてVVIQやMRTによる影響はなかった(CFI = 1.00, TLI = 1.02, RMSEA = .00)。この結果から,中1の理科学習から低い空間イメージ能力を持つ生徒ほど学習に困難を知覚しやすいといえる。
近年の研究によって,空間イメージ能力の個人差がSTEM(Science Technology Engineering and Mathematics)領域の学業達成や動機づけをかなり鋭敏に予測することが示されている(e.g., 原田・鈴木,2018; Shea, Lubinski & benbow, 2001; Wai, Lubinski & Benbow, 2009)。その影響力は学校教育の比較的早い段階で観察され,中学校理科の段階で関連性が検出される(Ganley, Vasilyeva & Dulaney, 2014; Stavridou & Kakana, 2008)。
原田・鈴木(2017)が横断的研究を行った結果,本邦の中学校3年生では先行研究と同様に心的回転課題(Mental Rotation Test; 以下,MRT)が理科の統制感と有意な相関を持つのに対し,入学直後の中学校1年生では相関が検出されないことを報告している。同時に1年生では心的イメージの鮮明度と統制感が関連することを見出しており,小学校理科と中学校理科で要求される心的イメージ処理に差異があることを示している。
これらの研究結果は中学校理科で要求される認知的処理の特徴を明らかにしたものといえ,低い空間イメージ能力を持つ生徒ほど中学校理科でつまずきを経験しやすく,動機づけが低減し理科を忌避する傾向があると予想される。
そこで本研究は,心的イメージ能力の個人差が中学校理科に対する動機づけの発達的変化に与える影響を検討することを目的とした。
方 法
北海道の公立中学校の1年生を対象とした(108名:男子44名,女子64名)。調査時期は4月初頭(T1),10月末(T2),2月末(T3)であった。
測定変数
VVIQ:VVIQの日本語版(菱谷,2005)を実施した。VVIQは心的イメージ能力の鮮明性の指標である。MRT:Vandenberg & Kuse(1978)によるMRTを実施した。MRTは空間イメージ能力の指標である。理科に対する統制感:鈴木(1996)によって作成された統制感尺度を実施した。4項目5件法。理科に対する興味価値:解良・中谷(2014)によって作成された尺度のうち興味価値の下位尺度を実施した。4項目5件法。
手続き
T1では全変数,T2,T3では統制感と興味価値を測定した。学校長より研究実施の許可を得た。
結果と考察
統制感および興味価値の各測定時点での測定値をTable 1に示した。測定値の推移より,両変数とも時間経過とともに低減し,また分散が拡大する傾向があることが推察される。
統制感および興味価値の発達的変化を表す潜在曲線モデルの結果をTable 2に示した(傾きの母数はT1:0,T2:7,T3:11)。両変数の傾きの平均値が負であることから,中学校入学以降の1年間で理科の動機づけが低減する傾向があるといえる。また,切片および傾きの分散が有意であることから,両動機づけ変数の初期値および変化パターンには個人差があるといえる。
続いて,心的イメージ能力が中学校理科に対する動機づけの発達的変化に及ぼす影響を検討するため,VVIQとMRTを説明変数,動機づけ変数の切片と傾きを目的変数とする条件付き潜在曲線モデルによる分析を行った。
統制感では,切片に対してVVIQが(b = 0.02, SE = 0.00, p<.001),傾きに対してMRTが(b = 0.01, SE = 0.00, p = .001)影響を与えていた(CFI = .99, TLI = .98, RMSEA = .06)。一方,興味価値においてVVIQやMRTによる影響はなかった(CFI = 1.00, TLI = 1.02, RMSEA = .00)。この結果から,中1の理科学習から低い空間イメージ能力を持つ生徒ほど学習に困難を知覚しやすいといえる。