[PG43] 遠征教育参加者に起きた心理的変化の検討
Keywords:遠征教育, 社会人教育, 前後比較
問題と目的
「遠征教育(expedition learning)」とは,自己洞察を行い,気づきを高めたり自己成長を目指したりすることを目的として,国内外の自然に出向き,野外活動を通して行うメンタリング活動の手法がある。第二筆者は,遠征教育の一環として海外での野外活動を行っている。例えば,2016年にはアメリカ合衆国のヨセミテ国立公園に少人数のグループで出向き,5泊6日で高地でのテント泊,野外炊事,トレッキング等の野外活動,体験の記録,グループでのシェアリングを行っている。
その目的や方法はファシリテータによって様々と思われるが,概ね次の3点が起きるのではないかと考えられる。①日常生活と異なる環境で過ごすことによる刺激が,感覚の活性化,感情の開放や安定,新しい思考を生むなどの効果を得られる。②自分が所属する集団から離れて与えられる課題に取り組むというある種の危機的状況を乗り越えることによって成長が得られる。③ファシリテータや他の参加者と同じ体験をすることで,他者との共感や協働を体験する。
ただ,遠征教育の効果については,具体的にどのような変化が起きるのかということを客観的に測定する必要があるのではないかと考える。それは,人はそれぞれ違うため,ファシリテータが想定しない体験をしている参加者がいても不思議ではないからである。
本研究では,第二発表者がファシリテータを務めた遠征教育の研修会に参加した成人に起きた体験前後の変化を,生き方や他者との付き合い方に注目して,質問紙法によって検討することを目的とする。
方 法
(1)調査協力者:成人男女10名(男性3名,女性7名)。24~48歳。全員有職者。
(2)調査時期:2016年の海外での遠征教育研修会実施前後(行き帰りの飛行機内)
(3)調査手続き:質問紙を遠征教育実施前と実施直後に配布して回答してもらった。
(4)調査内容:板津(1992)の生き方尺度28項目(能動的実践的態度,自己の創造・開発,自他共存,こだわりのなさ・執着心のなさ,他者尊重の5つの下位尺度)。二宮他(1990)の学校生活の意識に関する尺度のうち,仲間志向-孤立志向尺度11項目のみ抜き出した。
結 果
研修会実施前後の数値を比較するために,Wilcoxonの符号付き順位検定を行った。この結果,こだわりのなさ尺度(Z=2.04, df=1, p<.05)と仲間志向尺度(Z=2.25, df=1, p<.05)は実施前後で有意差が見られた。そして,自他共存尺度は実施前後の差に有意傾向が見られた(Z=1.77, df=1, p<.10)。つまり,遠征教育を体験した後は,こだわりが軽減し,仲間と共に活動しようという気持ちが増していた。また,他人との共存を意識する傾向が高まっていた。
これ以外の尺度では有意差・有意傾向は見られなかった。
考 察
遠征教育では,慣れない場所や活動をすることになる。しかも遠征先が海外であると,嫌になってもそこから離脱することもままならない。こうした経験の結果,自己主張をするばかりではなく,他の参加者やファシリテータらとの折り合いをつけるという気持ちになったり,実行したりしたのではないかと考えられる。
ただ,本研究では,事後の調査を研修会の直後に行ったため,調査時点では日常生活に戻っていなかった。このため,研修会で得たことを日常生活に反映させる体験やその効果は,測定できていない。そこで,今後は,事後の調査を研修会直後と共に,数か月経過した後に実施することで,研修会の効果の起こり方を検討する必要があると考える。
また,遠征教育を体験した本人たちが,どのような変化が起きたと実感したかを探る,インタビュー調査を実施してモデル作りをすることも有効ではないかと考える。
「遠征教育(expedition learning)」とは,自己洞察を行い,気づきを高めたり自己成長を目指したりすることを目的として,国内外の自然に出向き,野外活動を通して行うメンタリング活動の手法がある。第二筆者は,遠征教育の一環として海外での野外活動を行っている。例えば,2016年にはアメリカ合衆国のヨセミテ国立公園に少人数のグループで出向き,5泊6日で高地でのテント泊,野外炊事,トレッキング等の野外活動,体験の記録,グループでのシェアリングを行っている。
その目的や方法はファシリテータによって様々と思われるが,概ね次の3点が起きるのではないかと考えられる。①日常生活と異なる環境で過ごすことによる刺激が,感覚の活性化,感情の開放や安定,新しい思考を生むなどの効果を得られる。②自分が所属する集団から離れて与えられる課題に取り組むというある種の危機的状況を乗り越えることによって成長が得られる。③ファシリテータや他の参加者と同じ体験をすることで,他者との共感や協働を体験する。
ただ,遠征教育の効果については,具体的にどのような変化が起きるのかということを客観的に測定する必要があるのではないかと考える。それは,人はそれぞれ違うため,ファシリテータが想定しない体験をしている参加者がいても不思議ではないからである。
本研究では,第二発表者がファシリテータを務めた遠征教育の研修会に参加した成人に起きた体験前後の変化を,生き方や他者との付き合い方に注目して,質問紙法によって検討することを目的とする。
方 法
(1)調査協力者:成人男女10名(男性3名,女性7名)。24~48歳。全員有職者。
(2)調査時期:2016年の海外での遠征教育研修会実施前後(行き帰りの飛行機内)
(3)調査手続き:質問紙を遠征教育実施前と実施直後に配布して回答してもらった。
(4)調査内容:板津(1992)の生き方尺度28項目(能動的実践的態度,自己の創造・開発,自他共存,こだわりのなさ・執着心のなさ,他者尊重の5つの下位尺度)。二宮他(1990)の学校生活の意識に関する尺度のうち,仲間志向-孤立志向尺度11項目のみ抜き出した。
結 果
研修会実施前後の数値を比較するために,Wilcoxonの符号付き順位検定を行った。この結果,こだわりのなさ尺度(Z=2.04, df=1, p<.05)と仲間志向尺度(Z=2.25, df=1, p<.05)は実施前後で有意差が見られた。そして,自他共存尺度は実施前後の差に有意傾向が見られた(Z=1.77, df=1, p<.10)。つまり,遠征教育を体験した後は,こだわりが軽減し,仲間と共に活動しようという気持ちが増していた。また,他人との共存を意識する傾向が高まっていた。
これ以外の尺度では有意差・有意傾向は見られなかった。
考 察
遠征教育では,慣れない場所や活動をすることになる。しかも遠征先が海外であると,嫌になってもそこから離脱することもままならない。こうした経験の結果,自己主張をするばかりではなく,他の参加者やファシリテータらとの折り合いをつけるという気持ちになったり,実行したりしたのではないかと考えられる。
ただ,本研究では,事後の調査を研修会の直後に行ったため,調査時点では日常生活に戻っていなかった。このため,研修会で得たことを日常生活に反映させる体験やその効果は,測定できていない。そこで,今後は,事後の調査を研修会直後と共に,数か月経過した後に実施することで,研修会の効果の起こり方を検討する必要があると考える。
また,遠征教育を体験した本人たちが,どのような変化が起きたと実感したかを探る,インタビュー調査を実施してモデル作りをすることも有効ではないかと考える。