[PG58] 発達障害のある児童・生徒の学習のつまずきの性差について
キーワード:発達障害, 学習, 性差
はじめに
一般に発達障害は,女性よりも男性で認められることが多い。しかし,近年,少数派の女性の発達障害についても,その理解のしにくさや支援の必要性等に関して注目が寄せられている。本研究では,文部科学省(2012)の「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の学習の6領域(読む,書く,聞く,話す,計算,推論)と,海津(2007)の「学習領域スキル別つまずきリスト」のうち「文章の内容を理解する(読解)」と「文章を書く(作文)」の2領域を組み合わせたチェックリストを用いて,発達障害傾向のある児童生徒の学習のつまずきの性差を分析し,女性の発達障害の学習ニーズについて検討を行った。
方 法
1)サンプル数 通級指導教室担当教諭544名の回答,2)手続き 関東及び北陸地方の発達障害・情緒障害対象通級のある小・中学校に調査を依頼し,501校から回答を得た(回収率約49%)。通級指導教室担当に対しては,担当している児童または生徒の中から任意で選択した1名について調査票に回答するように求めた。なお,調査については,事前に個人情報の保護など倫理面の配慮に関して所属機関倫理委員会の審査を受けて実施した。
結 果
本研究では,知的発達の遅れの可能性がなく,かつ,LD,ADHD,ASDのいずれかの傾向を有する人を,発達障害傾向のある児童・生徒とした。男性483名,女性61名で,男性のサンプルが明らかに多かった。発達障害の中で最も多かったのは,男女ともにASD(全体に占める割合,男性23.6%,女性36.1%)で,次がADHD+ASD(25.5%,19.7%)であった。ASDを有する児童・生徒の割合は男女ともに全体の50%を超えていた。
学習領域ごとに素得点と標準得点(T得点)を算出し,別々に男女の違いについて検討した。なお,標準得点は,筆者が収集した通常の学級の児童・生徒約2千名のデータから学年と性別を調整して算出した。また、素得点,標準得点は,共に得点が高いほど,つまずきが大きくなるように設定した。
まず,素得点を比較した。平均値は,計算と推論では,女性がより高い値を示した。一方で,残りの読む,読解,書く,作文,聞く,話すでは,男性の方がより高い値であった。この男女の違いについてt検定を行ったところ,計算,書く,作文で有意差が得られた(ps < .05,rs =.10 - .16)。
次にT得点を比較した。平均値は,全ての学習領域で女性が高い値を示した。この違いについてt検定を行ったところ,計算,読解,推論,聞く,話すで有意な差が得られた(ps < .05, rs=.11-.25)。
考 察
素得点の結果から,女性は男性よりも,計算や推論を除き,学習ニーズの絶対量そのものはより小さいと考えられる。しかし,(効果は小さいものの)T得点の結果は,計算は女性の発達障害で,つまずく傾向があることを示した。また,読解,推論,聞く,話すでは,同性・同輩のグループと比較した時に,よりニーズが顕在化することが示唆された。学齢期の学習のつまずきは,一般に男性よりも女性で小さく,この傾向は発達障害のある児童生徒でも同様である。しかし,素得点による評価では、同輩・同性の集団の中で学習に困っている発達障害の女子児童・生徒が見過ごされやすくなることが示唆される。
付 記
本研究はJSPS科研費基盤研究C 課題番号26381351の援助を受けて行った。
一般に発達障害は,女性よりも男性で認められることが多い。しかし,近年,少数派の女性の発達障害についても,その理解のしにくさや支援の必要性等に関して注目が寄せられている。本研究では,文部科学省(2012)の「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の学習の6領域(読む,書く,聞く,話す,計算,推論)と,海津(2007)の「学習領域スキル別つまずきリスト」のうち「文章の内容を理解する(読解)」と「文章を書く(作文)」の2領域を組み合わせたチェックリストを用いて,発達障害傾向のある児童生徒の学習のつまずきの性差を分析し,女性の発達障害の学習ニーズについて検討を行った。
方 法
1)サンプル数 通級指導教室担当教諭544名の回答,2)手続き 関東及び北陸地方の発達障害・情緒障害対象通級のある小・中学校に調査を依頼し,501校から回答を得た(回収率約49%)。通級指導教室担当に対しては,担当している児童または生徒の中から任意で選択した1名について調査票に回答するように求めた。なお,調査については,事前に個人情報の保護など倫理面の配慮に関して所属機関倫理委員会の審査を受けて実施した。
結 果
本研究では,知的発達の遅れの可能性がなく,かつ,LD,ADHD,ASDのいずれかの傾向を有する人を,発達障害傾向のある児童・生徒とした。男性483名,女性61名で,男性のサンプルが明らかに多かった。発達障害の中で最も多かったのは,男女ともにASD(全体に占める割合,男性23.6%,女性36.1%)で,次がADHD+ASD(25.5%,19.7%)であった。ASDを有する児童・生徒の割合は男女ともに全体の50%を超えていた。
学習領域ごとに素得点と標準得点(T得点)を算出し,別々に男女の違いについて検討した。なお,標準得点は,筆者が収集した通常の学級の児童・生徒約2千名のデータから学年と性別を調整して算出した。また、素得点,標準得点は,共に得点が高いほど,つまずきが大きくなるように設定した。
まず,素得点を比較した。平均値は,計算と推論では,女性がより高い値を示した。一方で,残りの読む,読解,書く,作文,聞く,話すでは,男性の方がより高い値であった。この男女の違いについてt検定を行ったところ,計算,書く,作文で有意差が得られた(ps < .05,rs =.10 - .16)。
次にT得点を比較した。平均値は,全ての学習領域で女性が高い値を示した。この違いについてt検定を行ったところ,計算,読解,推論,聞く,話すで有意な差が得られた(ps < .05, rs=.11-.25)。
考 察
素得点の結果から,女性は男性よりも,計算や推論を除き,学習ニーズの絶対量そのものはより小さいと考えられる。しかし,(効果は小さいものの)T得点の結果は,計算は女性の発達障害で,つまずく傾向があることを示した。また,読解,推論,聞く,話すでは,同性・同輩のグループと比較した時に,よりニーズが顕在化することが示唆された。学齢期の学習のつまずきは,一般に男性よりも女性で小さく,この傾向は発達障害のある児童生徒でも同様である。しかし,素得点による評価では、同輩・同性の集団の中で学習に困っている発達障害の女子児童・生徒が見過ごされやすくなることが示唆される。
付 記
本研究はJSPS科研費基盤研究C 課題番号26381351の援助を受けて行った。