日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

2018年9月17日(月) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG61] 定時制高校における学校への適応の検討について

全日制高校との比較から

渡邉仁1, 太田正義2, 飯田昭人3, 加藤弘通4 (1.北海道大学, 2.常葉大学, 3.北翔大学, 4.北海道大学)

キーワード:学校適応, ライフスキル, 高校

問題と目的
 定時制高校(以下定時制)の中途退学率は全日制高校(以下全日制)と比べて非常に高く,その理由のほとんどは学校不適応である(文部科学省,2010)。定時制は全日制とは異なる時間帯で教育活動が行われ,中途退学に対しての意識も大きく差があることからも,全日制と定時制では学校へ適応する要因も過程も違いがあると予想される。
 本研究では様々なタイプの全日制や定時制を対象として調査を実施し,高校における学校適応の要因についての基礎データを得て,学校へ適応する過程を検討することを目的とした。

方  法
調査協力者
 A,B高校(全日制と定時制の併置校)とC高校(定時制単置校で単位制)に通う,全日制1,701名,定時制809名の計2,510名の生徒である。
調査内容
学校への適応感尺度(大久保,2005),学校生活尺度(大久保・青柳,2004),日常生活スキル尺度(島本・石井,2006)を用い,質問紙による調査を実施した。なお,回答形式は全て5件法である。
調査時期
 平成28年12月から平成29年9月に実施した。

結果と考察
 各尺度における平均値得点を算出したところ,定時制は「学校適応感」・「日常生活スキル」・「友人との関係」が低い傾向にあった。一方「学業」・「教師との関係」の平均値得点は学校毎に異なる結果であった。このことから,定時制の生徒は全日制の生徒と比べて友人との関係が希薄で,日常生活スキルも低く,学校へ適応していないと感じていることがわかる。これは、定時制の中途退学率が高いことからも妥当な結果である。学業に対しての意識と教師との関係は,課程問わず,学校毎に特徴が表れるといえる。続いて,各尺度間の相関を求めたところ,どの学校においても「友人との関係」・「学業」・「日常生活スキル」は「学校への適応感」と相関があり,「友人との関係」・「日常生活スキル」は特に強い相関が見られた。一方「教師との関係」は学校毎に異なる結果であった。先行研究では,友人との関係はどの学校でも学校への適応感へ影響を与えていると示唆されていることと一致する結果となった。
 次に日常生活スキル獲得と学校への適応過程を次のように仮説を立てた。「友人との関係が良好になり学校へ適応することで学業に対して肯定的となり,学業を通してライフスキルを身に付け,そのスキルを用いて教師や友人との関係を良好にしていく。」というモデル(Figure 1)を想定して,共分散構造分析を用いて検討した。なお,Table 1は算出されたパラメータ推定値である。
 全日制のモデルの適合度指標は,χ2(2)=1。064,p=.587,GFI=1.000,AGFI=.996,CFI=1.000,RMSEA=.000となり,当てはまりが良かったが,定時制は良くなかった。全日制は学校へ適応すると日常生活スキルが上がり,また学校へ適応していくという相乗効果があるといえるが,逆にいうと学校へ適応していない状況であると学習意欲も沸かず,日常生活スキルも上がらない。ますます学校へ適応しない状況になるともいえる。一方,定時制は学校への適応と日常生活スキルの間には相乗効果がないといえる。定時制の生徒は学校にいる時間が非常に短いこともあり,学校内だけで日常生活スキルを身に付けることが難しいことが学校への適応感が低い一因となっていると予想できる。定時制にはFigure 1のような学校内で完結するモデルでは図り切れない学校への適応過程があると考えられる。