[PG62] 教師のエンパワーメントを測定する尺度の開発
教師個人の組織認知レベルのエンパワーメントに着目して
Keywords:エンパワーメント, 尺度, 教師
問題と目的
エンパワーメントとは,「個人の人生や組織の機能,コミュニティの生活の質に影響を与えるような決定において,統制や影響力を発揮するための取り組みの過程や結果(Zimmerman,2000)」と定義される。教師のエンパワーメントが高まることは,バーンアウトの予防に効果があること,また,職務へのコミットメントや職務行動への積極性を高め,さらに学校の改善においても重要であることが示されている。しかし,米国で開発されてきた尺度を翻訳して調査・分析を行った国内研究では元尺度と同じ構成要素が日本では抽出されないこと,またエンパワーメントにおける組織レベルの影響が考慮されていないという課題が残されている。
こうした課題に対して筆者らは,学校における教師個人レベルのエンパワーした状態について,日本の教育現場からエンパワーした状態の構成要素を抽出した(池田・池田,2016)。池田・池田(2016)は,教師個人レベルのエンパワーメントについて,校長らへのインタビューをもとに,エンパワーする組織の認知(校長の学校組織マネジメント,教員間の協働性),認知レベルのエンパワーメント(有能感,自律性,効力感),行動レベルのエンパワーメント(主体的行動,参加行動)に分類した。本研究では,この分類を基に質問紙を構成し,尺度開発を試みる。
方 法
1)調査協力者および実施期間: 調査協力者は,小学校6校の教師128名であった。
2)エンパワーメント項目の抽出: 池田・池田(2016)の結果をもとに,エンパワーメント尺度の項目を作成した。本研究では,「エンパワーする組織の認知」レベルの質問項目のみを分析対象とした。質問項目は25項目であり,“あなたの学校について”回答を求めた。回答は「まったくあてはまらない(1点)」~「とてもあてはまる(5点)」であった。
結 果
因子分析(最尤法,プロマックス回転)の結果,第1因子には,「自発的な教師間の意見交換やミーティングがある」,「自発的に何かをしようという雰囲気がある」,「学校が意思決定を行う際には,教師や関係者の意見が反映される」など教師が自らの意見や取り組みが取り入れられ,また組織の協働性・主体性に関する12項目(α=.920)が集まった。そのため,第1因子を「協働的意思決定」と命名した。第2因子には,「学校の目標は明確に構造化されている」,「教師は,自分の仕事と学校の教育目標がどのように関連しているかを理解している」など組織における目標・役割・裁量の明瞭さを示す6項目(α=.817)が集まった。そのため,「目標・役割の明瞭性」と命名した。第3因子は「できないことを責める雰囲気がある(※反転)」,「他者の失敗に対して厳しい(※反転)」の2項目(α=.880)となり,「失敗への寛容性」と命名した。第4因子は「教師の間で意見の食い違いがある(※反転)」,「教職員の仲がよい」の2項目(α=.468)となり,個人的な仲の良さに関する項目であると考えられ,「個人的関係性」と命名した。第5因子は「各教師の役割が明確に示されている」,「業務分担に偏りがある(※反転)」,「教師は管理職を信頼している」の3項目(α=.633)となり,管理職の采配による役割・業務の不平等さに関わる項目であると考えられた。そのため,「業務指示」と命名した。
考 察
本研究の結果,教師個人レベルのエンパワーメントのうち,「エンパワーする組織の認知」の因子構造は,協働的意思決定,目標・役割の明瞭性,失敗への寛容性,個人的関係性,業務指示の5因子であることが示された。しかし,調査協力校および協力者が6校,128名と少なく,組織認知については偏りが生じた可能性もある。また,第4因子のα係数も低いことから,今後,調査数を増やしていくことで,因子構造を確定していくことが課題である。
引用文献
池田琴恵・池田 満(2016).教師のエンパワーメント状態の検討―教師エンパワーメント尺度開発に向けて― 日本教育心理学会第58回総会発表論文集,379.
Zimmerman, M. A. (2000). Empowerment theory: Psychological, organizational and community level of analysis. In J. Rappaport & E. Seidman (Eds.) Handbook of community psychology. New York: Kluwer Academic/Plenum.
付 記
本研究はJSPS科研費15K17280「学校組織と教員のエンパワーメント過程および状態モデルの生成」の助成を受けたものです。
エンパワーメントとは,「個人の人生や組織の機能,コミュニティの生活の質に影響を与えるような決定において,統制や影響力を発揮するための取り組みの過程や結果(Zimmerman,2000)」と定義される。教師のエンパワーメントが高まることは,バーンアウトの予防に効果があること,また,職務へのコミットメントや職務行動への積極性を高め,さらに学校の改善においても重要であることが示されている。しかし,米国で開発されてきた尺度を翻訳して調査・分析を行った国内研究では元尺度と同じ構成要素が日本では抽出されないこと,またエンパワーメントにおける組織レベルの影響が考慮されていないという課題が残されている。
こうした課題に対して筆者らは,学校における教師個人レベルのエンパワーした状態について,日本の教育現場からエンパワーした状態の構成要素を抽出した(池田・池田,2016)。池田・池田(2016)は,教師個人レベルのエンパワーメントについて,校長らへのインタビューをもとに,エンパワーする組織の認知(校長の学校組織マネジメント,教員間の協働性),認知レベルのエンパワーメント(有能感,自律性,効力感),行動レベルのエンパワーメント(主体的行動,参加行動)に分類した。本研究では,この分類を基に質問紙を構成し,尺度開発を試みる。
方 法
1)調査協力者および実施期間: 調査協力者は,小学校6校の教師128名であった。
2)エンパワーメント項目の抽出: 池田・池田(2016)の結果をもとに,エンパワーメント尺度の項目を作成した。本研究では,「エンパワーする組織の認知」レベルの質問項目のみを分析対象とした。質問項目は25項目であり,“あなたの学校について”回答を求めた。回答は「まったくあてはまらない(1点)」~「とてもあてはまる(5点)」であった。
結 果
因子分析(最尤法,プロマックス回転)の結果,第1因子には,「自発的な教師間の意見交換やミーティングがある」,「自発的に何かをしようという雰囲気がある」,「学校が意思決定を行う際には,教師や関係者の意見が反映される」など教師が自らの意見や取り組みが取り入れられ,また組織の協働性・主体性に関する12項目(α=.920)が集まった。そのため,第1因子を「協働的意思決定」と命名した。第2因子には,「学校の目標は明確に構造化されている」,「教師は,自分の仕事と学校の教育目標がどのように関連しているかを理解している」など組織における目標・役割・裁量の明瞭さを示す6項目(α=.817)が集まった。そのため,「目標・役割の明瞭性」と命名した。第3因子は「できないことを責める雰囲気がある(※反転)」,「他者の失敗に対して厳しい(※反転)」の2項目(α=.880)となり,「失敗への寛容性」と命名した。第4因子は「教師の間で意見の食い違いがある(※反転)」,「教職員の仲がよい」の2項目(α=.468)となり,個人的な仲の良さに関する項目であると考えられ,「個人的関係性」と命名した。第5因子は「各教師の役割が明確に示されている」,「業務分担に偏りがある(※反転)」,「教師は管理職を信頼している」の3項目(α=.633)となり,管理職の采配による役割・業務の不平等さに関わる項目であると考えられた。そのため,「業務指示」と命名した。
考 察
本研究の結果,教師個人レベルのエンパワーメントのうち,「エンパワーする組織の認知」の因子構造は,協働的意思決定,目標・役割の明瞭性,失敗への寛容性,個人的関係性,業務指示の5因子であることが示された。しかし,調査協力校および協力者が6校,128名と少なく,組織認知については偏りが生じた可能性もある。また,第4因子のα係数も低いことから,今後,調査数を増やしていくことで,因子構造を確定していくことが課題である。
引用文献
池田琴恵・池田 満(2016).教師のエンパワーメント状態の検討―教師エンパワーメント尺度開発に向けて― 日本教育心理学会第58回総会発表論文集,379.
Zimmerman, M. A. (2000). Empowerment theory: Psychological, organizational and community level of analysis. In J. Rappaport & E. Seidman (Eds.) Handbook of community psychology. New York: Kluwer Academic/Plenum.
付 記
本研究はJSPS科研費15K17280「学校組織と教員のエンパワーメント過程および状態モデルの生成」の助成を受けたものです。