日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

2018年9月17日(月) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG63] インクルーシブな学級を構築する教師の指導行動の抽出

深沢和彦1, 河村茂雄2 (1.東京福祉大学, 2.早稲田大学)

キーワード:小学校通常学級, インクルーシブ, 教師の指導行動

問題と目的
 インクルーシブ教育が提唱され,通常学級にも一定の割合で発達障害やその疑いのある児童が含まれていることを前提とした学級経営が求められている(例えば,太田・石田,2009;小牧・田中・渡邉,2006;村田・松崎,2009)。本研究は,小学校通常学級において,インクルーシブな学級(「学級状態が良好で,発達障害やその疑いのある児童が適応している学級」と定義)を構築する教師が,どのような指導行動をとっているのかについてその指導行動を明らかにすることが目的である。

方  法
質問紙調査時期:調査は,2017 年4月上旬~3月中旬に実施された。
調査手続:第一筆者が,インクルーシブな学級を構築している学級担任3名から,年間一人30回の聞き取り調査を行った。聞き取り調査は,一週間に1回の頻度で行い,1回の聞き取り調査は約15分間であった。聞き取りにあたっては,一週間の出来事を想起してもらい,「学級の子どもたちに対してどのような指導を行いましたか?」という問いへの回答がボイスレコーダーで収集された。語られた内容を再生しながら,できるだけ忠実に記述(繰り返し表現や文末表現および接続詞のみ変更して記述)した。さらに,記述内容から,教師の指導行動にあたるものを箇条書きでカードに記述した。それを教員養成系大学の大学院博士課程で心理学を専攻する現職教員の大学院生3 名がKJ法を用いて整理した。

結果と考察
 抽出した181項目の教師の指導行動を分類するにあたって,教師の指導行動に関する先行研究であるPM理論(三隅・矢守,1989,三隅・吉崎・篠原,1977)にしたがって,指導行動の分類を行ったところ,P機能とM機能に分類される指導行動のほかに,内容的にP機能にもM機能にも当てはまらない項目,具体的には対象児への個別指導行動とも学級全体への指導行動とも明確に分類できない指導行動が多数認められた。また,「片付けのルール指導は,学級全体に対して行っている」「学級全体に対して,必要な社会的スキル(適切な頼み方・断り方・誘い方・お礼の言い方など)を教えている」等,PM理論に従えば,P機能の指導行動に分類されるものであっても,聞き取り内容から判断される担任教師の指導意識には,対象児への個別指導的な意味合いが含まれていた。すべての指導行動が「個」と「全体」の両方の育成を意識したものであり,それらは,対象児を学級の中に位置づけることを意識したインクルーシブな指導行動(以降,インクルーシブ指導行動と表記)であった。そこで,インクルーシブ指導行動についてさらに分類を試みたところ,「アセスメント機能」,「アドボカシー機能」,「援助要請機」の3つが確認でき,「P機能」,「M機能」と合わせて5つの機能カテゴリーに分けることができた。さらに,それぞれの機能は,10の下位カテゴリーに分類することができ,①全体に向けた対応をする場面と,③対象児に対応する場面の2つの指導場面に分けられた(Table1)。
 これらの結果から,インクルーシブな学級を構築するためには,学級担任による特別支援対象児と学級集団(小さな社会)をつなぐ指導行動が重要であると考えられた。