[PG65] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度と心理的柔軟性との関連(2)
社会的適応力の変化と柔軟性の分析
キーワード:精神的充足, 社会的適応力, 心理的柔軟性
今日の学校教育では「21世紀のコンピテンシー」など新たな視点からの資質や能力を育成することが求められている。子供たちが,多様な状況で人々と協働的に取り組み,これらの資質や能力を存分に発揮するには,情動を制御する力を備えていることが不可欠である。これまでも社会情動的スキルや心理的回復力といった情動制御に関する能力を育み高めていくことが重視されてきた。
そこで本研究は,生徒たちが自己アセスメント型心理教材(「精神的充足・社会的適応力」評価尺度:KJQ-M)に反復して取り組むことが,情動制御能力の向上に寄与する様相を明らかにすることを目的とする。本心理教材は,回答結果シートとワークブックが各生徒に返却される。生徒は返却されたシートとワークブックから,自らの心や行動を振り返るとともに,より良い状態にするための取り組みを理解し実践できる。繰り返し実施するなかで,内面の客観的な理解力と情動制御力の育成が促進されると考える。本報告では,本尺度の社会的適応力に焦点をあて,適応力の変化と心理的柔軟性の程度との関連について検討する。
方 法
[対象] 首都圏にある公立中学校2年生155名(男子84名,女子71名)。以下に述べる尺度・調査に全て回答した生徒を対象とした。
[尺度・調査の実施] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度を1回目は1年次10月上旬,2回目は2年次3月初旬に実施した。結果シートは回答の数週間後に,HR等の時間に学級内で,担任教員からワークブックとともに返却された。
心理的柔軟性を測定する質問紙は2年次3月中旬に,評価尺度の結果シートが返却された後に実施した。本質問紙の項目は石毛ら(2006)および平野(2010)が作成したレジリエンス測定の尺度項目をもとに計23問を構成した。回答は「全くあてはまらない:0点」から「とてもよくあてはまる:4点」の5件法択一式を用いた。
結果と考察
1)心理的柔軟性の回答結果 回答から因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い下位構造を確認した。共通性の低い1項目を除き,22項目について「拡張意欲的活動性(11項目)」「内面共有(4項目)」「楽観性(5項目)」「他者理解(2項目)」の4領域に分類できることを確認した。「拡張意欲的活動性」に負荷量の大きい項目は「困ったとき,自分ができることをまずやる」や「ひとからの助言は役立つと思う」などであった。
2)社会的適応力の変化による心理的柔軟性の比較 社会適応力6特性の段階点合計を1・2回目で比較し,2回目に上昇した生徒を上昇群,同一の生徒を無変化群,低下した生徒を低下群と分類した。心理的柔軟性4領域別に得点を算出し,適応力変化の3群間で比較した(表1)。3群の平均値に差があるかを1要因分散分析で比較した結果,4領域ともに有意な主効果は見られなかった。社会的適応力の全体的な変化は,心理的柔軟性の程度と関連しないと考えられる。
3)特性段階点の変化と心理的柔軟性の関連 6特性別に1・2回目間の変化量を算出し,4領域の得点との関連を検討するために相関係数を求めた(表2)。その結果,自分をコントロールする力(自己統制)と楽観性・他者理解の間に有意な正の相関が示された。学校生活の中で自己統制する力が高まった生徒ほど,困ったときに良い方向で考えたり,他者の気持ちを読み取る力があることが明らかにされた。
そこで本研究は,生徒たちが自己アセスメント型心理教材(「精神的充足・社会的適応力」評価尺度:KJQ-M)に反復して取り組むことが,情動制御能力の向上に寄与する様相を明らかにすることを目的とする。本心理教材は,回答結果シートとワークブックが各生徒に返却される。生徒は返却されたシートとワークブックから,自らの心や行動を振り返るとともに,より良い状態にするための取り組みを理解し実践できる。繰り返し実施するなかで,内面の客観的な理解力と情動制御力の育成が促進されると考える。本報告では,本尺度の社会的適応力に焦点をあて,適応力の変化と心理的柔軟性の程度との関連について検討する。
方 法
[対象] 首都圏にある公立中学校2年生155名(男子84名,女子71名)。以下に述べる尺度・調査に全て回答した生徒を対象とした。
[尺度・調査の実施] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度を1回目は1年次10月上旬,2回目は2年次3月初旬に実施した。結果シートは回答の数週間後に,HR等の時間に学級内で,担任教員からワークブックとともに返却された。
心理的柔軟性を測定する質問紙は2年次3月中旬に,評価尺度の結果シートが返却された後に実施した。本質問紙の項目は石毛ら(2006)および平野(2010)が作成したレジリエンス測定の尺度項目をもとに計23問を構成した。回答は「全くあてはまらない:0点」から「とてもよくあてはまる:4点」の5件法択一式を用いた。
結果と考察
1)心理的柔軟性の回答結果 回答から因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い下位構造を確認した。共通性の低い1項目を除き,22項目について「拡張意欲的活動性(11項目)」「内面共有(4項目)」「楽観性(5項目)」「他者理解(2項目)」の4領域に分類できることを確認した。「拡張意欲的活動性」に負荷量の大きい項目は「困ったとき,自分ができることをまずやる」や「ひとからの助言は役立つと思う」などであった。
2)社会的適応力の変化による心理的柔軟性の比較 社会適応力6特性の段階点合計を1・2回目で比較し,2回目に上昇した生徒を上昇群,同一の生徒を無変化群,低下した生徒を低下群と分類した。心理的柔軟性4領域別に得点を算出し,適応力変化の3群間で比較した(表1)。3群の平均値に差があるかを1要因分散分析で比較した結果,4領域ともに有意な主効果は見られなかった。社会的適応力の全体的な変化は,心理的柔軟性の程度と関連しないと考えられる。
3)特性段階点の変化と心理的柔軟性の関連 6特性別に1・2回目間の変化量を算出し,4領域の得点との関連を検討するために相関係数を求めた(表2)。その結果,自分をコントロールする力(自己統制)と楽観性・他者理解の間に有意な正の相関が示された。学校生活の中で自己統制する力が高まった生徒ほど,困ったときに良い方向で考えたり,他者の気持ちを読み取る力があることが明らかにされた。