日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

2018年9月17日(月) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG66] 専門職の学び合うコミュニティとしての学校組織メカニズムの解明

システム,文化,情動へのアプローチ

木村優 (福井大学)

キーワード:専門職の学び合うコミュニティ, 学校組織, 教師の情動

問題と目的
 学校に通う児童生徒の学業成績や生活態度の向上・改善に資する学校組織のあり方を検討する上で,「専門職の学び合うコミュニティ(Professio-nal Learning Communities: 以下PLCと表記)」のアイデアに対する関心が国内外で漸増的に高まっている(e.g., 千々布, 2014; 織田, 2017; Stoll, Bolam, McMahon, Wallace, & Sally, 2006: Hargreaves & O’Connor, 2017)。
 PLCについては,その概念提起の第一世代に位置づくHord(1997)により,教師の同僚性を耕して児童生徒の学びのビジョンを打ち立てる学校組織づくりの「実践の哲学」として,第二世代のDuFour(2004)により教師の教えから生徒の学びへと強調点を移行しながら教師の協働文化によって学力向上を成し遂げる学校組織づくりの「実践の原理」として理論的前進が図られてきた。
 しかし,PLCとして運営される学校でいかなる組織的営為が展開し,いかなる学校文化・教師文化が成熟するのか,また,PLCを形作る教師間の相互作用はいかなる特徴をもち,それが教師たちの教育実践や専門性開発にいかなる作用をもたらすのかについてはこれまでのところ不明である。
 そこで本研究では,児童生徒の学びと育ちを学校組織づくりのビジョンの中核に据えたPLCとして運営されている学校について,その組織的営為と教師たちの相互作用を分析し,PLCとしての学校組織メカニズムの解明を進めていくことを目的に定める。

方  法
研究協力校の選定 木村(2015)における教師の不安受容と挑戦意欲を高める学校組織に関する教師への面接調査の分析結果に基づき,複数教師たちから不安受容と挑戦意欲の要因として同僚性の豊かさや組織的な取り組みへの肯定回答を得られた学校5校(中学校4校,高校1校)を抽出し,実地調査を実施した。
実地調査とデータ収集と分析 筆者は各校の「協働研究者」として月1回程度,学校を訪問し,授業参観,校内研修への参加(授業研究会含む),管理職とリーダーシップチームとの面談,職員室での教師たちとの対話,学校組織の概要を示す一次資料(教育理念を示すスクールプランや年間計画,学校の運営体制及び研究体制,校内教員研修の取組等の文書)の収集を行った。以上の収集データを統合し,各校のシステムレベルの実践,教師たちが共有する学校文化・組織文化,教師間の相互作用の特徴を引き出し,比較検討した。様々な場での管理職や教師たちとの対話については適宜記録し,特に面談データについては,発話内容のカテゴリー化によりその関連を検証するGTAの手法を援用して分析した。

結果と考察
 まず,各校のシステムレベルの実践を分析したところ,Table 1に示した共通実践が見出された。
 研究協力校では共通して,教師たちは協働的で探究的な学習を授業デザインに組み込むことに挑戦し,生徒の学びに焦点を当てた授業研究を運営しそれを日常化し,教師たちがチームで学び合い,実践の過程や成果を公開し,実践を省察して跡づけていく書く文化の成熟や生成に努めていた。
 以上の実践に基づき,教師たちの協働文化の醸成が図られ,そこでは教師たちの学び合いによる学習する組織の構築と,助け合いを奨励するケアリングの文化の成熟の双方が同時に狙われていた。
 また,システムレベルの実践と協働文化の中で,教師たちは互いの教育実践を語り合い,そこでは授業デザインやその省察が淡々と述べられるのではなく,実践の中で生じた多様な情動を開示,交換し合うという相互作用の特徴が見出された。
 PLCとして運営される学校では,教師たちは学びとケアを基軸としたシステム・文化を構築・成熟し,そこで情動的な次元での豊かな実践の共有を推進している卓越性が本研究により示唆された。