[PG74] アクティブラーニング型授業が学習者に与える効果
初年次物理学を通じた学習動機付け,学習観,理解度に注目して
キーワード:アクティブラーニング型授業, 動機付け, 深い学び
問題と目的
本研究は,アクティブラーニング型授業がもたらす効果について,初年次物理学の授業実践を通じて得た調査データに基づいて実証的検討を行うものである。大学の教育現場において質的転換が求められており,アクティブラーニング(以下AL)が導入された科目が新設されている。しかし,大学教育現場において,学生が受講する多くの科目は,従来の知識伝達型授業のままであり,AL導入普及率は低い(徳井,2015)。そのような中で,講義パートとALパートを組み合わせた授業形式であるアクティブラーニング型授業(以下AL型授業)が,ALの導入・推進のきっかけとなっている。ALの効果として,記憶定着率の上昇や学習・能力の向上などが示されている(松本・秋山,2013等)が,初等中等教育に比べ大学での教育現場はALの普及率や推進率は低い。このような中,大学の初年次物理学において,協働学習を取り入れたAL型授業を行い,受講者の学習に対する意識や理解度を検討することで,その効果を検証する。これらの取組の目的は,授業実施者にとって大きな負担とならないAL型授業の探索も兼ねる。
方 法
調査協力者と実施手続き
国立総合大学の平成29年度後期における基幹物理IB(必修科目,熱力学,全6回分,別途試験日有)において,大学1年生薬学部50名(男性38名,女性12名,平均年齢19.52歳(SD = 0.79))の受講生を対象とした。授業の準備として受講学生を,4名ずつの班に分け協学しやすい環境を作った。授業形式として前半に知識伝達型授業(65分)と後半に協同学習(25分)を導入した。この協同学習は,その日の授業の内容に関連する問題が4,5題あるワークシートを用いて,個人で回答,班員同士で回答を説明する,回答の修正の順番で展開した。授業初回に,ワークシートにおける記述の基本的な書き方や説明における注意事項を伝えた。
調査項目
アンケートを用いた意識調査
(1)動機付けに関する尺度:櫻井ら(2009)が作成した「自ら学ぶ意欲診断」を用いた。有能さへの欲求,知的好奇心,深い思考,独立達成,積極探究,面白さと楽しさ,有能感の7因子(各5項目)からなる。
(2)協同学習に対する意識に関する尺度:長濱,安永ら(2009)が作成した「協同作業認識尺度」を用いた。この尺度は,協同効用因子(9項目),個人志向因子(6項目),互恵懸念因子(3項目)からなっている。
(3)学習観に関する自由記述:第6回の授業後に,「通常授業に協同学習及び演示実験を取り込んだ授業を6回受講して,あなたの学びの姿勢はどの様に変化しましたか。」という質問に対する自由記述の回答を求めた。
(1),(2)は第1回授業開始前(事前)と第6回授業終了後(事後)に測定し,(3)は第6回授業終了後に行った。
定期試験結果を用いた調査
昨年度(平成28年度)の同科目は通常の講義タイプの授業を90分間行っており,本年度のAL型授業との試験結果を比較することで,本取組の効果を調査した。
(4) 定期試験における点数
平成28年度と平成29年度の定期試験において,同じ問題(40点満点)の点数の比較をすることで,定着度,理解度を比較した。これらの問題は,2つの記述式の大問で構成されている。
結果と考察
動機付け及び,協同学習に関する尺度に関して,AL型授業の授業前後での変化を検討した。その結果,動機付けに関する因子の一つの「深い思考」について,小さな効果が確認された。また,協同作業認識尺度の3因子に関しては,事前事後に関する差は認められなかった。
このようにAL型授業は,学習に対する動機づけの変化が見られた。このことは,学習者の学習観に影響を与えていると考えられる。ここでは,事後に行った「この授業であなたの学びの姿勢はどのように変化しましたか。」という質問に対する自由記述をもとに,AL型授業による学習観の変化を分析した結果,「書く,話し合うなどの作業を通じての深い理解」という本取組の特徴の反映である学習観などを獲得していることがわかった。
また,定期試験におけるAL型授業と前年度の通常の講義型授業の結果を比較したところ,大きな効果量が確認された。
このようにAL型授業は,学習者の動機付け,理解の深まり及び学習観に正の影響を与えることがわかった。
本研究は,アクティブラーニング型授業がもたらす効果について,初年次物理学の授業実践を通じて得た調査データに基づいて実証的検討を行うものである。大学の教育現場において質的転換が求められており,アクティブラーニング(以下AL)が導入された科目が新設されている。しかし,大学教育現場において,学生が受講する多くの科目は,従来の知識伝達型授業のままであり,AL導入普及率は低い(徳井,2015)。そのような中で,講義パートとALパートを組み合わせた授業形式であるアクティブラーニング型授業(以下AL型授業)が,ALの導入・推進のきっかけとなっている。ALの効果として,記憶定着率の上昇や学習・能力の向上などが示されている(松本・秋山,2013等)が,初等中等教育に比べ大学での教育現場はALの普及率や推進率は低い。このような中,大学の初年次物理学において,協働学習を取り入れたAL型授業を行い,受講者の学習に対する意識や理解度を検討することで,その効果を検証する。これらの取組の目的は,授業実施者にとって大きな負担とならないAL型授業の探索も兼ねる。
方 法
調査協力者と実施手続き
国立総合大学の平成29年度後期における基幹物理IB(必修科目,熱力学,全6回分,別途試験日有)において,大学1年生薬学部50名(男性38名,女性12名,平均年齢19.52歳(SD = 0.79))の受講生を対象とした。授業の準備として受講学生を,4名ずつの班に分け協学しやすい環境を作った。授業形式として前半に知識伝達型授業(65分)と後半に協同学習(25分)を導入した。この協同学習は,その日の授業の内容に関連する問題が4,5題あるワークシートを用いて,個人で回答,班員同士で回答を説明する,回答の修正の順番で展開した。授業初回に,ワークシートにおける記述の基本的な書き方や説明における注意事項を伝えた。
調査項目
アンケートを用いた意識調査
(1)動機付けに関する尺度:櫻井ら(2009)が作成した「自ら学ぶ意欲診断」を用いた。有能さへの欲求,知的好奇心,深い思考,独立達成,積極探究,面白さと楽しさ,有能感の7因子(各5項目)からなる。
(2)協同学習に対する意識に関する尺度:長濱,安永ら(2009)が作成した「協同作業認識尺度」を用いた。この尺度は,協同効用因子(9項目),個人志向因子(6項目),互恵懸念因子(3項目)からなっている。
(3)学習観に関する自由記述:第6回の授業後に,「通常授業に協同学習及び演示実験を取り込んだ授業を6回受講して,あなたの学びの姿勢はどの様に変化しましたか。」という質問に対する自由記述の回答を求めた。
(1),(2)は第1回授業開始前(事前)と第6回授業終了後(事後)に測定し,(3)は第6回授業終了後に行った。
定期試験結果を用いた調査
昨年度(平成28年度)の同科目は通常の講義タイプの授業を90分間行っており,本年度のAL型授業との試験結果を比較することで,本取組の効果を調査した。
(4) 定期試験における点数
平成28年度と平成29年度の定期試験において,同じ問題(40点満点)の点数の比較をすることで,定着度,理解度を比較した。これらの問題は,2つの記述式の大問で構成されている。
結果と考察
動機付け及び,協同学習に関する尺度に関して,AL型授業の授業前後での変化を検討した。その結果,動機付けに関する因子の一つの「深い思考」について,小さな効果が確認された。また,協同作業認識尺度の3因子に関しては,事前事後に関する差は認められなかった。
このようにAL型授業は,学習に対する動機づけの変化が見られた。このことは,学習者の学習観に影響を与えていると考えられる。ここでは,事後に行った「この授業であなたの学びの姿勢はどのように変化しましたか。」という質問に対する自由記述をもとに,AL型授業による学習観の変化を分析した結果,「書く,話し合うなどの作業を通じての深い理解」という本取組の特徴の反映である学習観などを獲得していることがわかった。
また,定期試験におけるAL型授業と前年度の通常の講義型授業の結果を比較したところ,大きな効果量が確認された。
このようにAL型授業は,学習者の動機付け,理解の深まり及び学習観に正の影響を与えることがわかった。