The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

Mon. Sep 17, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH05] 保育カンファレンスにおいて保育者が捉える子どもの発達と学びとは?

「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」に着目して

小松和佳1, 野中陽一朗2, 森敏昭3 (1.広島大学大学院, 2.高知大学, 3.岡山理科大学)

Keywords:保育カンファレンス, 幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿, 保育者の発話

問題と目的
 幼児期において育まれた資質・能力は,児童期以降の子どもの発達と学びの基盤となる。従来,幼児期の教育は,社会的・情緒的側面の発達や学びに重点が置かれていた。一方,幼児期から児童期へと教育をつなぐ連続性,一貫性を鑑みれば,生活や遊びを通して様々なことを学ぶ知的側面は,幼児期の教育においても重要であると言える。無藤(2017)によれば,「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」は,保育者が,幼児期の教育の修了に向けて指導を行うべき点であるとされている。この指摘は,保育者が,子どもの発達と学びを社会的・情緒的及び知的側面から捉えることの必要性を示すものだろう。しかし,一前(2016)は,保育者が,幼児期における子どもの発達や学びの知的側面を重要視していないことを指摘している。それでは,保育者は,子どもの発達と学びをどのような側面から捉えているのであろうか。
 そこで,本研究では,保育者が捉える幼児期の子どもの発達と学びの一側面を明らかにすることを目的とする。そのため,保育カンファレンスにおける保育者の発話に着目し,保育者は,子どもの発達と学びについて,社会的・情緒的及び知的のどの側面から捉えた発話を行っているのか検討する。

方  法
調査協力者 A幼稚園保育者13名。対象データ 小松・野中・井上(投稿中)が着目した日本版SICSに基づく全8回の保育カンファレンス逐語記録から抽出された288の保育者の発話。保育カンファレンスの事例は,第1筆者が選定した何かに興味を持ち,熱中して取組んでいる子どもの遊び6事例と,保育者が選定した気になる子どもの遊び2事例であった。手続き 各保育カンファレンスにおける保育者の発話数を検討した結果,事例による差異は,認められなかった(χ2(7)= 12.778, p=.077)。つまり,保育者の全発話を,「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」の枠組みに当てはめ,対比的に捉えることができると考えられる。そこで,第1筆者が,288の保育者の各発話について「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」のうちどの子どもの姿を捉えているのか分類した。

結果と考察
 「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」として分類された保育者の発話数は,285であり,(1)健康な心と体121,(2)自立心26,(3)協同性44,(4)道徳性・規範意識の芽生え32,(5)社会生活との関わり21,(6)思考力の芽生え18,(7)自然との関わり・生命尊重1,(8)数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚0,(9)言葉による伝え合い12,(10)豊かな感性と表現10であった。どの子どもの姿にも該当しない発話は,3つあり,保育者自身についての発話であったことから「その他」とした。
 「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」に分類された保育者の発話の発生頻度を検討するため,χ2検定を行った。分析の結果,分類された発話の発生頻度には,有意な偏りが見られた(χ2(9)=391.737,p<.01)。多重比較(Ryan法,p<.05)の結果,(1)健康な心と体についての発話数は,他の全ての姿についての発話数より多いことが明らかとなった。保育者は,(1)健康な心と体について,幼い時期から少しずつ育つ姿であり,また,子どもの発達や学びの基盤であることから,より多く捉える傾向があったと言える。一方,(8)数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚の発話数は,他の全ての姿についての発話数より少ない結果となった。このことは,保育カンファレンスの事例内容とも関連すると考えられるが,保育者が,数量や図形,標識や文字などへの子どもの関わりに着目していなかったと言える。また,(1)健康な心と体,(8)数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚以外の子どもの姿について,発話頻度に有意差がみられたのは,(2)>(7),(3)>(6),(3)>(7),(3)>(9),(3) >(10),(4)>(7),(4)>(10),(5)>(7),(6)>(7)であった(( )内は,「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」を示している。)。
 幼児期の教育において育みたい資質・能力の3つの柱は,知的な力である「知識及び技能の基礎」と「思考力,判断力,表現力等の基礎」,情意的な力である「学びに向かう力,人間性等」の2つに分けることができる(無藤,2017)。「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」は,3つの柱を具現化したものであることから,厳密に分けることはできないが,子どもの発達や学びの知的側面から育つ知的な力と,社会的・情緒的側面から育つ情意的な力の大きく2つの側面から捉えることができると考えられる。2つの側面から発話頻度を比べた結果,保育者は,社会的・情緒的側面として捉えられる発話の中の(2),(3),(4)についての発話が多く,また,知的側面として捉えられる発話の中の(7),(8)の発話が少ないことが示された。
 本研究における保育カンファレンスにおいて,保育者は,社会的・情緒的側面から子どもの発達と学びを捉えて発話する傾向にあることが明らかとなった。保育カンファレンスにおける保育者は,保育者同士の発話を通して,保育の枠組みに気づいたり,捉え直したりしている(平山,1995)。つまり,保育カンファレンスにおける保育者の発話は,保育者の保育観や子ども観が基盤となっていると言えよう。また,保育者は,保育者自身の保育観や子ども観に基づき,保育者が捉える子どもの姿を構築すると考えられる。このことは,保育者が,保育者自身が捉える子どもの姿に基づき発話していると言える。そのため,本研究の知見は,保育者が子どもを捉える姿を構築する中で,重要視する方向性に偏りがあることを示唆するものと考えられる。