[PH24] 学校ベースの認知トレーニングの効果
トレーニング効果は他の認知能力に般化するか
キーワード:認知トレーニング, 般化, 学業成績
ワーキングメモリ容量の高い子どもほど文章読解力や数的処理能力,ひいては学業成績も高いことが広く知られるようになり,学校教育現場において子どものワーキングメモリを鍛えることが高次の認知能力や学力の伸長にどのように影響するかを調べる研究が数多く行われるようになってきた(例えば,Holmes & Gathercole, 2014; Soderqvist & Bergman Nutley, 2015; Witt, 2011)。それらの研究は概ね良好な成果を報告しているが,ワーキングメモリ以外の汎用的認知能力を訓練することが子どもの認知能力や学業成績に般化するかどうかは検証されていない。
長崎大学教育学部附属中学校で開発され使用されている“BEST”は冊子型の認知トレーニング教材で,生徒はほぼ毎日取り組んでいる。生徒は朝の始業前5分間に文章の音読を(読みBEST),昼休み終了後の5分間に簡単な計算問題など筆記課題を(書きBEST),できるだけ速くかつ正確に行う。しかしながら,BESTが生徒の認知能力のどの側面に影響しているかは明らかではない。本研究では,BESTへの取り組みの有無が中学生の認知能力や学業成績にどのような影響を与えているかを実証的に調べていく。
方 法
参加者 長崎大学教育学部附属中学校第1学年4クラス143名(男子71名,女子72名)を2クラスずつに分け,一方をBESTあり群(71名),他方をBESTなし群(72名)とした。BESTの有無は前期と後期で入れ替え,機会の不平等が起こらないよう配慮した(本研究は前期に行った)。
評価課題 (1)学業成績:国語・社会・数学・理科・英語に関して,前期実力テストの成績を指標とした。(2)推論課題:キャッテル知能検査Scale 3を使用した。プレテストにはForm Aの検査1,2,3を,ポストテストにはForm Bの検査5,6,7を実施した。(3)言語課題:京大NX15検査の第5検査と第10検査を使用した。プレテストには奇数番号の問題,ポストテストには偶数番号の問題を実施した。(4)空間課題:京大NX15検査の第2検査と第7検査を使用した。プレテストには奇数番号の問題,ポストテストには偶数番号の問題を実施した。(5)処理速度課題:WISC-IVの記号課題を用いた。1から9までの各数字に割り当てられた記号を,数字列の各数字の下の解答欄に速くかつ正確に書いていく課題であった。プレテスト・ポストテストともに同じ問題を用いた。
トレーニング課題 BESTあり群はBESTを通常の方法で朝昼5分ずつ行った。BESTなし群はその間,自分の読みたい小説を黙読した。
調査実施日程概要 4月中旬に1回目の推論課題・言語課題・空間課題・単純処理速度課題を実施し,約3か月後の7月中旬に2回目を実施した。前期実力テストは8月末であった。
結果と考察
各課題の成績の変化をFigure 1に示した。BEST条件×実施時期の2要因混合ANOVAの結果,処理速度のみ交互作用が有意で(F (1, 141) = 12.47, p < .001),7月のBESTあり群のほうがBESTなし群よりも有意に成績が高かった。
実力テストの各教科の成績に対して,BEST条件を要因とした1要因参加者間ANOVAを行ったが,いずれも有意な差は見られなかった。
BESTは簡単な課題をできるだけ早くかつ正確に処理することを繰り返し練習するため,単純な情報の処理速度が向上したのだと考えられる。しかし,その効果が複雑な認知課題の解決や学業成績にまで般化して影響を及ぼすことはなかった。次は処理速度の向上に影響しているのが音読課題なのか筆記課題なのか,それともその両方が必要なのかを詳細に検討する必要がある。
長崎大学教育学部附属中学校で開発され使用されている“BEST”は冊子型の認知トレーニング教材で,生徒はほぼ毎日取り組んでいる。生徒は朝の始業前5分間に文章の音読を(読みBEST),昼休み終了後の5分間に簡単な計算問題など筆記課題を(書きBEST),できるだけ速くかつ正確に行う。しかしながら,BESTが生徒の認知能力のどの側面に影響しているかは明らかではない。本研究では,BESTへの取り組みの有無が中学生の認知能力や学業成績にどのような影響を与えているかを実証的に調べていく。
方 法
参加者 長崎大学教育学部附属中学校第1学年4クラス143名(男子71名,女子72名)を2クラスずつに分け,一方をBESTあり群(71名),他方をBESTなし群(72名)とした。BESTの有無は前期と後期で入れ替え,機会の不平等が起こらないよう配慮した(本研究は前期に行った)。
評価課題 (1)学業成績:国語・社会・数学・理科・英語に関して,前期実力テストの成績を指標とした。(2)推論課題:キャッテル知能検査Scale 3を使用した。プレテストにはForm Aの検査1,2,3を,ポストテストにはForm Bの検査5,6,7を実施した。(3)言語課題:京大NX15検査の第5検査と第10検査を使用した。プレテストには奇数番号の問題,ポストテストには偶数番号の問題を実施した。(4)空間課題:京大NX15検査の第2検査と第7検査を使用した。プレテストには奇数番号の問題,ポストテストには偶数番号の問題を実施した。(5)処理速度課題:WISC-IVの記号課題を用いた。1から9までの各数字に割り当てられた記号を,数字列の各数字の下の解答欄に速くかつ正確に書いていく課題であった。プレテスト・ポストテストともに同じ問題を用いた。
トレーニング課題 BESTあり群はBESTを通常の方法で朝昼5分ずつ行った。BESTなし群はその間,自分の読みたい小説を黙読した。
調査実施日程概要 4月中旬に1回目の推論課題・言語課題・空間課題・単純処理速度課題を実施し,約3か月後の7月中旬に2回目を実施した。前期実力テストは8月末であった。
結果と考察
各課題の成績の変化をFigure 1に示した。BEST条件×実施時期の2要因混合ANOVAの結果,処理速度のみ交互作用が有意で(F (1, 141) = 12.47, p < .001),7月のBESTあり群のほうがBESTなし群よりも有意に成績が高かった。
実力テストの各教科の成績に対して,BEST条件を要因とした1要因参加者間ANOVAを行ったが,いずれも有意な差は見られなかった。
BESTは簡単な課題をできるだけ早くかつ正確に処理することを繰り返し練習するため,単純な情報の処理速度が向上したのだと考えられる。しかし,その効果が複雑な認知課題の解決や学業成績にまで般化して影響を及ぼすことはなかった。次は処理速度の向上に影響しているのが音読課題なのか筆記課題なのか,それともその両方が必要なのかを詳細に検討する必要がある。