[PH30] 教科書を活用した数学授業における説明活動の効果
高校の授業における実践から
キーワード:説明活動, 教科書, 数学
問題と目的
初期の数学的問題解決スキルの獲得において例題を用いた学習は重要である(Renkl et al., 1998)。例題は,問題文,解法ステップ,最終解で構成される(Schworm & Renkl, 2006)。Renkl(1997)は,例題の解法ステップの理解を促進する上で自己説明が有益であること,特に「なぜこの解法ステップを取るのか」を数学的概念に基づき推論・説明することで成績が向上しうることを明らかにした。
しかしながら,例題には背景となる数学的概念の解説が十分には書かれておらず,初学者にとって説明が困難であると指摘されている(Atkinson et al., 2000)。そのため,授業で自己説明を取り入れる上では,事前に数学概念の説明活動を行い理解を促進させること(cf. Roelle et al., 2017),また,教師が「なぜこの解法ステップを取るのか」を解説し,ポイントを教科書に書き込ませ,例題の自己説明のガイドを作っておくことが必要であろう。
以上から,本研究では,数学授業において事前に数学概念についての説明活動および例題の解説を行い,教科書にポイントを書き込ませるという足場かけを行なった上で例題の自己説明をさせることで,数学の概念理解および問題解決スキルが高まるかどうかを明らかにすることを目的とする。
方 法
対象 公立高校2年生68名(文系3クラス)。うち1クラスを実験クラス(説明活動・教科書への書き込み推奨あり),残り2クラスを統制クラス(上記介入なし)に割り当てた。
授業者 数学科教員1名(29歳,教職歴7年)
時期 2017年9月—2018年12月,週3コマ
材料 数学教科書(数研出版・新編数学Ⅱ,図形と方程式,微分法・積分法)
授業の流れ 授業冒頭,教師から「本時の授業のキーワード」が提示された。次に,教科書の記述に沿って,教師が数学概念の解説を行った。続いて実験クラスでは,教師が解説した数学概念についての発問をし,ペアで約2分間説明活動を行わせた(e.g., 導関数の意味を正しく説明しよう)。その後,教科書の例題を提示し,解法ステップの背景原理を解説した。実験クラスでは,ポイントになる内容は教科書に書き込むよう促した。続いて,実験クラスでは再度ペアになり,例題ステップの背景原理に関する発問を行い,ペアで約2分間説明活動を行わせた(e.g., なぜこのステップで微分をしているのか,理由を説明しよう)。その後,練習問題を解かせ,教師から解説を行った。なお,統制クラスでも教師の解説内容は同一であった。介入による時間差は,解説する問題数を減らすことで調整した。また,必ずしも毎回この流れではなく,演習をメインとする授業等も適宜行われた。
測定 小テスト2回と定期テスト2回(中間・期末)が実施された。小テストは説明問題と求値問題,定期テストは求値問題のみで構成された。なお,1回目の小テストは介入前の範囲,中間テストは介入前と介入範囲の両方から出題された。
結果・考察
予備分析 介入前に行われた定期テストの得点について,群間差は認められなかった。以降,事前成績を共変量として用いた。
小テスト得点 1回目の小テスト(介入前範囲)について共分散分析を行ったところ,2群に差は認められなかった(F(1,64)=1.74, p >.05)。2回目の小テスト(介入範囲)については,交互作用が有意傾向であり(F(1.63)=3.41, p =.07)説明問題のみ実験クラスの方が成績が高い傾向があった。
定期テスト得点 中間テストでは実験クラスの方が有意に得点が高く(F(1,65)=9.74, p <.01),出題範囲別に分析を行ったところ交互作用が有意であり(F(1,66)=6.90, p <.05),介入範囲のみ実験クラスの方が成績が高かった。また,期末テストも実験クラスの方が成績が高いという結果が得られた(F(1.65)=6.12, p <.05)。
以上から,足場かけを行なった上での自己説明によって,問題解決スキルが高まったことが示唆された。ただし,今回は2つの介入を一度に操作しているため,影響を切り分けることは困難であること,概念理解は有意傾向であることから更なる介入の工夫が必要であるという課題が残された。
初期の数学的問題解決スキルの獲得において例題を用いた学習は重要である(Renkl et al., 1998)。例題は,問題文,解法ステップ,最終解で構成される(Schworm & Renkl, 2006)。Renkl(1997)は,例題の解法ステップの理解を促進する上で自己説明が有益であること,特に「なぜこの解法ステップを取るのか」を数学的概念に基づき推論・説明することで成績が向上しうることを明らかにした。
しかしながら,例題には背景となる数学的概念の解説が十分には書かれておらず,初学者にとって説明が困難であると指摘されている(Atkinson et al., 2000)。そのため,授業で自己説明を取り入れる上では,事前に数学概念の説明活動を行い理解を促進させること(cf. Roelle et al., 2017),また,教師が「なぜこの解法ステップを取るのか」を解説し,ポイントを教科書に書き込ませ,例題の自己説明のガイドを作っておくことが必要であろう。
以上から,本研究では,数学授業において事前に数学概念についての説明活動および例題の解説を行い,教科書にポイントを書き込ませるという足場かけを行なった上で例題の自己説明をさせることで,数学の概念理解および問題解決スキルが高まるかどうかを明らかにすることを目的とする。
方 法
対象 公立高校2年生68名(文系3クラス)。うち1クラスを実験クラス(説明活動・教科書への書き込み推奨あり),残り2クラスを統制クラス(上記介入なし)に割り当てた。
授業者 数学科教員1名(29歳,教職歴7年)
時期 2017年9月—2018年12月,週3コマ
材料 数学教科書(数研出版・新編数学Ⅱ,図形と方程式,微分法・積分法)
授業の流れ 授業冒頭,教師から「本時の授業のキーワード」が提示された。次に,教科書の記述に沿って,教師が数学概念の解説を行った。続いて実験クラスでは,教師が解説した数学概念についての発問をし,ペアで約2分間説明活動を行わせた(e.g., 導関数の意味を正しく説明しよう)。その後,教科書の例題を提示し,解法ステップの背景原理を解説した。実験クラスでは,ポイントになる内容は教科書に書き込むよう促した。続いて,実験クラスでは再度ペアになり,例題ステップの背景原理に関する発問を行い,ペアで約2分間説明活動を行わせた(e.g., なぜこのステップで微分をしているのか,理由を説明しよう)。その後,練習問題を解かせ,教師から解説を行った。なお,統制クラスでも教師の解説内容は同一であった。介入による時間差は,解説する問題数を減らすことで調整した。また,必ずしも毎回この流れではなく,演習をメインとする授業等も適宜行われた。
測定 小テスト2回と定期テスト2回(中間・期末)が実施された。小テストは説明問題と求値問題,定期テストは求値問題のみで構成された。なお,1回目の小テストは介入前の範囲,中間テストは介入前と介入範囲の両方から出題された。
結果・考察
予備分析 介入前に行われた定期テストの得点について,群間差は認められなかった。以降,事前成績を共変量として用いた。
小テスト得点 1回目の小テスト(介入前範囲)について共分散分析を行ったところ,2群に差は認められなかった(F(1,64)=1.74, p >.05)。2回目の小テスト(介入範囲)については,交互作用が有意傾向であり(F(1.63)=3.41, p =.07)説明問題のみ実験クラスの方が成績が高い傾向があった。
定期テスト得点 中間テストでは実験クラスの方が有意に得点が高く(F(1,65)=9.74, p <.01),出題範囲別に分析を行ったところ交互作用が有意であり(F(1,66)=6.90, p <.05),介入範囲のみ実験クラスの方が成績が高かった。また,期末テストも実験クラスの方が成績が高いという結果が得られた(F(1.65)=6.12, p <.05)。
以上から,足場かけを行なった上での自己説明によって,問題解決スキルが高まったことが示唆された。ただし,今回は2つの介入を一度に操作しているため,影響を切り分けることは困難であること,概念理解は有意傾向であることから更なる介入の工夫が必要であるという課題が残された。