[PH31] ピア・レスポンスにおける困難の日本語母語話者と日本語学習者の差異
キーワード:ピア・レスポンス, 日本語母語話者, 日本語学習者
目 的
近年大学においてもアクティブラーニングが必要とされ,アクティブラーニングを導入した授業が行われるようになっている。しかし,アクティブラーニングの一つであるピア・レスポンスを導入・運用する際の困難も教師側から耳にすることもある。では,ピア・レスポンスの参加者は,ピア・レスポンスに困難を感じているのだろうか。感じているとしたら,どのような困難なのだろうか。本研究の予備調査である石毛(2016)において日本語学習者にピア・レスポンスで困ったことやアドバイスがしにくかったことを尋ねたところ,「評価基準を十分に理解できていなかったためコメントができなかった」「自分の意見を表す文型を最初の授業の時に少し教えたほうがいい」という回答が得られ,後者の回答は日本語学習者特有であり,日本語母語話者には見られないであろうと推測されていた。本研究では,対象者を日本語学習者のみならず日本語母語話者へと広げ,参加者はピア・レスポンスに困難を感じているのか,感じているとすればどのような点か,分析する。
方 法
参加者 日本語母語話者17名,日本語学習者15名(1名未回答)。参加者には本研究の目的,参加拒否の権利,匿名性の確保,データの管理について説明し,参加同意を得た。
手続き 日本語母語話者は1学期で1つのレポートを書くことを目標とする授業の参加者であった。授業回数は約30回であり,ピア・レスポンスは約15回の授業で実施された。参加者によってテーマはそれぞれ異なり,ピア・レスポンスにおいてコースの前半では調べた文献の要約を報告し,後半ではレポートの一部を報告した。
日本語学習者は「作文」の授業の参加者であった。授業回数は1学期約15回であり,ピア・レスポンスは約5回の授業で実施され,各回作文の課題は異なった。参加者は同一の課題で作文を書いた。参加者は教員に作文を提出し,教員は文法・語彙のみにコメントをして返却した。参加者は,その作文についてピア・レスポンスを行った。
日本語母語話者,日本語学習者ともにピア・レスポンスを行うグループメンバーは固定ではなかった。グループのサイズは2~4名であった。両者ともにピア・レスポンスで他者のプロダクトについて不明な点があれば質問をするというのが同一の活動であった。日本語母語話者はさらに研究計画との整合性や今後の進捗の確認を行うこと,日本語学習者は他者の作文でよかった作文を理由も含めて挙げること,教員が文法や語彙について「要説明」と書いた部分をグループで話し合って改善することが求められていた。
すべてのピア・レスポンス終了後,グーグルスプレッドシートに,ピア・レスポンスで困ったこと・他の学生にアドバイスがしにくかったことの有無と,あれば内容を入力してもらった。
結果・考察
困ったことやアドバイスがしにくかったことがあると回答したのは日本語母語話者17名のうち4名,日本語学習者14名のうち7名であった。母語話者より学習者のほうが,ピア・レスポンスに困難を感じることがあるということが伺えた。
日本語母語話者が主に挙げていたのは,「自己の既有知識の不足」に関する点であった。「他者のプロダクトについて不明な点があれば質問をする」という活動がピア・レスポンスには含まれていたが,不明なのは自己の既有知識不足によるものなのか,相手の説明不足によるものなのか判断に迷い,質問がしにくかったということであった。レポートの読み手は教員とクラスのメンバーと想定するように指導しており,不明な点への質問は奨励していたが,質問のしやすい十分な雰囲気作りができていなかったと考えられる。
日本語学習者の場合は,主に「自分の伝えたいことをうまく伝えられない」という回答が見られた。母語であっても自分がよいと思った理由を具体的に挙げることは難しいが,石毛(2016)で見られたような,自分の意見を言う文型が十分に習得されていないことも原因として考えられる。
以上のように,求められているタスクの違いはあるが,日本語母語話者と日本語学習者ではピア・レスポンスにおける困難が異なることが示唆された。
引用文献
石毛順子(2016)「『ピア・レスポンスにおける日本語母語話者と日本語学習者の差異』パイロット調査報告」 『日本質的心理学会第13回大会抄録集』57.
付 記
本研究は科研費基盤研究(C) 15K02645「ピア・レスポンスにおける日本語母語話者と日本語学習者の差異」の助成を受けている。
近年大学においてもアクティブラーニングが必要とされ,アクティブラーニングを導入した授業が行われるようになっている。しかし,アクティブラーニングの一つであるピア・レスポンスを導入・運用する際の困難も教師側から耳にすることもある。では,ピア・レスポンスの参加者は,ピア・レスポンスに困難を感じているのだろうか。感じているとしたら,どのような困難なのだろうか。本研究の予備調査である石毛(2016)において日本語学習者にピア・レスポンスで困ったことやアドバイスがしにくかったことを尋ねたところ,「評価基準を十分に理解できていなかったためコメントができなかった」「自分の意見を表す文型を最初の授業の時に少し教えたほうがいい」という回答が得られ,後者の回答は日本語学習者特有であり,日本語母語話者には見られないであろうと推測されていた。本研究では,対象者を日本語学習者のみならず日本語母語話者へと広げ,参加者はピア・レスポンスに困難を感じているのか,感じているとすればどのような点か,分析する。
方 法
参加者 日本語母語話者17名,日本語学習者15名(1名未回答)。参加者には本研究の目的,参加拒否の権利,匿名性の確保,データの管理について説明し,参加同意を得た。
手続き 日本語母語話者は1学期で1つのレポートを書くことを目標とする授業の参加者であった。授業回数は約30回であり,ピア・レスポンスは約15回の授業で実施された。参加者によってテーマはそれぞれ異なり,ピア・レスポンスにおいてコースの前半では調べた文献の要約を報告し,後半ではレポートの一部を報告した。
日本語学習者は「作文」の授業の参加者であった。授業回数は1学期約15回であり,ピア・レスポンスは約5回の授業で実施され,各回作文の課題は異なった。参加者は同一の課題で作文を書いた。参加者は教員に作文を提出し,教員は文法・語彙のみにコメントをして返却した。参加者は,その作文についてピア・レスポンスを行った。
日本語母語話者,日本語学習者ともにピア・レスポンスを行うグループメンバーは固定ではなかった。グループのサイズは2~4名であった。両者ともにピア・レスポンスで他者のプロダクトについて不明な点があれば質問をするというのが同一の活動であった。日本語母語話者はさらに研究計画との整合性や今後の進捗の確認を行うこと,日本語学習者は他者の作文でよかった作文を理由も含めて挙げること,教員が文法や語彙について「要説明」と書いた部分をグループで話し合って改善することが求められていた。
すべてのピア・レスポンス終了後,グーグルスプレッドシートに,ピア・レスポンスで困ったこと・他の学生にアドバイスがしにくかったことの有無と,あれば内容を入力してもらった。
結果・考察
困ったことやアドバイスがしにくかったことがあると回答したのは日本語母語話者17名のうち4名,日本語学習者14名のうち7名であった。母語話者より学習者のほうが,ピア・レスポンスに困難を感じることがあるということが伺えた。
日本語母語話者が主に挙げていたのは,「自己の既有知識の不足」に関する点であった。「他者のプロダクトについて不明な点があれば質問をする」という活動がピア・レスポンスには含まれていたが,不明なのは自己の既有知識不足によるものなのか,相手の説明不足によるものなのか判断に迷い,質問がしにくかったということであった。レポートの読み手は教員とクラスのメンバーと想定するように指導しており,不明な点への質問は奨励していたが,質問のしやすい十分な雰囲気作りができていなかったと考えられる。
日本語学習者の場合は,主に「自分の伝えたいことをうまく伝えられない」という回答が見られた。母語であっても自分がよいと思った理由を具体的に挙げることは難しいが,石毛(2016)で見られたような,自分の意見を言う文型が十分に習得されていないことも原因として考えられる。
以上のように,求められているタスクの違いはあるが,日本語母語話者と日本語学習者ではピア・レスポンスにおける困難が異なることが示唆された。
引用文献
石毛順子(2016)「『ピア・レスポンスにおける日本語母語話者と日本語学習者の差異』パイロット調査報告」 『日本質的心理学会第13回大会抄録集』57.
付 記
本研究は科研費基盤研究(C) 15K02645「ピア・レスポンスにおける日本語母語話者と日本語学習者の差異」の助成を受けている。