[PH33] 教師研究におけるインストラクショナルスピーチ,自己効力感,成長の関係
英語教師の日本語使用と英語使用をめぐって
キーワード:インストラクショナル・スピーチ, 自己効力感, 教師オートノミー
教師研究の意義
教師研究は,学習者と対をなすもう一方の教育主体としての教師の心理や知識,行動の研究である。しかしながら,藤岡(2006)は,これまで,学びの主体,即ち「学習する人」「成長・発展していく人」としての教師を議論した研究が「欠けている」(p. 1)と述べている。この要因の一つに,その方法論が妥当かという正当性の問題や,また,分析方法が必ずしも定性的あるいは定量的に統一・統合されていないという点が考えられる。
中田(2006)は,教授・学習の両面に関する動機づけや意欲の研究を概観し,教師の省察研究が必ずしも「教師のやり甲斐がある(practitioner- rewarding)」ものではないと警鐘を鳴らし,教授中心に検討すべきであるとしている(p.77)。同様に,G.フェンスターマッハの理論を基に,教師の知識の発展を一般的信念ではなくある文脈における「客観的に理に適った」信念として捉え直し,実践的な「語り口」として再構築しようとする提案もある(鈴木, 2012, p. 13)。これらは教師の自律や自己調整を研究する教師オートノミーにも通じる。
教授と学習の関係は,社会的・認知的に密接に関係している。ある教師の授業の在り方そのものが学習者心理や学業的成績と少なからず関係することを考えれば,教師のやり甲斐や教育方法論の視点で授業を研究することで学習をより大きな成功へと導くことが可能となる。
英語教師のことばの役割の変化
グローバル社会の拡大と共に,小学3・4年生の英語活動,5・6年教科化,中学高校の授業「原則英語」など,外国語教育における言語的介入方法が教師や研究者の間で議論を呼んでいる。教師の英語使用の問題は,学習者・教師共に母語(日本語)をどう使うか(減らすか)という,より広い研究課題を含んでいる。それは,外国語に対する不安解消をはじめ,母語に介入的制限を加える必要もあることから,教師が教室で用いることばの役割が従来の「クラスルーム・イングリッシュ」から「教室教授言語(インストラクショナル・スピーチ)」へと本質的に変わろうとしていることを示唆している(Omote, 2017)。したがって,この新しいことばの役割を考える上では目標としての英語使用を考えるだけでは十分ではなく,教師の心理や知識・信念との関係から英語使用と日本語使用の両面で考える必要がある。
自己効力感
自己効力感は,教師の信念と実践を相互に関連付け,教授言語と教師研究を繋げる心理的概念として有用である。Omote(2017)は,A.バンデューラの社会的認知理論に基づき,質問紙と6名の教師への面接データを混合法により統合し,自己効力感を軸に日本語と英語を相補的に機能・変換させながら実践する教師像を浮き彫りにした。Omoteによると,日・英言語使用と自己効力感の関係は,個人(効力感)と実践(行動)の相互作用としてFigure 1のようにモデル化されている。
本研究は,英語教師の教授言語と行動原理に焦点を当て,これらを混合法により定量・定性の両面から観察・統合し,社会的認知理論に基づいて探る。また,そこに浮かび上る教師の「語り口」を解釈・同定する過程を通じて教師教育や学習の成功への何らかの示唆を得ることを目的とする。
方法・結果
4名の教師(中学2名,高校2名,各校種ごとに教職経験5年未満と20年前後のペア)の授業観察とインタビューを通じて取得した2種類のデータを用いた。前者は日・英の使用比やそれぞれの機能と目的を量的に分析,後者は,鈴木(2012)を参考にフェンスターマッハの実践的討論の概念を用い,教師がどのように教授言語に関する知識を発展させ,どのような行動原理で行動したのか分析し,2つの結果を統合して考察した。
教師は,ある状況を前に,期待されている任務(英語使用・日本語使用)に矛盾や葛藤を感じると,期待に応える際の自身の能力の強みや弱みから,効力認知を梃子とする経験的判断を行なっていた。これを教師オートノミーと教師の成長との関係から解釈することで教室教授言語における教師の行動原理が明らかとなった。
参考文献
藤岡完治 (2006). プロローグ成長する教師. 『成長する教師−教師学への誘い−』(藤岡完治・生田孝至・浅田 匡編著)(pp. 1-6.) 東京: 金子書房.
中田賀之 (2006). 「英語学習動機づけ」から「英語学習 意欲」の研究への転換―研究対象領域,研究手法,研究目的の観点から. 『Language Education & Technology』, 43, 77-94.
Omote, A. (2017). Teacher Self-Efficacy and Instructional Speech: How Teachers Behave Efficaciously in the EFL Classroom. JALT Journal, 39, 89-116.
鈴木悠太. (2012). G.フェンスターマッハの「実践的討論(practical arguments)」概念の再検討―教師の実践的ディスコース研究の起点として 『教師学研究』, 11, 13-22.
教師研究は,学習者と対をなすもう一方の教育主体としての教師の心理や知識,行動の研究である。しかしながら,藤岡(2006)は,これまで,学びの主体,即ち「学習する人」「成長・発展していく人」としての教師を議論した研究が「欠けている」(p. 1)と述べている。この要因の一つに,その方法論が妥当かという正当性の問題や,また,分析方法が必ずしも定性的あるいは定量的に統一・統合されていないという点が考えられる。
中田(2006)は,教授・学習の両面に関する動機づけや意欲の研究を概観し,教師の省察研究が必ずしも「教師のやり甲斐がある(practitioner- rewarding)」ものではないと警鐘を鳴らし,教授中心に検討すべきであるとしている(p.77)。同様に,G.フェンスターマッハの理論を基に,教師の知識の発展を一般的信念ではなくある文脈における「客観的に理に適った」信念として捉え直し,実践的な「語り口」として再構築しようとする提案もある(鈴木, 2012, p. 13)。これらは教師の自律や自己調整を研究する教師オートノミーにも通じる。
教授と学習の関係は,社会的・認知的に密接に関係している。ある教師の授業の在り方そのものが学習者心理や学業的成績と少なからず関係することを考えれば,教師のやり甲斐や教育方法論の視点で授業を研究することで学習をより大きな成功へと導くことが可能となる。
英語教師のことばの役割の変化
グローバル社会の拡大と共に,小学3・4年生の英語活動,5・6年教科化,中学高校の授業「原則英語」など,外国語教育における言語的介入方法が教師や研究者の間で議論を呼んでいる。教師の英語使用の問題は,学習者・教師共に母語(日本語)をどう使うか(減らすか)という,より広い研究課題を含んでいる。それは,外国語に対する不安解消をはじめ,母語に介入的制限を加える必要もあることから,教師が教室で用いることばの役割が従来の「クラスルーム・イングリッシュ」から「教室教授言語(インストラクショナル・スピーチ)」へと本質的に変わろうとしていることを示唆している(Omote, 2017)。したがって,この新しいことばの役割を考える上では目標としての英語使用を考えるだけでは十分ではなく,教師の心理や知識・信念との関係から英語使用と日本語使用の両面で考える必要がある。
自己効力感
自己効力感は,教師の信念と実践を相互に関連付け,教授言語と教師研究を繋げる心理的概念として有用である。Omote(2017)は,A.バンデューラの社会的認知理論に基づき,質問紙と6名の教師への面接データを混合法により統合し,自己効力感を軸に日本語と英語を相補的に機能・変換させながら実践する教師像を浮き彫りにした。Omoteによると,日・英言語使用と自己効力感の関係は,個人(効力感)と実践(行動)の相互作用としてFigure 1のようにモデル化されている。
本研究は,英語教師の教授言語と行動原理に焦点を当て,これらを混合法により定量・定性の両面から観察・統合し,社会的認知理論に基づいて探る。また,そこに浮かび上る教師の「語り口」を解釈・同定する過程を通じて教師教育や学習の成功への何らかの示唆を得ることを目的とする。
方法・結果
4名の教師(中学2名,高校2名,各校種ごとに教職経験5年未満と20年前後のペア)の授業観察とインタビューを通じて取得した2種類のデータを用いた。前者は日・英の使用比やそれぞれの機能と目的を量的に分析,後者は,鈴木(2012)を参考にフェンスターマッハの実践的討論の概念を用い,教師がどのように教授言語に関する知識を発展させ,どのような行動原理で行動したのか分析し,2つの結果を統合して考察した。
教師は,ある状況を前に,期待されている任務(英語使用・日本語使用)に矛盾や葛藤を感じると,期待に応える際の自身の能力の強みや弱みから,効力認知を梃子とする経験的判断を行なっていた。これを教師オートノミーと教師の成長との関係から解釈することで教室教授言語における教師の行動原理が明らかとなった。
参考文献
藤岡完治 (2006). プロローグ成長する教師. 『成長する教師−教師学への誘い−』(藤岡完治・生田孝至・浅田 匡編著)(pp. 1-6.) 東京: 金子書房.
中田賀之 (2006). 「英語学習動機づけ」から「英語学習 意欲」の研究への転換―研究対象領域,研究手法,研究目的の観点から. 『Language Education & Technology』, 43, 77-94.
Omote, A. (2017). Teacher Self-Efficacy and Instructional Speech: How Teachers Behave Efficaciously in the EFL Classroom. JALT Journal, 39, 89-116.
鈴木悠太. (2012). G.フェンスターマッハの「実践的討論(practical arguments)」概念の再検討―教師の実践的ディスコース研究の起点として 『教師学研究』, 11, 13-22.