[PH43] メディア史・メディア論をネット教育に加味した教師教育実践の試み
Keywords:ネット教育, 教師教育, メディア論
問 題
教職大学院で試行したネット教育に関する教師教育実践事例について,その企図と現時点での成果および検討中の課題を報告する。
スマホ等のネット利用は小中学生にも普及が著しい。身近な人間関係におけるトラブルや「いじめ」等への発展,犯罪や反社会的事象への接近など,ネットをめぐる青少年のトラブル事案についても報道や報告が跡を絶たない。
ネット教育の必要性や充実も謳われて久しく,学校内外を巻き込んでの優れた教育的実践,専門家や関連企業による教材提供,対応の拡大など,重要なノウハウや資料の蓄積も進んでいる。
他方で,とみに報道され社会問題化しているように,教師の多忙化は深刻な状況にある。その必要性がわかっていてもネット教育の充実を図ることは決して容易ではない。年齢が若くネット利用経験もある教師の場合は,意識も高くネット教育にも積極的に取り組む傾向があるものの,必ずしも十分な指導経験を持たず,適切な教材や指導法の発見に時間がかかる等の困難が伴う。また,経験を積んだベテランの教師は,その必要性を理解しつつも,ネット利用経験の相対的な乏しさから,自分の担当ではない,若い世代に任せればよい等の意識を持ちがちで,ネット教育に腰が引けてしまいやすい。
蓄積されたネット教育の教材や知見を継承し活用しつつ,若手の負担感を軽減するとともにベテランの積極的な関与を促し,ネット教育自体を充実させるための方策を模索して本実践を行った。
方 法
熊本大学教職大学院(2017年度発足)において新設された複合科目「ネット教育コミュニケーション論」において,上記の問題意識に即した講義内容を構想,実践を開始した。
日時:教職大学院発足以前の2016年度中から準備を行い,2017年度については5月27日,6月3日,6月17日の3日間にわたる集中講義形式で実施した。
概要:同講義は他の教職大学院開講科目と同様のチームティーチング制で実施され,研究者教員(著者)1名と実務家教員1名が担当した。
実務家教員は公立中学校等でネット教育の実務に長年携わっており,ICT技術の教育的活用など教師教育についても豊富な経験と知見を有している。その経験とアドバイスに即して全体の授業構成を設定した(詳細資料は当日掲示)。
延べ3日間にわたる集中講義は,研究者教員である著者による座学中心の講義と討議,および,実務家教員の指導による実践的な資料収集,ディベート,模擬授業実施と相互討議等を,交互に織り交ぜる形式で行われた。
著者が座学を中心とする講義で試行したのは次のような話題提供と討議である。
(1)メディア史についての資料と知見を豊富に提示し,歴史的観点から現代のネット状況を概観する視座を提供した。
ネット教育においてはスマホ利用やLINEトラブル等の現代的事象を中心的に取り扱う場合が多い。それに対し,江戸時代のメディア状況や鉄道発展史など,あえて現代とは離れた視点を含めて,メディアの現代を検討した。その急激な発展や深甚な社会変動の様相を検討し,なぜネットメディアが魅力的でトラブルを惹起するかを討議した。
(2)電子メディアに関する心理学的,哲学的,社会学的論考の内容を平易に解説し,ネット接続時に発生する特有の心性とそこで生じる個人の関係性に関する,最新の議論を提示した。
あわせて,「ネットいじめ」「ネット犯罪」等に関する報告書や報道資料等を活用し,一見理解し難い特異な事象や行動の背景に,個々人の陥りやすい心的傾向や,青少年にとって避けがたい魅力の潜んでいることを解説,参加者と討議を深めた。
結果と考察
なぜ青少年がネットに魅了されやめられなくなるか,なぜ信じがたいトラブルが発生するかについて,歴史的な背景と心理的な誘因への理解を通して認識が非常に深まったとの感想が受講者からは得られた。単純にネットを悪とみなし禁止しても効果はなく,適切な利用法を児童生徒と開発する必要性を認識したとの感想も多数見られた。
一見すると迂遠な歴史的・哲学的講義が,実務家教員の指導による討議や模擬授業と相互に刺激し合うことで大きな教育的効果をもたらした。講義の実際と検討中の課題,さらなる発展可能性について当日詳細を報告する。
付 記
本研究の実施にあたり下記の助成を受けた。
安心ネットづくり促進協議会2017年度研究支援事業JSPS KAKENHI Grant Number JP18K03008
教職大学院で試行したネット教育に関する教師教育実践事例について,その企図と現時点での成果および検討中の課題を報告する。
スマホ等のネット利用は小中学生にも普及が著しい。身近な人間関係におけるトラブルや「いじめ」等への発展,犯罪や反社会的事象への接近など,ネットをめぐる青少年のトラブル事案についても報道や報告が跡を絶たない。
ネット教育の必要性や充実も謳われて久しく,学校内外を巻き込んでの優れた教育的実践,専門家や関連企業による教材提供,対応の拡大など,重要なノウハウや資料の蓄積も進んでいる。
他方で,とみに報道され社会問題化しているように,教師の多忙化は深刻な状況にある。その必要性がわかっていてもネット教育の充実を図ることは決して容易ではない。年齢が若くネット利用経験もある教師の場合は,意識も高くネット教育にも積極的に取り組む傾向があるものの,必ずしも十分な指導経験を持たず,適切な教材や指導法の発見に時間がかかる等の困難が伴う。また,経験を積んだベテランの教師は,その必要性を理解しつつも,ネット利用経験の相対的な乏しさから,自分の担当ではない,若い世代に任せればよい等の意識を持ちがちで,ネット教育に腰が引けてしまいやすい。
蓄積されたネット教育の教材や知見を継承し活用しつつ,若手の負担感を軽減するとともにベテランの積極的な関与を促し,ネット教育自体を充実させるための方策を模索して本実践を行った。
方 法
熊本大学教職大学院(2017年度発足)において新設された複合科目「ネット教育コミュニケーション論」において,上記の問題意識に即した講義内容を構想,実践を開始した。
日時:教職大学院発足以前の2016年度中から準備を行い,2017年度については5月27日,6月3日,6月17日の3日間にわたる集中講義形式で実施した。
概要:同講義は他の教職大学院開講科目と同様のチームティーチング制で実施され,研究者教員(著者)1名と実務家教員1名が担当した。
実務家教員は公立中学校等でネット教育の実務に長年携わっており,ICT技術の教育的活用など教師教育についても豊富な経験と知見を有している。その経験とアドバイスに即して全体の授業構成を設定した(詳細資料は当日掲示)。
延べ3日間にわたる集中講義は,研究者教員である著者による座学中心の講義と討議,および,実務家教員の指導による実践的な資料収集,ディベート,模擬授業実施と相互討議等を,交互に織り交ぜる形式で行われた。
著者が座学を中心とする講義で試行したのは次のような話題提供と討議である。
(1)メディア史についての資料と知見を豊富に提示し,歴史的観点から現代のネット状況を概観する視座を提供した。
ネット教育においてはスマホ利用やLINEトラブル等の現代的事象を中心的に取り扱う場合が多い。それに対し,江戸時代のメディア状況や鉄道発展史など,あえて現代とは離れた視点を含めて,メディアの現代を検討した。その急激な発展や深甚な社会変動の様相を検討し,なぜネットメディアが魅力的でトラブルを惹起するかを討議した。
(2)電子メディアに関する心理学的,哲学的,社会学的論考の内容を平易に解説し,ネット接続時に発生する特有の心性とそこで生じる個人の関係性に関する,最新の議論を提示した。
あわせて,「ネットいじめ」「ネット犯罪」等に関する報告書や報道資料等を活用し,一見理解し難い特異な事象や行動の背景に,個々人の陥りやすい心的傾向や,青少年にとって避けがたい魅力の潜んでいることを解説,参加者と討議を深めた。
結果と考察
なぜ青少年がネットに魅了されやめられなくなるか,なぜ信じがたいトラブルが発生するかについて,歴史的な背景と心理的な誘因への理解を通して認識が非常に深まったとの感想が受講者からは得られた。単純にネットを悪とみなし禁止しても効果はなく,適切な利用法を児童生徒と開発する必要性を認識したとの感想も多数見られた。
一見すると迂遠な歴史的・哲学的講義が,実務家教員の指導による討議や模擬授業と相互に刺激し合うことで大きな教育的効果をもたらした。講義の実際と検討中の課題,さらなる発展可能性について当日詳細を報告する。
付 記
本研究の実施にあたり下記の助成を受けた。
安心ネットづくり促進協議会2017年度研究支援事業JSPS KAKENHI Grant Number JP18K03008