[PH55] 障害者差別解消法施行後の国立大学における障害学生対応に関する実態調査
キーワード:当事者参加, 障害者差別解消法, 対応要領
目 的
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」は2016年施行されたが,本法は国連の「障害者の権利に関する条約 (The Convention on the
Rights of Persons with Disabilities)」の締結に向けた国内法整備の一環として定められ,障害者基本法4条「差別の禁止」を具現化したものであった。これによって国立大学においては対応要領を定め公表義務を課されたが,果たして当事者主義(Nothing about us without us!)や合理的配慮(reasonable accommodation)の不提供を差別に含めた禁止を訴えた条約の精神を伝えているのか,学生支援の実態と共に調べてみることにした。
方 法
国立大学86校に対して主として障害学生の相談担当に従事しているスタッフに対して郵送による質問紙調査を行った。質問項目は⑴対応要領の作成状況および作成時における当事者の参加度 ⑵相談・支援体制の状況 ⑶合理的配慮の提供状況 ⑷教職員の理解を促す取り組み等全部で32項目によって構成された。尚,質問紙発送は2017年11月13日,回収期限は12月22日までとした。
結 果
回収率は86校中36校で41.9%だった。
①対応要領作成と当事者参加について
対応要領については回答のあった36校の内,1校を除いて35校で作成・公開されていた。公開日は2016年2月が1校,3月が12校,4月が18校と法施行に間に合わせた感が強い。対応要領作成のための会議については,無回答を除いた30校のうち19校が国立大学協会の雛形公表以降に始められており,会議期間は1~2ケ月間,会議回数は3~4回が最も多かった。また,障害当事者の参加度については障害学生,障害教職員,外部の当事者のうち少なくとも一人は会議に参加したと回答した大学は9校であったが,その内支援を受ける主体である学生の参加は1校のみとされた。
②相談・支援体制について
現在支援している学生がいると回答した大学は
31校(86.1%)だった。障害学生支援に関する委員会や障害学生のために相談窓口の設置状況はいずれも9割を超えていた。しかし,継続支援のニーズも高く,専任スタッフ1人当たりの学生数は平均で17.3人,最も多い大学で53.5人と報告された。
③合理的配慮の提供について
情報伝達補助手段として「筆談器」が21校(58.3%),「拡大読書器」が18校(50%),「手話通訳」が11校(30.6%),「その他」が14校(38.9%)とされた。事務手続きの代筆可否については可能とした大学が32校(88.9%)。授業においては座席の配慮,休憩時間の確保,教材の電子化,ノートテイク,録音機器の使用など多様な実態が報告された。また,個別支援計画を活用しながら支援を行っているのは11校(30.6%)で,高校までに作成されていた個別の教育支援計画を大学に提出している学生は9校(25.0%)であった。
④教職員に対する研修・啓発
障害者差別解消法・合理的配慮に関する研修・啓発を行っている大学は30校(83.3%),行っていない大学は6校(16.7%)とされた。
考 察
対応要領はほとんどの大学において作成されていたが,その作成プロセスを調べてみると障害のある学生当事者の意見を聴取した大学は極めて少なく,当事者性が等閑にされていた。しかし,その一方で障害学生支援に関する委員会や障害学生専用相談窓口の設置状況はいずれも9割を超えており,現実的な支援については86%の大学で実施され,合理的配慮の内容についても計画を含めて慎重に検討されていた。よって今後は相談への対処や当座の問題解決としての対応に追われるばかりではなく,大学コミュニティのあり方としてすべての大学構成員が障害者差別解消法の精神を十分に理解し,合理的配慮の提供を発展的に蓄積させていくことが課題として推察される。
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」は2016年施行されたが,本法は国連の「障害者の権利に関する条約 (The Convention on the
Rights of Persons with Disabilities)」の締結に向けた国内法整備の一環として定められ,障害者基本法4条「差別の禁止」を具現化したものであった。これによって国立大学においては対応要領を定め公表義務を課されたが,果たして当事者主義(Nothing about us without us!)や合理的配慮(reasonable accommodation)の不提供を差別に含めた禁止を訴えた条約の精神を伝えているのか,学生支援の実態と共に調べてみることにした。
方 法
国立大学86校に対して主として障害学生の相談担当に従事しているスタッフに対して郵送による質問紙調査を行った。質問項目は⑴対応要領の作成状況および作成時における当事者の参加度 ⑵相談・支援体制の状況 ⑶合理的配慮の提供状況 ⑷教職員の理解を促す取り組み等全部で32項目によって構成された。尚,質問紙発送は2017年11月13日,回収期限は12月22日までとした。
結 果
回収率は86校中36校で41.9%だった。
①対応要領作成と当事者参加について
対応要領については回答のあった36校の内,1校を除いて35校で作成・公開されていた。公開日は2016年2月が1校,3月が12校,4月が18校と法施行に間に合わせた感が強い。対応要領作成のための会議については,無回答を除いた30校のうち19校が国立大学協会の雛形公表以降に始められており,会議期間は1~2ケ月間,会議回数は3~4回が最も多かった。また,障害当事者の参加度については障害学生,障害教職員,外部の当事者のうち少なくとも一人は会議に参加したと回答した大学は9校であったが,その内支援を受ける主体である学生の参加は1校のみとされた。
②相談・支援体制について
現在支援している学生がいると回答した大学は
31校(86.1%)だった。障害学生支援に関する委員会や障害学生のために相談窓口の設置状況はいずれも9割を超えていた。しかし,継続支援のニーズも高く,専任スタッフ1人当たりの学生数は平均で17.3人,最も多い大学で53.5人と報告された。
③合理的配慮の提供について
情報伝達補助手段として「筆談器」が21校(58.3%),「拡大読書器」が18校(50%),「手話通訳」が11校(30.6%),「その他」が14校(38.9%)とされた。事務手続きの代筆可否については可能とした大学が32校(88.9%)。授業においては座席の配慮,休憩時間の確保,教材の電子化,ノートテイク,録音機器の使用など多様な実態が報告された。また,個別支援計画を活用しながら支援を行っているのは11校(30.6%)で,高校までに作成されていた個別の教育支援計画を大学に提出している学生は9校(25.0%)であった。
④教職員に対する研修・啓発
障害者差別解消法・合理的配慮に関する研修・啓発を行っている大学は30校(83.3%),行っていない大学は6校(16.7%)とされた。
考 察
対応要領はほとんどの大学において作成されていたが,その作成プロセスを調べてみると障害のある学生当事者の意見を聴取した大学は極めて少なく,当事者性が等閑にされていた。しかし,その一方で障害学生支援に関する委員会や障害学生専用相談窓口の設置状況はいずれも9割を超えており,現実的な支援については86%の大学で実施され,合理的配慮の内容についても計画を含めて慎重に検討されていた。よって今後は相談への対処や当座の問題解決としての対応に追われるばかりではなく,大学コミュニティのあり方としてすべての大学構成員が障害者差別解消法の精神を十分に理解し,合理的配慮の提供を発展的に蓄積させていくことが課題として推察される。