日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-73)

2018年9月17日(月) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PH57] 交流経験の語りにおける視覚障害理解の構造

多重対応分析を用いて

楠見友輔1, 小池貴之2 (1.東京大学大学院, 2.東京大学大学院)

キーワード:交流及び共同学習, 視覚障害理解, 多重対応分析

目  的
 共生社会の実現に向けて,晴眼児の視覚障害理解を促進することは重要である。わが国において,高校段階の晴眼児が障害理解を形成する主な機会は学校間交流となるが,どのような交流を行えばどのような視覚障害理解が形成されるかという実践と効果の関係についての先行研究は見られない。本研究では,どのような交流活動の種類がどのような視覚障害理解に繋がるのかを「交流による視覚障害理解の構造」とし,晴眼児の交流経験の語りを分析することでその構造を明らかにする。

方  法
 2016年の7月に1回行われた公立視覚特別支援学校(X校)と普通科高校(Y校)との学校間交流に参加したY校生13名を協力者とした。
 交流はX校において(a)自己紹介,(b)フロアバレー,(c)昼食交流,(d)ゲーム,(e)擬似体験・補助具の説明,(f)閉会式の6つの行程で行われた。
 3台のビデオカメラで交流の様子を記録し,(a)~(f)のそれぞれの行程について活動の内容が網羅されるように合計約15分の映像資料を作成した。映像資料を見せながらY校生に対して個別に60分間の再生刺激法インタビューを実施した。インタビューは,交流における重要な出来事,印象的な人物などを尋ねるというライフストーリー研究(McAdams, 1995)を参考に作成したインタビューガイドを用いて半構造化面接法で実施した。
 インタビューの逐語録の中で,交流において形成・変化したことについて述べられた項目を含む文を対象セグメント(合計196)とした。各セグメントを活動の種類・理解の仕方・理解の種類の3観点から以下のコードに分類した。
・活動の種類…(a)~(f)に分類した。
・理解の仕方…[観察][相互活動][聞き取り][体験]の4コードに分類した。
・理解の種類…〈印象の形成〉〈ネガティブな感情の生起〉〈ステレオタイプの修正〉〈知識の獲得〉〈関係性についての意識〉〈構造的問題の気づき〉〈自己についての考察〉の7コードに分類した。

結果と考察
 活動の種類×理解の仕方×理解の種類の三次元クロス表を作成し(Table 1),多重対応分析を行
った。分析結果における次元1,次元2のGreenacreの調整済み慣性はそれぞれ46.32%,29.49%であった。
 次元1と次元2によって形成される座標平面上に3観点の要素を布置するとFigure 1のようになった。各理解の仕方からの距離が1.00以内の要素をグループ化したところ,「障害の概念的理解」「障害の客観的理解」「障害の相互関係的理解」「障害の内面的理解」の4グループが形成された。

考察1 交流による視覚障害理解は一般的なものと交流場面に依存する具体的なもの,客観的なものと解釈的なものというように多元的に形成されており,実施された活動と関係が見いだされた。
考察2 Figure 1によると,交流による視覚障害理解に障害についての概念的な理解や客観的な理解が含まれるが,この結果は先行研究における低学齢期の子どもの視覚障害イメージの構造(河内,1996)とは異なっている。障害(者)と自己を対比的に考察することのできる高校生という発達段階がFigure 1のような障害理解の多元的構造と関係しているということが考察された。