[PA37] 児童養護施設の子どもの退所後の自立支援
キーワード:児童養護施設、自立、退所
問題と目的
児童養護施設(以下,施設と略記)で育った子どもたちにとっての自立は,一般家庭の子どもでも同様ではあるが,とりわけ重要な課題の一つとなる。その理由の一つは,施設退所後の経済的・心理的な支援を,必要であっても誰にも期待しにくい状況があるからである。
筆者は,施設における子どもの支援に携わってきている。今までの研究においては,施設退所した場合の支援の実践や,施設入所中からの心理支援,この問題への認識を青年の段階で伝える頃の効果や,当該の子どもたちのその問題への認識などを取り上げ,試みたことを報告してきた。そうした過程を経て,自立という課題に対し,子どもを取りまく多職種の専門家が共有できることをもてるのであれば,支援においてより高い効果が期待できると考えるようになった。
それは,自立というと,経済的な問題,具体的な生活のスキルや心理的な孤立の回避などが重点的な課題として改めて確認出来たことへの対応策としてのさらなる方法の試みと考えられる。本報告では,教育面かでどのようなアプローチが必要か,そしてそれらが,心理職,福祉職,教育職で共有できる方法があるのか,その認識と具体的方法を検討することを目的とし,改めて適切な実践方法を模索する。
本研究の目的に即し,①子どもに関わる専門職者には,関わり方の重要点に関して共通して自覚する認識が見られる。②子どもに関わる専門職者は,その立場により重視する内容に差が見られる。
③「社会的養護」について知らない場合,抽象的な認識が見られる。④立場の違いによる意見の共通点と相違点を上手に組み合わせることで,自立に向けての教育的な関わりの有効性が期待できるという仮説を検証することを試みる。
方 法
実施方法
社会的養護にある子どもの自立に対する考え方,具体的方法についてのアンケートを実施する。
調査参加者
福祉職,教師,大学生
手続き
「子どもの独り立ち」に対する認識をプレ調査などで捉えたのち,上記の対象者にアンケートを実施する。属性・「社会的養護」の知識などの他の質問項目は,以下のとおりである。
「子どもの独り立ちに必要な教育とは」「社会的養護の子どもの独り立ちに必要な教育とは」「子どもの独り立ちに対する専門家の関わり方の留意点」
である。
結 果
「社会的養護」については『知っている』という回答が多かった。その上で福祉職と教師の意見を比較する。
(1)一般的な「独り立ちに必要な教育」では,教
員が『問題解決能力』『向上心』『信頼感』『基礎学力』,福祉職が『生活習慣』『スキル』。両者に共通は『コミュニケーション能力』『金銭管理』『身辺自立』(2)「社会的養護の子ども」では,教員は『他者とつながれる力』『一般常識』,福祉職は『相談できる力』『社会的資源の知識』。「留意点」では教員は『問題解決能力』『子どもの尊重』,福祉職は『基本的生活スキルの徹底』『判断力・考える力』『一人一人を大切にする』『意思決定力』などを挙げている。次に学生の回答では,一般では,『一般教養』『基礎学力』『体験』,「社会的養護」では,『マナー習得』『精神面』『コミュニケーション力』を挙げ,「留意点」では,『一人一人に合った指導』『帰れる場所を作る』『細やかな指導』などが挙がっている。
「社会的養護」を知らない回答では,『愛情が必要』などの回答が見られた。
考 察
生活支援,育成に関わる現場の福祉職者は,生活場面での責任を負うことから,生活スキルや心理状態に着眼する傾向が高くなり,学校という場面で出会う教師は,個々の力を伸ばし力を発揮できることを考える。共通するのは,基本的な生活スキル・学力,他者との信頼感の獲得である。独り立ちに向けての当事者である学生もほぼ同様な回答が見られ,独り立ちに向けて,受け身でいることを必要としているわけではないことが明らかになった。これらから見られる共通項からは,個別の働きかけが中心となる心理支援とは少し異なり,他者と共に何かに取り組むなどの協働作業などを通して,他者との信頼関係を獲得したり,基本的スキルを身に着けるなどの経験をすることが考えられる。これらはいずれもそれぞれに即した実践を試みているので,今後はさらに具体的な方法を検討し続けることが重要である。
児童養護施設(以下,施設と略記)で育った子どもたちにとっての自立は,一般家庭の子どもでも同様ではあるが,とりわけ重要な課題の一つとなる。その理由の一つは,施設退所後の経済的・心理的な支援を,必要であっても誰にも期待しにくい状況があるからである。
筆者は,施設における子どもの支援に携わってきている。今までの研究においては,施設退所した場合の支援の実践や,施設入所中からの心理支援,この問題への認識を青年の段階で伝える頃の効果や,当該の子どもたちのその問題への認識などを取り上げ,試みたことを報告してきた。そうした過程を経て,自立という課題に対し,子どもを取りまく多職種の専門家が共有できることをもてるのであれば,支援においてより高い効果が期待できると考えるようになった。
それは,自立というと,経済的な問題,具体的な生活のスキルや心理的な孤立の回避などが重点的な課題として改めて確認出来たことへの対応策としてのさらなる方法の試みと考えられる。本報告では,教育面かでどのようなアプローチが必要か,そしてそれらが,心理職,福祉職,教育職で共有できる方法があるのか,その認識と具体的方法を検討することを目的とし,改めて適切な実践方法を模索する。
本研究の目的に即し,①子どもに関わる専門職者には,関わり方の重要点に関して共通して自覚する認識が見られる。②子どもに関わる専門職者は,その立場により重視する内容に差が見られる。
③「社会的養護」について知らない場合,抽象的な認識が見られる。④立場の違いによる意見の共通点と相違点を上手に組み合わせることで,自立に向けての教育的な関わりの有効性が期待できるという仮説を検証することを試みる。
方 法
実施方法
社会的養護にある子どもの自立に対する考え方,具体的方法についてのアンケートを実施する。
調査参加者
福祉職,教師,大学生
手続き
「子どもの独り立ち」に対する認識をプレ調査などで捉えたのち,上記の対象者にアンケートを実施する。属性・「社会的養護」の知識などの他の質問項目は,以下のとおりである。
「子どもの独り立ちに必要な教育とは」「社会的養護の子どもの独り立ちに必要な教育とは」「子どもの独り立ちに対する専門家の関わり方の留意点」
である。
結 果
「社会的養護」については『知っている』という回答が多かった。その上で福祉職と教師の意見を比較する。
(1)一般的な「独り立ちに必要な教育」では,教
員が『問題解決能力』『向上心』『信頼感』『基礎学力』,福祉職が『生活習慣』『スキル』。両者に共通は『コミュニケーション能力』『金銭管理』『身辺自立』(2)「社会的養護の子ども」では,教員は『他者とつながれる力』『一般常識』,福祉職は『相談できる力』『社会的資源の知識』。「留意点」では教員は『問題解決能力』『子どもの尊重』,福祉職は『基本的生活スキルの徹底』『判断力・考える力』『一人一人を大切にする』『意思決定力』などを挙げている。次に学生の回答では,一般では,『一般教養』『基礎学力』『体験』,「社会的養護」では,『マナー習得』『精神面』『コミュニケーション力』を挙げ,「留意点」では,『一人一人に合った指導』『帰れる場所を作る』『細やかな指導』などが挙がっている。
「社会的養護」を知らない回答では,『愛情が必要』などの回答が見られた。
考 察
生活支援,育成に関わる現場の福祉職者は,生活場面での責任を負うことから,生活スキルや心理状態に着眼する傾向が高くなり,学校という場面で出会う教師は,個々の力を伸ばし力を発揮できることを考える。共通するのは,基本的な生活スキル・学力,他者との信頼感の獲得である。独り立ちに向けての当事者である学生もほぼ同様な回答が見られ,独り立ちに向けて,受け身でいることを必要としているわけではないことが明らかになった。これらから見られる共通項からは,個別の働きかけが中心となる心理支援とは少し異なり,他者と共に何かに取り組むなどの協働作業などを通して,他者との信頼関係を獲得したり,基本的スキルを身に着けるなどの経験をすることが考えられる。これらはいずれもそれぞれに即した実践を試みているので,今後はさらに具体的な方法を検討し続けることが重要である。