日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-63)

Sat. Sep 14, 2019 10:00 AM - 12:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PA51] 高校における「いじめ防止能力」の評価に関する研究

藤井義久 (岩手大学)

Keywords:いじめ防止能力

目  的
 文部科学省(2018)の平成29年度調査によると,全国のいじめ認知件数は,小学校317,121件(前年度より237,256件増),中学校80,424件(前年度より71,309件増),高校14,789件(前年度より12,874件増)と,すべての校種において大幅増となっている。各学校において,いじめに対する早期対応が進んできたことが,いじめ認知件数の大幅増加につながってきていると考えられる。しかし,「いじめ」が起きてから教職員が対応する方式では,「いじめ」が多発する学校では今後対応が追いつかなくなってしまうことも想定される。
 従って,各学校では,今後,「いじめ」の防止対策にも積極的に取り組んでいくことが望まれる。特に,いじめ防止の観点から,「いじめ」をしない,させない,止めさせる能力,いわゆる「いじめ防止能力」を育てる教育を行っていく必要があると考える。そこで,本研究では,高校生を対象にして,学校現場において育成することがますます重要になるであろう「いじめ防止能力」の評価観点について明らかにすることにした。
方  法
調査対象 東北地方の公立高校に在籍する生徒(1~3年)275名(男子110名,女子165名)
調査手続 授業時間中,担任によって,以下の調査内容からなる質問紙を一斉に配布し,回答終了後,直ちに質問紙を回収する方式で調査を実施した。なお,調査実施に当たっては,倫理的配慮の観点から,「答えたくない質問については答えなくてもよいこと」,「成績に全く関係のないこと」など,調査対象者に予め口頭及び文書で伝えた。
調査内容 
(1)フェイスシート
 調査対象者の属性(性,学年)について尋ねた。
(2)いじめ防止能力尺度(暫定版)
 現職の教職員に対して,「どういった能力を育てることがいじめ防止につながるか」と質問し,自由に回答してもらう方式で収集された40項目から成るオリジナル尺度である。(4件法)
(3)いじめ経験尺度
 過去1か月以内に,「いじめ」と疑われる行為(45項目)をどのくらい受けたか,それぞれ2件法(はい,いいえ)で回答を求めた。
 分析手続 デ-タ分析に当たっては,統計パッケージであるSASを用いた。
結果と考察
 項目分析 「いじめ防止能力尺度」(暫定版,40項目)の各回答に対して0点から3点(全くあてはまらないーとてもよくあてはまる)という得点を与え,各項目得点の平均値及び標準偏差について算出した。その結果,平均値が相対的に最も高かった項目として「誰かに嫌なことをされている友達に対して何とか力になってあげたいと思う」(2.32),逆に最も低かった項目として「誰かに嫌なことをされたら先生に相談する」(0.56)が挙げられた。
 因子分析 「いじめ防止能力尺度」(暫定版,40項目)について,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行ったところ,4つの因子が抽出された。すなわち,「感情コントロール因子」(例:自分の思い通りにならないとイライラすることがあるー反転項目),「共感・協調性因子」(例:誰とでも協力して活動することができる),「アサーション因子」(例:誰かに嫌なことをされても相手に止めてとは言えないー反転項目),「規範意識尺度(例:友達の失敗や間違いを決して笑ったりしない)である。今後は,以上の4つの観点で,高校生の「いじめ防止能力」を多面的に評価していくことが望ましいと言える。
 いじめ防止能力の得点分布 いじめ防止能力得点の分布は正規分布に近い形であったので,全体及び下位尺度ごとに5段階評価基準を策定した。
 いじめ防止能力の性差及び学年差 二要因分散分析(性×学年)の結果,いじめ防止能力の性差及び学年差は認められなかった。
 いじめ防止能力といじめ経験との関係 目的変数を「いじめ経験」,説明変数を「いじめ防止能力」として回帰分析を行ったところ,負の回帰直線が得られた。すなわち,いじめ防止能力が高ければ高いほど,いじめを受ける経験が減る傾向が明らかになった。
引用文献
文部科学省(2018) 平成29年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」(速報)(2018年10月26日)
付  記
 本研究は,平成28-31年度科学研究費「いじめの認知とその防止に関する総合的研究―いじめ防止能力の育成に着目して」(研究代表者:藤井義久)の助成を受けて実施した。