[PB16] 教員志望学生の教えることに関する信念の検討(2)
教職科目の受講による影響
キーワード:教えること、信念、授業による変容
問題と目的
本研究の目的は,現職教員および教員志望学生を対象として行った調査のうち,教員志望学生に対して複数回行った調査を元に,教えることに関する信念の様相に何らかの変化がみられるのかどうかを検討することである。特に,発達や学習に係る教職科目(教育心理学)の授業の受講前と受講後で信念の様相に何らかの変化が見られるのかどうかを検討する。
林ら(2019)では,教えることについての信念の構造を検討した。その結果,教えることの信念は「大学で教え方を学ぶことの必要性」「大学で教え方を学ぶ手段とその内容」の2側面で構成されることが示された。すなわち,教えることについて,大学で何らかの形で学ぶことが必要であると捉えていることが示された。ところで,そうした信念は教職科目履修前と履修後で何らかの変化を示すものであろうか。林ら(2019)では,教職科目履修前後において信念に何らかの変化が見られるのかどうかまでは検討がなされなかった。そこで,本研究では,教職科目(教育心理学)の授業の受講前と受講後で,教えることに関する信念に何らかの違いが見られるのかどうかについて,大学生・大学院生の回答データを元に検討を加えた。
方 法
参加者:大学生・大学院生544名
(男性251名,女性293名,平均年齢19.65歳)
材料:教えることの信念に関する質問紙。項目は7項目で,Joram & Gabriele(1998)における記述事項を元に,筆者3名が独自に作成した。そして,回答者に対し,各々の項目について,1(まったくあてはまらない)~4(非常によくあてはまる)の4件法で回答するよう求めた。
手続き:調査は,心理学関係の授業の一部を利用して集団で行われた。実施期間は2016年10月~2017年1月・2017年4月~7月であった。まず,教職科目の授業受講前(2016年10月・2017年4月),回答者に対し,教えることに関する信念に係る質問紙を配布し,回答を求めた。その後,半期の授業受講後(2017年1月・2017年7月),同じ回答者に対し,再度,質問紙調査を実施した(内容は,2016年10月・2017年4月調査と同じ)。調査実施に
あたっては,本調査に同意をした者だけが回答するよう求めた。その結果,544名中133名が受講前および受講後の両方で回答したため,この133名の回答について,以下の検討を加えた。
結果と考察
得られたデータについては,SPSS Ver.25を用いて統計処理を行った。林ら(2019)の2つの下位尺度それぞれで,下位尺度得点を求めた。下位尺度得点は,各下位尺度を構成する項目の平均値を充当した。これらの処理を,授業受講前,受講後の回答結果それぞれに対して行った。その上で,下位尺度各々について,授業受講前-受講後の得点に違いがみられるかどうかを検討するため,対応のあるt検定を行った(Table1参照)。その結果,「大学で教え方を学ぶことの必要性」においてt値が有意であり,受講後の方が得点が高かった。一方,「大学で教え方を学ぶ手段とその内容」においてはt値は有意ではなかった。
次に,各下位尺度を構成する下位項目についても同様の検討を試みたところ,「大学で教え方を学ぶことの必要性」因子においては,項目2「これまでさんざん教わる経験をしてきているので,わざわざ大学で教え方について学ぶ必要はないと思う。」にてt値が有意であり,受講後の得点が高かった。また,項目1「教えることは簡単なことなので,大学でわざわざ学ぶほどのことではないと思う。」にてt値が有意傾向を示し,受講後の得点が高くなる傾向が見られた。一方,「大学で教え方を学ぶ手段とその内容」因子を構成する下位項目では,いずれにおいても受講前―受講後で信念の度合に違いが見られなかった。
ところで,「大学で教え方を学ぶことの必要性」因子および同因子の下位項目については,受講前―受講後の評定値の違いが0.1~0.2程度であり,また,受講後の評定値はいずれも1.39であったことから,受講後においてもなお,教授法の学習の必要性を認識していることが考えられる。しかし,上記結果を踏まえると,必要性認識の度合いが学年を追うごとに低下することも考えられる。
その点についてさらに検討する必要があろう。
本研究の目的は,現職教員および教員志望学生を対象として行った調査のうち,教員志望学生に対して複数回行った調査を元に,教えることに関する信念の様相に何らかの変化がみられるのかどうかを検討することである。特に,発達や学習に係る教職科目(教育心理学)の授業の受講前と受講後で信念の様相に何らかの変化が見られるのかどうかを検討する。
林ら(2019)では,教えることについての信念の構造を検討した。その結果,教えることの信念は「大学で教え方を学ぶことの必要性」「大学で教え方を学ぶ手段とその内容」の2側面で構成されることが示された。すなわち,教えることについて,大学で何らかの形で学ぶことが必要であると捉えていることが示された。ところで,そうした信念は教職科目履修前と履修後で何らかの変化を示すものであろうか。林ら(2019)では,教職科目履修前後において信念に何らかの変化が見られるのかどうかまでは検討がなされなかった。そこで,本研究では,教職科目(教育心理学)の授業の受講前と受講後で,教えることに関する信念に何らかの違いが見られるのかどうかについて,大学生・大学院生の回答データを元に検討を加えた。
方 法
参加者:大学生・大学院生544名
(男性251名,女性293名,平均年齢19.65歳)
材料:教えることの信念に関する質問紙。項目は7項目で,Joram & Gabriele(1998)における記述事項を元に,筆者3名が独自に作成した。そして,回答者に対し,各々の項目について,1(まったくあてはまらない)~4(非常によくあてはまる)の4件法で回答するよう求めた。
手続き:調査は,心理学関係の授業の一部を利用して集団で行われた。実施期間は2016年10月~2017年1月・2017年4月~7月であった。まず,教職科目の授業受講前(2016年10月・2017年4月),回答者に対し,教えることに関する信念に係る質問紙を配布し,回答を求めた。その後,半期の授業受講後(2017年1月・2017年7月),同じ回答者に対し,再度,質問紙調査を実施した(内容は,2016年10月・2017年4月調査と同じ)。調査実施に
あたっては,本調査に同意をした者だけが回答するよう求めた。その結果,544名中133名が受講前および受講後の両方で回答したため,この133名の回答について,以下の検討を加えた。
結果と考察
得られたデータについては,SPSS Ver.25を用いて統計処理を行った。林ら(2019)の2つの下位尺度それぞれで,下位尺度得点を求めた。下位尺度得点は,各下位尺度を構成する項目の平均値を充当した。これらの処理を,授業受講前,受講後の回答結果それぞれに対して行った。その上で,下位尺度各々について,授業受講前-受講後の得点に違いがみられるかどうかを検討するため,対応のあるt検定を行った(Table1参照)。その結果,「大学で教え方を学ぶことの必要性」においてt値が有意であり,受講後の方が得点が高かった。一方,「大学で教え方を学ぶ手段とその内容」においてはt値は有意ではなかった。
次に,各下位尺度を構成する下位項目についても同様の検討を試みたところ,「大学で教え方を学ぶことの必要性」因子においては,項目2「これまでさんざん教わる経験をしてきているので,わざわざ大学で教え方について学ぶ必要はないと思う。」にてt値が有意であり,受講後の得点が高かった。また,項目1「教えることは簡単なことなので,大学でわざわざ学ぶほどのことではないと思う。」にてt値が有意傾向を示し,受講後の得点が高くなる傾向が見られた。一方,「大学で教え方を学ぶ手段とその内容」因子を構成する下位項目では,いずれにおいても受講前―受講後で信念の度合に違いが見られなかった。
ところで,「大学で教え方を学ぶことの必要性」因子および同因子の下位項目については,受講前―受講後の評定値の違いが0.1~0.2程度であり,また,受講後の評定値はいずれも1.39であったことから,受講後においてもなお,教授法の学習の必要性を認識していることが考えられる。しかし,上記結果を踏まえると,必要性認識の度合いが学年を追うごとに低下することも考えられる。
その点についてさらに検討する必要があろう。