[PB34] クラスサイズによる小学校第2学年から第6学年までの国語の学力推移の違い
キーワード:学級規模、クラスサイズ、パネル調査
問題と目的
クラスサイズ(学級規模)と学力の関係を検討した先行研究では,13-17人クラスと21-25人クラスとを比較した実験研究(Finn & Achilles, 1990)などでは,小規模クラスの方が得点が高く,効果量はd = 0.20前後であるが示されている。一方,調査研究では,25人クラスから10人減じた場合の効果量dは0.20から0.36であることが示されているが(Blatchford, et al. 2002),これ以外の多くの研究ではクラスサイズを10減じた場合のdは0.10を下回るものが多い。ただし,これらの研究は1時点での学力検査得点のクラスサイズによる比較である。例えば小規模クラスに在籍し続けることが累加的に学力に影響するのかといったような,クラスサイズと児童生徒の数年間の学力推移との関係については十分な検討が行われていない。
本研究では,ある県の小学校の81%,2012年入学児童数の85%が含まれる,小学校第2-6学年始前後の学力偏差値のパネルデータに,第2-4学年時の在籍学級のクラスサイズを結合したデータを用い,クラスサイズと小学校第2-6学年始にかけての学力偏差値の推移との関係を検討する。
方 法
対象:上記パネルデータに含まれる学校のうち,小学校第1-5学年末または第2-6学年始に国語の標準学力検査(教研式NRT)を実施し,かつ,当該児童が第2-5学年に在籍した学年学級数に変動のなかった小学校129校,児童数3,685名。
クラスサイズ:調査対象県の教育委員会より提供を受けた学級編制表を用いて求めた,各校の該当集団の第2-5学年の平均クラスサイズで定義。
分析:学校kにおける学年j時点での児童iの国語の学力偏差値Y_ijkに対して,1年ごと(〖YEAR〗_ijk)に経過することの影響と,各校の平均クラスサイズ(〖CS〗_k)が1年ごとの経過に与える影響を,以下のモデルによって推定した。
[児童・時点レベル]
Y_ijk=π_0jk+π_1jk 〖YEAR〗_ijk+e_ijk
[児童レベル]
π_0jk=β_0k+r_1jk
π_1jk=β_1k+r_2jk
[学校レベル]
β_0k=γ_0+u_1k
β_1k=γ_1+γ_2 〖CS〗_k+u_2k
なお,CSは5年間の各校の平均クラスサイズの平均で中心化した。β_0kに〖CS〗_kの影響を仮定しなかったのは,対象集団の第1学年時の学級規模が不明であったためである。
結果と考察
各学年におけるクラスサイズと学力偏差値の平均と標準偏差はTable 1,モデルの推定結果はTable 2の通りであった。また,Table 2の結果にもとづいて,対象校の第2-5学年にかけての平均クラスサイズ(23.81)である場合と10名大きい,及び小さいクラスサイズの場合の第2-6学年始前後の学力偏差値の平均的な推移を図示するとFigure 1の通りである。
以上の結果から,対象地域・集団について言えば,学年が上がるにつれて標準学力検査で測定される国語の学力偏差値が0.23程度下がることが示された。その上で,クラスサイズが1名多いとさらに0.01程度下がることが示された。Figure 1に示した通り,調査対象校のクラスサイズの平均より10名大きいサイズの学級に在籍し続けた場合,平均のサイズの学級に在籍した場合と比較して,学年が上がるごとにさらに0.12程度ずつ学力偏差値が下がり,第6学年4月の段階では0.48程度の差となることが示された。
この結果は学力偏差値を用いていることから,クラスサイズを10名減じた学級に4年間在籍した場合のdが0.05に満たない程度であることを示唆している。この程度の差の評価は議論の分かれるところと考えられる。
付 記
本研究はJSPS科研費(基盤研究A:17H01012)の助成を受けた。
クラスサイズ(学級規模)と学力の関係を検討した先行研究では,13-17人クラスと21-25人クラスとを比較した実験研究(Finn & Achilles, 1990)などでは,小規模クラスの方が得点が高く,効果量はd = 0.20前後であるが示されている。一方,調査研究では,25人クラスから10人減じた場合の効果量dは0.20から0.36であることが示されているが(Blatchford, et al. 2002),これ以外の多くの研究ではクラスサイズを10減じた場合のdは0.10を下回るものが多い。ただし,これらの研究は1時点での学力検査得点のクラスサイズによる比較である。例えば小規模クラスに在籍し続けることが累加的に学力に影響するのかといったような,クラスサイズと児童生徒の数年間の学力推移との関係については十分な検討が行われていない。
本研究では,ある県の小学校の81%,2012年入学児童数の85%が含まれる,小学校第2-6学年始前後の学力偏差値のパネルデータに,第2-4学年時の在籍学級のクラスサイズを結合したデータを用い,クラスサイズと小学校第2-6学年始にかけての学力偏差値の推移との関係を検討する。
方 法
対象:上記パネルデータに含まれる学校のうち,小学校第1-5学年末または第2-6学年始に国語の標準学力検査(教研式NRT)を実施し,かつ,当該児童が第2-5学年に在籍した学年学級数に変動のなかった小学校129校,児童数3,685名。
クラスサイズ:調査対象県の教育委員会より提供を受けた学級編制表を用いて求めた,各校の該当集団の第2-5学年の平均クラスサイズで定義。
分析:学校kにおける学年j時点での児童iの国語の学力偏差値Y_ijkに対して,1年ごと(〖YEAR〗_ijk)に経過することの影響と,各校の平均クラスサイズ(〖CS〗_k)が1年ごとの経過に与える影響を,以下のモデルによって推定した。
[児童・時点レベル]
Y_ijk=π_0jk+π_1jk 〖YEAR〗_ijk+e_ijk
[児童レベル]
π_0jk=β_0k+r_1jk
π_1jk=β_1k+r_2jk
[学校レベル]
β_0k=γ_0+u_1k
β_1k=γ_1+γ_2 〖CS〗_k+u_2k
なお,CSは5年間の各校の平均クラスサイズの平均で中心化した。β_0kに〖CS〗_kの影響を仮定しなかったのは,対象集団の第1学年時の学級規模が不明であったためである。
結果と考察
各学年におけるクラスサイズと学力偏差値の平均と標準偏差はTable 1,モデルの推定結果はTable 2の通りであった。また,Table 2の結果にもとづいて,対象校の第2-5学年にかけての平均クラスサイズ(23.81)である場合と10名大きい,及び小さいクラスサイズの場合の第2-6学年始前後の学力偏差値の平均的な推移を図示するとFigure 1の通りである。
以上の結果から,対象地域・集団について言えば,学年が上がるにつれて標準学力検査で測定される国語の学力偏差値が0.23程度下がることが示された。その上で,クラスサイズが1名多いとさらに0.01程度下がることが示された。Figure 1に示した通り,調査対象校のクラスサイズの平均より10名大きいサイズの学級に在籍し続けた場合,平均のサイズの学級に在籍した場合と比較して,学年が上がるごとにさらに0.12程度ずつ学力偏差値が下がり,第6学年4月の段階では0.48程度の差となることが示された。
この結果は学力偏差値を用いていることから,クラスサイズを10名減じた学級に4年間在籍した場合のdが0.05に満たない程度であることを示唆している。この程度の差の評価は議論の分かれるところと考えられる。
付 記
本研究はJSPS科研費(基盤研究A:17H01012)の助成を受けた。