[PB35] プロジェクトを通した学生の成長を変容的活動家スタンスによって捉える
キーワード:教員養成、プロジェクト、変容的活動家スタンス
ヴィゴツキーを祖とする理論の1つである変容的活動家スタンス(Transformative Activisit Stance, 以下TAS)は,よりよい地域社会のあり方をゴールに据え,理論的な知識体系を記号的媒介としつつ,仲間や協力者と共にプロジェクトを推進することが,青年期の十全な発達には必須であると主張する(Stetsenko, 2005)。このTASは,現在の環境への適応ではなく,地域社会や自分たちのあるべき姿を描き,それに向かって行動していく未来志向,社会正義実現のための意図的努力,関係論的存在論,批判的・理論的学習による媒介的発達などを特徴としている。また,Stetsenko(2008)はknowing(社会理解),acting(社会変容),being(自己理解)が相互に影響を与えながら,人は成長すると捉えているが,この枠組みは,大学での学習環境を設計・改善していく上で役立つかもしれない。
本研究は,学生主体のプロジェクトを研究対象として,参加学生の社会理解,社会変容,自己理解の各要素が影響を与え合うという枠組みを援用して現象を理解することを目的とした。
方 法
参加者 愛媛大学教育学部が主催し,運営をその学生が中心となって進める「愛媛大学放課後学習教室」への参加学生に協力を求めた。AとBは学部3年後期より4年の終わりまで事業に参加した。CはM1からM2にかけて参加し,少なくとも当初は全員がその活動を卒業研究や修士研究の対象とした。3名共に教員を志望していた。
データ 市本・他(2018)の執筆時に利用されたフィールドノーツやインタビューを再分析した。
分析の観点 参加学生の学びを捉えるために,事業に参加する中で経験したクライシスに注目した。
結 果
A:もともと学習支援に興味があって活動に参加した。プロジェクトのリーダーを務める大学院生のサポートを積極的に買って出たが,多くの仕事が自身に降りかかり,一人では仕事をこなせなくなる。リーダーもそのことを心配し声をかけたが,A本人がゼミのメンバーに窮状を自己開示し,助けを求めた。その結果,業務をシェアしながら,ゼミ全体で組織的に運営する体制に繋がった。
B:教育実習では特に教職への情熱は感じなかったが,実習先で学びに躓く子どもの支援が思ったようにできなかったことが気になっていた。そのことから,放課後学習教室では,個別指導で算数の苦手を支援するコースを立ち上げ,リーダーとして事業に取り組んだ。「子どもが好きという気持ちを明確化できた」ことを,本人は事業参加の成果として認識している。
C:かつて取り組んだ学習支援のあり方の改善に興味を持ち,その延長で放課後学習教室に参加。協働研究に取り組む過程でリーダーシップを取ることが求められるが,リーダーシップを取ることを回避したいと強く感じた。そのことが研究テーマの見直し,ひいては自分の興味関心を問うことに結びつき,Cの本来の関心を追究するかたちで進路を再検討することとなった。
考 察
協働プロジェクトは実践に関わるため,参加学生にも業務上及び道義上の大きな責任がかかる。このことは,参加学生が自らのリソースをそれに費やすことが適切なのかを常に問うことに繋がる。研究活動として取り組むことでその負荷はさらに高まる。この負荷の極めて高い状況は社会変容の要素として,参加者に自己理解及び社会理解を進めるよう動機づける。Aの場合,社会変容への取り組みが事業への取り組み方の改善を促すという点で社会理解が促された。Bの場合,社会変容への取り組みがキャリア上のゴールを再認識させ,教職を目指す自己像を確立させた。Cは社会変容への取り組みが,本来的な自分の関心を思い出させた。自己理解に苦痛が伴う場合は,活動が持つ動機と参加者個人が持つ動機が一致しない場合であり,そのような不一致は参加学生に自己探求を促すことが示唆された。
今後,どのような成長のパターンが典型的にありうるのかTASの理論的枠組みによって明らかにした上で,学生の学びを支援する学習環境の設計について検討を進めたい。
文 献
市本早香・城戸海輝・井上拓哉・中野智晶・吉見太智・富田英司 (2018). 放課後学習支援事業に研究者として取組むことによる学生の参加形態と動機付けの変容. 大学教育実践ジャーナル, 16, 85-93.
本研究は,学生主体のプロジェクトを研究対象として,参加学生の社会理解,社会変容,自己理解の各要素が影響を与え合うという枠組みを援用して現象を理解することを目的とした。
方 法
参加者 愛媛大学教育学部が主催し,運営をその学生が中心となって進める「愛媛大学放課後学習教室」への参加学生に協力を求めた。AとBは学部3年後期より4年の終わりまで事業に参加した。CはM1からM2にかけて参加し,少なくとも当初は全員がその活動を卒業研究や修士研究の対象とした。3名共に教員を志望していた。
データ 市本・他(2018)の執筆時に利用されたフィールドノーツやインタビューを再分析した。
分析の観点 参加学生の学びを捉えるために,事業に参加する中で経験したクライシスに注目した。
結 果
A:もともと学習支援に興味があって活動に参加した。プロジェクトのリーダーを務める大学院生のサポートを積極的に買って出たが,多くの仕事が自身に降りかかり,一人では仕事をこなせなくなる。リーダーもそのことを心配し声をかけたが,A本人がゼミのメンバーに窮状を自己開示し,助けを求めた。その結果,業務をシェアしながら,ゼミ全体で組織的に運営する体制に繋がった。
B:教育実習では特に教職への情熱は感じなかったが,実習先で学びに躓く子どもの支援が思ったようにできなかったことが気になっていた。そのことから,放課後学習教室では,個別指導で算数の苦手を支援するコースを立ち上げ,リーダーとして事業に取り組んだ。「子どもが好きという気持ちを明確化できた」ことを,本人は事業参加の成果として認識している。
C:かつて取り組んだ学習支援のあり方の改善に興味を持ち,その延長で放課後学習教室に参加。協働研究に取り組む過程でリーダーシップを取ることが求められるが,リーダーシップを取ることを回避したいと強く感じた。そのことが研究テーマの見直し,ひいては自分の興味関心を問うことに結びつき,Cの本来の関心を追究するかたちで進路を再検討することとなった。
考 察
協働プロジェクトは実践に関わるため,参加学生にも業務上及び道義上の大きな責任がかかる。このことは,参加学生が自らのリソースをそれに費やすことが適切なのかを常に問うことに繋がる。研究活動として取り組むことでその負荷はさらに高まる。この負荷の極めて高い状況は社会変容の要素として,参加者に自己理解及び社会理解を進めるよう動機づける。Aの場合,社会変容への取り組みが事業への取り組み方の改善を促すという点で社会理解が促された。Bの場合,社会変容への取り組みがキャリア上のゴールを再認識させ,教職を目指す自己像を確立させた。Cは社会変容への取り組みが,本来的な自分の関心を思い出させた。自己理解に苦痛が伴う場合は,活動が持つ動機と参加者個人が持つ動機が一致しない場合であり,そのような不一致は参加学生に自己探求を促すことが示唆された。
今後,どのような成長のパターンが典型的にありうるのかTASの理論的枠組みによって明らかにした上で,学生の学びを支援する学習環境の設計について検討を進めたい。
文 献
市本早香・城戸海輝・井上拓哉・中野智晶・吉見太智・富田英司 (2018). 放課後学習支援事業に研究者として取組むことによる学生の参加形態と動機付けの変容. 大学教育実践ジャーナル, 16, 85-93.