日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

2019年9月14日(土) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB42] 児童の教師への関係欲求と効果的な教師の指導行動の関連性

大学生による学級評定からの検討

弓削洋子 (愛知教育大学)

キーワード:教師の指導行動、児童-教師関係、学年要因

目  的
 教師の指導行動研究は,児童の学級モラールを高める指導行動が学年によって異なること,特に,課題への方向付けを目的とした指導行動の内容が異なることを示している(e.g., 藤田,2000;弓削,2012)。但し,なぜ学年によって効果的な指導行動が異なるかのメカニズムの検討は十分ではない。1つには,各学年で不足する児童の課題資源が異なり,資源を充足する指導行動が異なるためと考えられる。関連して,学年間で児童が教師に求める関係の様相が異なり(e.g.,園原・広田,1953:岸田,1960),各関係欲求を充足させる課題志向的な指導行動が異なることも考えられる。今回は,学年に特徴的な児童の教師への関係欲求充足に応じた教師の課題志向的指導行動が,児童の学習意欲を高める仮説を検証するために,予備調査を実施した。
方  法
調査協力者と対象学級学年:大学3年生,大学院1年生95名(低学年26,中学年40,高学年29)
質問紙:実習やボランティアなどで3週間以上,学生が教師や児童と交流があった学級について,質問紙に回答を求めた。全て5件法。
児童の対教師関係欲求尺度(6項目)児童が教師にどのような関係を求めているかを測定するために,学級集団の発達研究を参考に,教師への「依存」(e.g.,先生に聞かないとどうしていいか判断できない)と「反発」(e.g.,先生にあれこれいわれたくない)を設定した。
教師の指導行動尺度(13項目。分析には天井効果2項目除外して11項目) 弓削(2012)を参考に,課題に方向付けるための課題志向的指導行動として「注意」と「突きつけ」,児童の心情に配慮する指導行動として「理解」と「受容」を設定した。
児童の様子の尺度 学習意欲尺度(6項目),学級雰囲気尺度(6項目)である。
結果と考察
尺度分析:各尺度の因子分析(最尤法,プロマックス回転)を実施し,固有値1以上を指標として因子を決定した。対教師関係欲求尺度は,「依存」(α=.78)と「反発」(α=.73),指導行動尺度は,「配慮」(α=.75),「突きつけ」(α=.70),「注意」(α=.60),学習意欲尺度は,「学習熱心」(α=.86),「学習の楽しさ」(α=.80),学級雰囲気尺度では,「学級の楽しさ」(α=.89)「教師への率直さ」,(α=.72)の因子が抽出された。
各尺度の学年間(低・中・高学年)比較:1要因(学年)分散分析の結果,有意だったのは,対教師関係欲求の「依存」(F(2,92)=4.95**),教師の指導行動「配慮」(F(2,92)=3.19*),学級雰囲気の「学級の楽しさ」(F(2,92)=6.25**)と「教師への率直さ」(F(2,92)=6.68**)であり,いずれも高学年に比べ低学年が高かった。
共分散構造分析:児童の対教師関係欲求が高まると,教師はその欲求に応じた指導行動を実施することで学習意欲および学級雰囲気が高めると仮定し,学年間で比較するために多母集団同時分析を実施した。全学年で有意ではなかったパスを削除し,最終的にFigure 1となった。大学生は,全学年で配慮的指導行動が学習意欲を高めると評価している。但し,課題志向の指導行動に関しては,高学年学級では,児童の教師への反発欲求が高いほど教師は課題を突きつけて,配慮行動を媒介して学習意欲を高めると大学生は評価している。児童の教師への関係欲求に応じて教師が課題志向の「突きつけ」を調整して児童の学習意欲を高めると推測できる。今後,低学年の教師関係欲求に応じて効果的な課題志向的指導行動は何かを検討する必要がある。そのためにも,課題志向的指導行動の「注意」の項目内容を再検討して,児童対象に調査したい。加えて,学級雰囲気への効果も再検討が必要である。
付  記
 本研究はJSPS科研費 JP 16K04299の助成を受けた。