日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

Sat. Sep 14, 2019 1:00 PM - 3:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB43] 居場所としての研究活動

放送大学大学院学生を事例にして

高橋秀明 (放送大学)

Keywords:生涯学習、大学院教育、居場所

問題と目的
本研究は,高橋(2016・2017・2018)と同じ,放送大学大学院での「研究指導」のあり方について,高橋(2016)と同じ方法でインタビュー調査を追加して実施した結果を報告するものである。また,筆者自身のアクションリサーチとしても,生涯学習における「研究活動」という実践について,興味深い結果が得られたので報告するものである。
方  法
参加者 放送大学大学院修士課程を2018年度に終了見込みの学生3名(以下学生I・J・K)が参加した。学生Iのみ女性である。いずれも同課程入学時に有職者であったが,学生Kのみ途中から無職となった。インタビュー時,学生Iは41才,学生Jは50才,学生Kは47才であった。
材料 インタビューでの回答の手掛かりとして,「研究線表」を用意した。横軸に時間軸(願書提出から修士課程修了後まで)を月単位で示し,縦軸に,全体として,動機づけ,調査量,データ収集,システム開発,論文執筆,その他の基準を設け,それぞれで「絶好調+3 から絶不調-3」の7 段階で,どのように変化したのかを曲線の波で示すことができるようにしている。同様に,「人生線表」も用意した。横軸に時間軸(現在から生年0 才まで)を年単位で,縦軸に,全体として,家族,仕事,研究,勉強,趣味,その他の基準を設け,それぞれで「絶好調+3 から絶不調-3」の7 段階で,どのように変化したのかを曲線の波で示すことができるようにしている。
手続き 学生I・Kについては所属する学習センターにおいて,学生Jについては勤務先において,約2時間の半構造化インタビューを実施した。インタビューでは,学歴,就業歴,放送大学入学,同大学院受験について話すことを求めた後,「研究指導」の開始から終了まで,「研究線表」を参照しながら話すことを求めた。「研究指導」では,おおよそ半年毎にレポート提出を求めており,最後のレポート4が修士論文完成版に相当する。その後,口頭試問(発表会)に合格して「研究指導」の単位を修得することができる。そこで,インタビューにおいても,4つのレポート提出に向けての研究および学習活動について話すことを求めた。インタビューの後半では「人生線表」も提示して,「研究線表」とあわせて,1週間程度で記入して提出するように求めて,インタビューを終了した。
データ分析 インタビューは書き起こしを作成後,内容分析を行った。
結果と考察
 まず,参加者3名とも,高橋(2016・2017・2018)と同じ結果であるが,経済的に自立しておりキャリアアップの必要性が高いわけではなく,純粋な知的好奇心によって,大学院に出願,合格し,修士課程の研究を実践したと言える。すなわち,学生Iは卒業研究においてICT関連のテーマで卒業研究を行ったのち現在の職についたが,近年のICTの進展と職場の社会的使命との関連について,より深く研究するために大学院に進学した。学生Jは学校教員で,少年時より習い事の習熟に励み,所属している学校においてもその習い事関連のクラブ活動の顧問でもあるが,教員の仕事の効率化をテーマとした研究を行うために大学院に進学した。学生Kはインターネット黎明期からネット・ユーザで,SNSにおけるコミュニケーションに興味を持っており,そのテーマを研究するために大学院に進学した。
 居場所としての研究活動 研究活動を実践するためには,時間と空間とが必要であり,「居場所」と言うこともできる。一方で,研究活動という実践自体が「居場所」となっていると解釈することができる事例が,本研究の参加者3名や,以前の研究である高橋(2016・2017)の参加者からも得られている。
 学生Iは,入学年度の最初のゼミは対面で参加したが,それ以降は遠隔で参加した。学生Iからは,対面でも遠隔でも違いないからという言説が得られている。また,修士論文の完成間近になり,研究の成果を図として示したことで,研究としてのケジメがついたという言説も得られた。
 学生Jは,研究倫理審査を経て、勤務先のクラブ活動のための部屋を利用して,昼の休み時間や休暇を取り修士研究を行う,具体的には,心理実験を行う,資料収集や資料の読み込み、論文作成する,という実践を行なっていた。
 学生Kの修士研究では,SNSサイトからデータを収集し、自宅のコンピュータを駆使してデータ解析を行なって論文を完成させる,という実践を行なっていた。学生Kも,学生Iと同じく,遠隔ゼミに参加した。
参加者3名の口頭試問には,高橋(2016)の学生Cと高橋(2017)の学生Dとが参観した。学生Dは,月例のゼミにもOBとして参加した。学生C・Dは,高橋(2016)の参加者Aが月例のゼミにOBとして参加したが,そのゼミでの現役生であった。
 「居場所」は人格発達に不可欠である。当事者が存在する物理的な時空間という意味での居場所ばかりでなく,当事者の心的な活動が営まれる時空間という側面も欠かせない。研究活動においては,研究をする時空間という側面ばかりでなく,研究という心的な活動が成立する根拠という側面もある訳である。遠隔ゼミが成立しているのは,心的な活動の根拠があるからと解釈できるだろう。
 研究活動の時間という側面については,ゼミでの質疑という「間合い」の繰り返し,論文作成における言葉や表現の産出の繰り返し,論文で言いたいことを図として表現するという瞬間を迎えた,修士論文提出後もゼミに参加したり後輩の口頭試問に参加したりする,というように,多種多様な時間の過ごし方の重なり,として捉えることができるが,研究活動自体が「居場所」になっている,心的な活動の根拠があるからと解釈できるだろう。
付  記
 本研究の一部は,平成30年度放送大学学長裁量経費ならびに平成30年度放送大学教育振興会の助成を得て実施したものである。