[PB51] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度の縦断的活用に関する検討(1)
「精神的充足」と「社会的適応力」の相互影響関係の検討
キーワード:精神的充足、社会的適応力、交差遅延モデル
問題と目的
菅野(2014)は,子どもたちが多様な状況で人々と協働的に取り組んだり,自らの資質や能力を存分に活かし自己発揮するためには,「精神的充足」と「社会的適応力」という2つの基盤が欠かせないと指摘した。
加藤(2018)は,縦断的研究から「精神的充足」が上昇した生徒は低下した生徒に比べ,自分の考えや気持ちを他者と共有しようする傾向にあったことから,他者との内面共有を促すためには「精神的充足」への働きかけが重要であることを示唆した。また綿井ら(2018)も,「社会的適応力」のうち「自己を統制する力」の高さと楽観性や内面共有の高さには関連があることを明らかにしている。他方,猪熊ら(2012)は,中学1年生から2年生にかけて「精神的充足」「社会的適応力」がともに低下することを明らかにし,学年による特徴的な得点変化の可能性を示唆した。このように先行研究では,「精神的充足」・「社会的適応力」とその他の心理特性との関連や学年変化による得点変化ついて言及されているものの,自己発揮の基盤となる2要素の関係性やどちらをどの時点で高めることが,後の「精神的充足」や「社会的適応力」の向上・促進に有用であるかといった因果関係の方向性については計量的に検証されることは少なかった。
そこで本研究では,中学1年生から中学3年生にかけて,「精神的充足・社会的適応力」評価尺度を継続的に実施し,5時点の「精神的充足」と「社会的適応力」を比較することで,2つの要素の関係性を検討し,因果関係を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査時期 ①2016年10月(1年生1回目),②2017年3月(1年生2回目),③2017年10月(2年生1回目),④2018年3月(2年生2回目),⑤2018年11月(3年生)。
調査対象者 首都圏にある公立中学校に通う中学生のうち5時点ともに回答した生徒計155名(男子84名,女子71名)。
調査内容 ①「精神的充足・社会的適応力」評価尺度(菅野ら,2002;
57項目4件法)。なお,回答者には,実施の度に自身の「精神的充足」・「社会的適応力」をHR等で担任教員から返却してもらった。
結果と考察
因果関係の推定のために,同時点での2変数の相関関係と同一変数間に遅延パスを引き,次に「精神的充足」と「社会的適応力」の間に交差遅延効果パスを追加した交差遅延モデルを検討した(Figure 1)。
分析の結果,「精神的充足」と「社会的適応力」の遅延パスはともに1%水準で有意であった。その上で,T2の「精神的充足」からT3の「社会的適応力」,T3の「精神的充足」からT4の「社会的適応力」への交差遅延パスもまたそれぞれ有意であった。また,「社会的適応力」から「精神的充足」のパスは,T4からT5へのパスのみ有意であった。
この結果から,中学1年生後半の「精神的充足」の高さは2年生前半の「社会的適応力」を,また2年生前半の「精神的充足」も2年生後半の「社会的適応力」を上昇させることが明らかとなり,低学年の「精神的充足」への働きかけが後の適応力向上に役立つと考えられた。しかし,2年生から3年生にかけてはそのような効果はみられず,むしろ2年生後半の「社会的適応力」の上昇が3年生の「精神的充足」維持につながることが示唆された。したがって,中学生活の前半では「精神的充足」を,後半では「社会的適応力」の定着に働きかけることが,心の基盤を盤石なものにすると考えられる。
(KATO Akiko,WATAI Masayasu)
菅野(2014)は,子どもたちが多様な状況で人々と協働的に取り組んだり,自らの資質や能力を存分に活かし自己発揮するためには,「精神的充足」と「社会的適応力」という2つの基盤が欠かせないと指摘した。
加藤(2018)は,縦断的研究から「精神的充足」が上昇した生徒は低下した生徒に比べ,自分の考えや気持ちを他者と共有しようする傾向にあったことから,他者との内面共有を促すためには「精神的充足」への働きかけが重要であることを示唆した。また綿井ら(2018)も,「社会的適応力」のうち「自己を統制する力」の高さと楽観性や内面共有の高さには関連があることを明らかにしている。他方,猪熊ら(2012)は,中学1年生から2年生にかけて「精神的充足」「社会的適応力」がともに低下することを明らかにし,学年による特徴的な得点変化の可能性を示唆した。このように先行研究では,「精神的充足」・「社会的適応力」とその他の心理特性との関連や学年変化による得点変化ついて言及されているものの,自己発揮の基盤となる2要素の関係性やどちらをどの時点で高めることが,後の「精神的充足」や「社会的適応力」の向上・促進に有用であるかといった因果関係の方向性については計量的に検証されることは少なかった。
そこで本研究では,中学1年生から中学3年生にかけて,「精神的充足・社会的適応力」評価尺度を継続的に実施し,5時点の「精神的充足」と「社会的適応力」を比較することで,2つの要素の関係性を検討し,因果関係を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査時期 ①2016年10月(1年生1回目),②2017年3月(1年生2回目),③2017年10月(2年生1回目),④2018年3月(2年生2回目),⑤2018年11月(3年生)。
調査対象者 首都圏にある公立中学校に通う中学生のうち5時点ともに回答した生徒計155名(男子84名,女子71名)。
調査内容 ①「精神的充足・社会的適応力」評価尺度(菅野ら,2002;
57項目4件法)。なお,回答者には,実施の度に自身の「精神的充足」・「社会的適応力」をHR等で担任教員から返却してもらった。
結果と考察
因果関係の推定のために,同時点での2変数の相関関係と同一変数間に遅延パスを引き,次に「精神的充足」と「社会的適応力」の間に交差遅延効果パスを追加した交差遅延モデルを検討した(Figure 1)。
分析の結果,「精神的充足」と「社会的適応力」の遅延パスはともに1%水準で有意であった。その上で,T2の「精神的充足」からT3の「社会的適応力」,T3の「精神的充足」からT4の「社会的適応力」への交差遅延パスもまたそれぞれ有意であった。また,「社会的適応力」から「精神的充足」のパスは,T4からT5へのパスのみ有意であった。
この結果から,中学1年生後半の「精神的充足」の高さは2年生前半の「社会的適応力」を,また2年生前半の「精神的充足」も2年生後半の「社会的適応力」を上昇させることが明らかとなり,低学年の「精神的充足」への働きかけが後の適応力向上に役立つと考えられた。しかし,2年生から3年生にかけてはそのような効果はみられず,むしろ2年生後半の「社会的適応力」の上昇が3年生の「精神的充足」維持につながることが示唆された。したがって,中学生活の前半では「精神的充足」を,後半では「社会的適応力」の定着に働きかけることが,心の基盤を盤石なものにすると考えられる。
(KATO Akiko,WATAI Masayasu)