[PB53] 高校生に対するオンライントレーニングのスティグマ改善への有効性
発達障害に対する知識の獲得を通して
キーワード:障害理解教育、社会的距離、高校生
問題と目的
偏見の中でも,特に否定的な社会的アイデンティティをもたらす属性が,「スティグマ」(負の烙印)である。「障害」のとらえ方は,旧来は個人の問題に帰属させる「医学モデル」が主流であったが,近年,社会の中に障壁があるとする「社会モデル」の考え方が登場している。障害に対するスティグマは,社会の中にある障壁の一つと考えることができる。この社会の中にある障壁を取り除くために,障害者差別解消法が施行された。
教育においては,小中学校の通常の学級に,発達障害 (Neurodevelopmental Disabilities; ND) の疑いのある児童生徒が6.5%存在していることが報告されている (文部科学省,2012)。また,いじめや不登校等の学校教育の問題の背景に発達障害が関わっていることが指摘されている。高等学校進学率は98%以上であり,6.5%の生徒の多くは高等学校に進学している。義務教育ではない高等学校においてもNDのある生徒への特別支援が必要である。その際,当事者に対する教育だけではなく,周囲の環境の中にあるスティグマの改善も重要である。Torii & Someki (2016) は,高校生に対する講義形式の障害理解授業によって,知識が獲得されスティグマの改善につながったことを報告している。NDに対するスティグマを改善するために,障害理解教育は重要だが,利用できるリソースには地域格差がある。これらを解消するための手段の一つとして,インターネットを活用したオンライントレーニング (Online Training:以下OLT) がある。大学生を対象にしたASDへのスティグマに関する研究では,OLTによって,正しい知識が獲得され,心理的にも社会的距離が縮まる効果が認められたことが報告されている (Gillespie-Lynch, et al. ,2015; Someki, et al., 2018)。
高校生に対しても, OLTによる障害理解プログラムが提供できれば,地域格差を超えて広く社会に貢献できるだろう。そこで,NDに対する高校生のスティグマの改善のためのオンラインプログラムを開発し,その有効性を検証することを目的とし,本研究に取り組んだ。
方 法
研究協力者
A高等学校1学年38名 (男子15名,女子21名,性別無回答2名),B高等学校1学年228名 (男子52名,女子173名,性別無回答3名),計266名 (男子67名,女子194名,性別無回答5名)
教材
スティグマ改善オンライントレーニングプログラム68枚のスライド画像
手続き
高校の教員による本研究の概要の説明ののち,高校のコンピュータルームで,生徒一人一人がデスクトップPCを使用して,学習プログラムを実施した。プログラムの効果を測定するため,学習前後に質問への回答を得た。スティグマの尺度として,Bogardus (1933) の「社会的距離」尺度を高校生の生活に合わせて改変して用い,回答の平均を社会的距離得点とした。また,NDに関する知識を問う項目の平均を知識得点とした。
結 果
学習後の知識得点は,M = 1.84, SD= .60, t (76) =2.67, p < .01で,有意に改善が見られた。社会的距離については,学習後はM = 2.16, SD=.90で有意差は認められなかった。Pearsonの積率相関係数を求めたところ,学習前の知識と社会的距離 (r = .526),学習後の知識と社会的距離 (r = .575) に,それぞれやや強い相関が認められた。
考 察
本研究では,高校生対象のOLTで,知識獲得に社会的距離よりも大きな効果が認められ,また,知識得点と社会的距離得点に相関が認められた。これは, Torii & Someki (2016)と同様の傾向であった。NDに関する知識が社会的距離と相関していることから,本研究でのOLTはNDに対するスティグマ改善の第一歩となりうると考える。次なるステップとして,スティグマの改善に向けた実践を積み重ねていくことが重要だろう。
付 記
本研究は,JSPS科研費JP17K04353の助成を受けたものです。
偏見の中でも,特に否定的な社会的アイデンティティをもたらす属性が,「スティグマ」(負の烙印)である。「障害」のとらえ方は,旧来は個人の問題に帰属させる「医学モデル」が主流であったが,近年,社会の中に障壁があるとする「社会モデル」の考え方が登場している。障害に対するスティグマは,社会の中にある障壁の一つと考えることができる。この社会の中にある障壁を取り除くために,障害者差別解消法が施行された。
教育においては,小中学校の通常の学級に,発達障害 (Neurodevelopmental Disabilities; ND) の疑いのある児童生徒が6.5%存在していることが報告されている (文部科学省,2012)。また,いじめや不登校等の学校教育の問題の背景に発達障害が関わっていることが指摘されている。高等学校進学率は98%以上であり,6.5%の生徒の多くは高等学校に進学している。義務教育ではない高等学校においてもNDのある生徒への特別支援が必要である。その際,当事者に対する教育だけではなく,周囲の環境の中にあるスティグマの改善も重要である。Torii & Someki (2016) は,高校生に対する講義形式の障害理解授業によって,知識が獲得されスティグマの改善につながったことを報告している。NDに対するスティグマを改善するために,障害理解教育は重要だが,利用できるリソースには地域格差がある。これらを解消するための手段の一つとして,インターネットを活用したオンライントレーニング (Online Training:以下OLT) がある。大学生を対象にしたASDへのスティグマに関する研究では,OLTによって,正しい知識が獲得され,心理的にも社会的距離が縮まる効果が認められたことが報告されている (Gillespie-Lynch, et al. ,2015; Someki, et al., 2018)。
高校生に対しても, OLTによる障害理解プログラムが提供できれば,地域格差を超えて広く社会に貢献できるだろう。そこで,NDに対する高校生のスティグマの改善のためのオンラインプログラムを開発し,その有効性を検証することを目的とし,本研究に取り組んだ。
方 法
研究協力者
A高等学校1学年38名 (男子15名,女子21名,性別無回答2名),B高等学校1学年228名 (男子52名,女子173名,性別無回答3名),計266名 (男子67名,女子194名,性別無回答5名)
教材
スティグマ改善オンライントレーニングプログラム68枚のスライド画像
手続き
高校の教員による本研究の概要の説明ののち,高校のコンピュータルームで,生徒一人一人がデスクトップPCを使用して,学習プログラムを実施した。プログラムの効果を測定するため,学習前後に質問への回答を得た。スティグマの尺度として,Bogardus (1933) の「社会的距離」尺度を高校生の生活に合わせて改変して用い,回答の平均を社会的距離得点とした。また,NDに関する知識を問う項目の平均を知識得点とした。
結 果
学習後の知識得点は,M = 1.84, SD= .60, t (76) =2.67, p < .01で,有意に改善が見られた。社会的距離については,学習後はM = 2.16, SD=.90で有意差は認められなかった。Pearsonの積率相関係数を求めたところ,学習前の知識と社会的距離 (r = .526),学習後の知識と社会的距離 (r = .575) に,それぞれやや強い相関が認められた。
考 察
本研究では,高校生対象のOLTで,知識獲得に社会的距離よりも大きな効果が認められ,また,知識得点と社会的距離得点に相関が認められた。これは, Torii & Someki (2016)と同様の傾向であった。NDに関する知識が社会的距離と相関していることから,本研究でのOLTはNDに対するスティグマ改善の第一歩となりうると考える。次なるステップとして,スティグマの改善に向けた実践を積み重ねていくことが重要だろう。
付 記
本研究は,JSPS科研費JP17K04353の助成を受けたものです。