[PC23] 教養教育科目における授業選択理由と学習時間・成績の関連
授業選択理由のタイプに注目して
キーワード:授業選択理由、教養教育
問題と目的
多くの大学では教養教育科目は1・2年次を中心に提供されており,大学生はこれらの科目を選択し,自分で時間割を組む必要に迫られる。しかし,先行研究では大学新入生は専門志向が強いことが示されており(Benesse教育研究開発センター 2012),教養教育の意義が十分に伝わらず有意義な科目選択がなされないケースも少なくないと考えられる。ところが,大学生がどのような理由で教養教育科目を選択しているのかについてはあまり研究がなされてこなかった。この問題について,筆者らは教養教育の授業選択理由に関する尺度の開発や,主体的学習態度との関連について検討してきた(岡田・渡邉,2019他)。本研究では,教養教育科目における授業選択理由のタイプによって,学習時間や成績がどのように異なるのかを明らかにする。
方 法
調査協力者 2018年2月に大学1~3年生を対象にWebアンケートを実施した。Webアンケートはインターネット調査会社(マクロミル)を介して実施され,2872名の有効回答を得た。
調査項目 1)教養教育科目における授業選択理由尺度:17項目について4件法で回答を求めた。「自律的選択(α=.865):(項目例:幅広い知識を身につけたかったから)」「周囲からの影響(α=.775):(項目例:先輩に勧められたから)」「単位取得の容易さ(α=.817):(項目例:楽に単位が取れそうだから)」の3因子からなる(岡田,2018)。2)学習時間:予習・復習や課題など授業に関連する授業関連学習時間と,授業と関連のない自主的学習時間について8件法で尋ねた。3)成績:優(A)以上の割合について尋ねた。
結果と考察
まず,K-means法によるクラスター分析を実施し,授業選択理由の各下位尺度の得点に基づき,5つのタイプに分類した(図1)。全ての下位尺度の得点が最高水準であった「全高群」,対照的に全てが最低水準であった「全低群」の他,周囲からの影響の得点のみが低い「非他者影響群」,自律的選択の得点のみが高い「自律的選択群」,単位取得の容易さの得点のみが高い「単位取得至上群」の5つのタイプが見出された。
次に,5つの群によって,学習時間や成績がどのように異なるのかを検討するため,一元配置の分散分析を実施した(表1)。その結果,「単位取得至上群」は「全高群」「非他者影響群」「自律的選択群」よりも授業関連学習時間が短く,自主的学習時間についても他の全ての群よりも短いことが明らかになった。また,「単位取得至上群」は成績についても「非他者影響群」「自律的選択群」に比べ良くないことが示された。
以上の結果から,単位の取りやすさという理由のみで教養教育科目を選択する学生は,学習時間が短く,成績にも課題を抱えやすいといえる。ただし,単位取得の容易さの得点が同程度だった「全高群」「非他者影響群」は学習時間や成績はネガティブな状況にはなかった。このことを踏まえると,単位取得の容易さという動機があっても,他の動機も存在していれば,必ずしも学業にネガティブな影響はもたらさないとも考えられる。
多くの大学では教養教育科目は1・2年次を中心に提供されており,大学生はこれらの科目を選択し,自分で時間割を組む必要に迫られる。しかし,先行研究では大学新入生は専門志向が強いことが示されており(Benesse教育研究開発センター 2012),教養教育の意義が十分に伝わらず有意義な科目選択がなされないケースも少なくないと考えられる。ところが,大学生がどのような理由で教養教育科目を選択しているのかについてはあまり研究がなされてこなかった。この問題について,筆者らは教養教育の授業選択理由に関する尺度の開発や,主体的学習態度との関連について検討してきた(岡田・渡邉,2019他)。本研究では,教養教育科目における授業選択理由のタイプによって,学習時間や成績がどのように異なるのかを明らかにする。
方 法
調査協力者 2018年2月に大学1~3年生を対象にWebアンケートを実施した。Webアンケートはインターネット調査会社(マクロミル)を介して実施され,2872名の有効回答を得た。
調査項目 1)教養教育科目における授業選択理由尺度:17項目について4件法で回答を求めた。「自律的選択(α=.865):(項目例:幅広い知識を身につけたかったから)」「周囲からの影響(α=.775):(項目例:先輩に勧められたから)」「単位取得の容易さ(α=.817):(項目例:楽に単位が取れそうだから)」の3因子からなる(岡田,2018)。2)学習時間:予習・復習や課題など授業に関連する授業関連学習時間と,授業と関連のない自主的学習時間について8件法で尋ねた。3)成績:優(A)以上の割合について尋ねた。
結果と考察
まず,K-means法によるクラスター分析を実施し,授業選択理由の各下位尺度の得点に基づき,5つのタイプに分類した(図1)。全ての下位尺度の得点が最高水準であった「全高群」,対照的に全てが最低水準であった「全低群」の他,周囲からの影響の得点のみが低い「非他者影響群」,自律的選択の得点のみが高い「自律的選択群」,単位取得の容易さの得点のみが高い「単位取得至上群」の5つのタイプが見出された。
次に,5つの群によって,学習時間や成績がどのように異なるのかを検討するため,一元配置の分散分析を実施した(表1)。その結果,「単位取得至上群」は「全高群」「非他者影響群」「自律的選択群」よりも授業関連学習時間が短く,自主的学習時間についても他の全ての群よりも短いことが明らかになった。また,「単位取得至上群」は成績についても「非他者影響群」「自律的選択群」に比べ良くないことが示された。
以上の結果から,単位の取りやすさという理由のみで教養教育科目を選択する学生は,学習時間が短く,成績にも課題を抱えやすいといえる。ただし,単位取得の容易さの得点が同程度だった「全高群」「非他者影響群」は学習時間や成績はネガティブな状況にはなかった。このことを踏まえると,単位取得の容易さという動機があっても,他の動機も存在していれば,必ずしも学業にネガティブな影響はもたらさないとも考えられる。