日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC31] 数当てゲームへの参加が数学的証明の一般性の理解に及ぼす影響

蛯名正司 (会津大学)

キーワード:数当てゲーム、数学的証明、一般性の理解

問題と目的
 数学的証明に関する誤りの一つに,証明された命題の適用範囲に関する不適切な判断がある。例えば,一度証明された図形の命題は,同一仮定のもとであれば形が変わっても正しいにも関わらず,「改めて証明する必要がある」と判断する中学生が一定数存在することが示されている(e.g. H28全国学力・学習状況調査)。本研究では,数学的証明の一般性の理解を促進するための教授要因を明らかにするために,「数当てゲーム」を取り上げたい。
 数当てゲームは,数を当てる側(以下,予想者)と当てられる側(以下,参加者)にわかれて行うマジックゲームである(仲田,1992)。予想者は,まず参加者に任意の数(本研究では誕生日と年齢を使用)を思い浮かべてもらい,特定の数操作を行ってもらう。次に予想者は,参加者の計算結果を聞くことで,参加者が最初に思い浮かべた数(誕生日・年齢)を言い当てるというゲームである。このゲームの特徴は,初めに思い浮かべる数が参加者間で全く異なるにも関わらず,共通の数操作によって,特定の規則に基づいた数が得られることである。本研究では,数当てゲーム後に,なぜ予想できるかについて文字を用いた証明を提示した。以上の教授法を一般化すると,任意の複数の事例で1つの命題の存在を予見させ,その上で文字を用いてその命題の正しさを証明する方法となる。この方法は,文字式による証明の必要性と事例の任意性を同時に顕在化させることができる点が特徴といえる。本研究では,数当てゲームへの参加が,数学的証明の一般性の理解を促進するかどうか検討する。
方  法
参加者・手続き 福島県内にあるA高校看護専攻科の生徒28名を分析対象とした。社会人入学の生徒もいるため年齢の範囲は18歳〜43歳であった。実験は心理学の講義内に実施され,事前調査,教授活動,事後調査の順に行われた。
調査課題 「3つの続いた整数の和は,3の倍数になる」という命題(以下,3の倍数命題)の証明を提示した上で,3つの問題を出題した(伏見・麻柄,2009参照,事前・事後共通)。命題受け入れ問題:あなたは「3つの続いた整数の和は3の倍数になる」ことをどのくらい受け容れますか(0%:全く受け入れない〜100%:完全に受け入れる,10%間隔で評定)。命題適用問題:友人に好きな「3つの続いた整数」を言ってもらった。それらの整数の和は3の倍数になると言えるか(ア.3の倍数になるはずである(強適用者)。イ.3の倍数になる可能性が大きい(中適用者)。ウ.試してみないとわからない(非適用者))。事例範囲問題:3つの続いた整数の和はたくさんある。あなたは3つの続いた整数の和は3の倍数になるという記述を読んで,どのようなイメージを持つか(アイウから1つを選択する。灰色:3の倍数になる3つの連続する整数,白色:3の倍数にならない3つの連続する整数)。
教授活動 数当てゲーム後,なぜ予想できるかについて,誕生月をA,誕生日をB,年齢をCとして,文字を用いて一般式を確認した。最後に文字式を使えば常に誕生日や年齢を言い当てられるかを質問した(できると思う・できないと思う)。
結果と考察
 1.教授活動 誕生日や年齢を当てられる数式を使えば,常に言い当てることができると思うかについては,対象者全員が,「できると思う」を選択した。教授活動で取り上げた命題については,全ての事例に当てはまると考えられたといえる。
 2.標的課題の変容 命題受け入れ問題:評定値平均は事前69%から事後83%に上昇し(t(27)=3.20,p<.01),命題がより受け入れられるようになったといえる。命題適用問題(Table1):事前・事後の比率の差について対称性の検定を行ったところ,有意傾向であった(p=.07)。非適用者が減少し,強及び中適用者がやや増加する傾向が示唆された。事例範囲問題(Table1):事前・事後の比率の差は有意傾向であった(p=.08)。アが減少し,イ・ウがやや増加したといえる。以上をまとめると,数当てゲームに参加することで,「3の倍数命題」も受け入れるようになり,事例の適用範囲が拡張する傾向は見られたものの,拡張の範囲は限定的なものにとどまったといえる。今後は,他の教授法とも比較することで,数当てゲームへの参加が,数学的証明の一般性の理解を促進するメカニズムを検討していく必要がある。