[PC33] 大学生は小学生の面積課題解決をどう予測するか
現職教員との比較
キーワード:教師、誤概念、知識の呪縛
問題と目的
授業を創る際,教授者は学習者の事前の学習状況を踏まえた上で教授法や教材を決定する。それゆえ,当該学習領域における学習者の既有知識や課題遂行等をうまく予想できなければ,適切な教授法や教材の決定には至らない。この際,「知識の呪縛」(知識を有する者(教授者)は初心者がどう考えるかうまく予測できないバイアスHinds, 1999; 金田,2017)が関与する可能性が考えられるが,では,教員養成系の大学生と現職教員ではその予測に違いがみられるだろうか。進藤(1993)では教員の方が誤概念の影響をよく予測していたことが示されているが,教授経験の浅い学生でも自身の誤概念や知識の不十分さを自覚することで,学習者の課題遂行の予測が異なってくる可能性がある。本研究では,知識学習後も誤概念が保持されやすいことが指摘されている面積学習領域を取り上げ,公式学習前後の小学生の課題遂行を大学生および現職教員はどう予想するのか,またそれは自身の課題遂行によって異なるかを検討し,彼らのもつ教授学習に関する認識の一端を探る。
方 法
対象者 教員養成系の私立大学生55名(教育実習未経験の2,3年生)(以下,学生群),および現職教員75名(幼稚園教諭・保育士20名,小学校教諭17名,中学校教諭10名,高校教諭22名,その他6名)(以下,教師群)である。教員の経験年数は平均16.7年(SD=9.93)であった。
手続き 学生群は講義時間の一部として,教師群は教員対象の講習会の中で調査を実施した。調査に際して調査目的と個人情報の保護を説明し,それらに同意した者に回答紙を提出してもらった。
課題構成 1.面積比較課題 等積問題,等周長問題(Figure 1)への解答を求めた(選択式)。2.正解の提示 1の面積比較課題の正解を示した。この際,いずれも求積公式を使って解けるが,図形の底辺と高さの相対的大小により面積の大小を判断する必要があることを解説した。3.等積問題の解答予想 等積問題について1)面積学習前の公立小学校4年生はどう答えるかを予想させた。その際,各解答選択肢の選択率(予想)を記入させた。次に2)教科書に沿って面積を学習した後の公立小学校6年生はどう答えるか,1)と同様に予想させた。4.等周長問題の解答予想 等周長問題について1)学習前の4年生はどう答えるか,2)面積学習後の6年生はどう答えるか,3と同様の手順で予想させた。さらに,3)なぜ1)2)のように予想したか,理由の記入を求めた。
結果と考察
学習前4年生の反応予想について,「周長大(同)なら面積大(同)」とする誤概念(周長ル・バー;工藤・白井,1991)による反応(ル・バー反応)を最頻値の反応として予想した者は,等積問題では学生群44%,教員群57%,等周長問題では学生群44%,教員群49%であった。さらに双方の問題においていずれもル・バー反応を最頻値反応とした者は学生群18%,教員群27%であった。教員群の方が子どものル・バー反応をよく予想していたことがうかがえた。一方,学習後の6年生の反応予想について,正反応(正解)を最頻値の反応として予想した者は,等積問題では学生群89%,教員群93%,等周長問題では学生群71%,教員群80%であった。双方の問題で正反応を最頻値反応とした者は学生群62%,教員群73%であり,やや教員群の方が「教科書に沿って教授すれば学習者は適切な課題解決が可能になる」とする見方が顕著であることがうかがえた。ところで,本研究で扱った課題は公式を使って解決できる問題であるが,公式学習後も周長と面積とを混同する反応が引き起こされやすい。そこで,学生群・教員群間で,対象者自身の面積課題遂行が完全正答か否かによって,4年生のル・バー反応予想および6年生の正反応予想の割合に違いがみられるかどうかを分析した。その結果,6年生の課題遂行で正反応を最頻値反応として予想した者の割合について,自身の面積課題遂行の主効果が有意であった(χ2(1)=5.52, p<.05, Figure 2)。大学生も教員も,自身の課題解決でのつまずきが,学習者の反応予想におけるバイアスを低減させていたと考えられる。
授業を創る際,教授者は学習者の事前の学習状況を踏まえた上で教授法や教材を決定する。それゆえ,当該学習領域における学習者の既有知識や課題遂行等をうまく予想できなければ,適切な教授法や教材の決定には至らない。この際,「知識の呪縛」(知識を有する者(教授者)は初心者がどう考えるかうまく予測できないバイアスHinds, 1999; 金田,2017)が関与する可能性が考えられるが,では,教員養成系の大学生と現職教員ではその予測に違いがみられるだろうか。進藤(1993)では教員の方が誤概念の影響をよく予測していたことが示されているが,教授経験の浅い学生でも自身の誤概念や知識の不十分さを自覚することで,学習者の課題遂行の予測が異なってくる可能性がある。本研究では,知識学習後も誤概念が保持されやすいことが指摘されている面積学習領域を取り上げ,公式学習前後の小学生の課題遂行を大学生および現職教員はどう予想するのか,またそれは自身の課題遂行によって異なるかを検討し,彼らのもつ教授学習に関する認識の一端を探る。
方 法
対象者 教員養成系の私立大学生55名(教育実習未経験の2,3年生)(以下,学生群),および現職教員75名(幼稚園教諭・保育士20名,小学校教諭17名,中学校教諭10名,高校教諭22名,その他6名)(以下,教師群)である。教員の経験年数は平均16.7年(SD=9.93)であった。
手続き 学生群は講義時間の一部として,教師群は教員対象の講習会の中で調査を実施した。調査に際して調査目的と個人情報の保護を説明し,それらに同意した者に回答紙を提出してもらった。
課題構成 1.面積比較課題 等積問題,等周長問題(Figure 1)への解答を求めた(選択式)。2.正解の提示 1の面積比較課題の正解を示した。この際,いずれも求積公式を使って解けるが,図形の底辺と高さの相対的大小により面積の大小を判断する必要があることを解説した。3.等積問題の解答予想 等積問題について1)面積学習前の公立小学校4年生はどう答えるかを予想させた。その際,各解答選択肢の選択率(予想)を記入させた。次に2)教科書に沿って面積を学習した後の公立小学校6年生はどう答えるか,1)と同様に予想させた。4.等周長問題の解答予想 等周長問題について1)学習前の4年生はどう答えるか,2)面積学習後の6年生はどう答えるか,3と同様の手順で予想させた。さらに,3)なぜ1)2)のように予想したか,理由の記入を求めた。
結果と考察
学習前4年生の反応予想について,「周長大(同)なら面積大(同)」とする誤概念(周長ル・バー;工藤・白井,1991)による反応(ル・バー反応)を最頻値の反応として予想した者は,等積問題では学生群44%,教員群57%,等周長問題では学生群44%,教員群49%であった。さらに双方の問題においていずれもル・バー反応を最頻値反応とした者は学生群18%,教員群27%であった。教員群の方が子どものル・バー反応をよく予想していたことがうかがえた。一方,学習後の6年生の反応予想について,正反応(正解)を最頻値の反応として予想した者は,等積問題では学生群89%,教員群93%,等周長問題では学生群71%,教員群80%であった。双方の問題で正反応を最頻値反応とした者は学生群62%,教員群73%であり,やや教員群の方が「教科書に沿って教授すれば学習者は適切な課題解決が可能になる」とする見方が顕著であることがうかがえた。ところで,本研究で扱った課題は公式を使って解決できる問題であるが,公式学習後も周長と面積とを混同する反応が引き起こされやすい。そこで,学生群・教員群間で,対象者自身の面積課題遂行が完全正答か否かによって,4年生のル・バー反応予想および6年生の正反応予想の割合に違いがみられるかどうかを分析した。その結果,6年生の課題遂行で正反応を最頻値反応として予想した者の割合について,自身の面積課題遂行の主効果が有意であった(χ2(1)=5.52, p<.05, Figure 2)。大学生も教員も,自身の課題解決でのつまずきが,学習者の反応予想におけるバイアスを低減させていたと考えられる。