日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC35] 合唱指導における心理学的アプローチの効果(2)

自由記述式の質問紙調査を通じて

金子典子1, 金子幾之輔2 (1.豊田市立中山小学校, 2.大正大学)

キーワード:合唱指導、分類、質的効果

目  的
 児童の合唱指導において最も大切なことは,教師が児童の心に響くような曲を選定することであると考えられる。実際A小学校では毎年,1年間の総まとめとして,2月に児童の企画に基づいて自主的に活動する音楽会等のイベントを実施している。このようなイベントは,経験知として「感謝の気持ち」や「コミュニケーションスキル」及び「結束力」更には,「友達同士を認め合う」ことに繋がっていったと推察されるが,その実証性については必ずしも明らかにされていない。この観点から,金子ら(2018)は今回と同様の対象者・研究法でχ2検定を適用してその量的効果を検証している。しかし,その基準は合唱することへの肯定―否定の水準で検討したものであり質的内容に乏しいものであった。そこで,本研究では,回答内容をサブカテゴリー化し,分類することによって,その質的効果を検証した。
方  法
調査対象者 A小学校4年生99名
調査時期 2017年4月~12月
調査手続き 小学校の音楽室で,無記名による自由記述式の質問紙調査を行った(第1回は評定尺度法実施のため分析対象外とした)。調査項目は,第1回「合唱の好き嫌い」,第2回「合唱練習直前の見解」,第3回「当該児童が合唱する予定のCDによるイメージと教師の教示内容」,第4回「当該児童の合唱練習の様子を撮影したVTR観察後の見解」,第5回「当該児童の音楽大会における合唱直後の見解」,第6回「当該児童の音楽大会における様子を撮影したDVD観察後の見解」,第7回「音楽大会での合唱後2か月の見解」であった。
分析方法
 7回に亘る質問項目で自由記述された第2回~第7回までの各項目において,最初に,記述された内容の中で1つの意味を構成する文脈で区切り,1項目とした。そして,その項目を内容の類似したもので集約し,サブカテゴリー化しネーミングを行った。さらに,そのサブカテゴリーの項目を集約し,種類として分類した。なおサブカテゴリー化および分類については,研究者2名で協議をしながら進めた。
結果と考察
第1回 「合唱の好き嫌い」についての回答は,学校行事の中で歌う合唱体験の少なさのためか肯定感と否定感の差がなかった。
第2回 「合唱練習直前の見解」では,「楽しみ」,「不安」,「疑問」が最も多かった。「楽しみ」の内容では音楽大会で歌えること,「不安」は音楽大会の様子が分からないためか,昨年の4年生のようにきれいな声で上手に歌えるかということ,「疑問」では合唱曲の選曲と練習法に関するものが多かった。すなわち,児童は期待と不安が混在している心的状態にあったといえよう。
第3回 合唱曲が発表され4年生の目標である「チャレンジ」の歌詞がはいっている曲のCDを鑑賞した直後では,歌詞の良さや旋律の美しさについて「好感」を抱いた児童が多かった。また,「不安」や「歌うことへの困難さ」も窺えたが,その曲と学年目標であるチャレンジ精神とが符合していたこともあって,敢えて難しい曲に挑戦しようという意向を示す児童も少なくなかった。
第4回 合唱練習で自分たちが歌っているVTRを鑑賞するといったセルフモニタリングでは,「無表情」,「発声」,「自分達が指揮を見て歌ってない」などの見解を抱く児童が殆どであった。これらは,問題点の気づきであり,改善の契機となり得る肯定的なものと考えられる。
第5回 本番終了直後の見解では,これまでの練習によって問題点が改善され好結果が得られたことから,肯定的な見解が多く示された。具体的には,「意欲向上」,「良かった」,「満足感」,「達成感」,「喜び」などであった。そして,その見解は後輩に対する激励までに発展する程になった。
第6回 本番場面の自分達が歌ったDVDを鑑賞した直後の見解では,「成果」,「良かった」,「表現」に着目していることが分かった。「成果」については,練習していた時より上手になっていたことを意味するものと思われる。また「良かった」では,第4回で鑑賞した自分達の合唱と比較してのものといえよう。「表現」ついては,良かったとする児童と厳しい目で判断する児童とに分かれていた。
 しかし,後者の見解についても,今後,さらに良くしようとする前向きな姿勢を示すものであると考えられる。
第7回 本番終了2か月後のFollow-upにおける児童の見解についても,「意欲向上」,「良かった」,「満足」,「成果」といった肯定的見解が継続していた。また,「家族に感謝」,「友達に感謝」,「先生に感謝」など,関係者への感謝の意を表したり,「児童同士の団結力」を強めたりしていた。これは,時間経過とともに視野を拡大できるようになったり,一層仲間意識を高めたりしたことによるもと考えられる。さらに,自分達の合唱を高めようとする意欲ともいえる「反省」や「気づき」も継続していた。以上のことから,合唱指導における一連の心理学的アプローチは,そのスキルアップのみならず,肯定的感情や集団凝集性の高まりという形で質的効果が検証されたといえよう。