日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC55] 学級での社会的目標の提示における言葉かけ分類

具体的内容と表現方法の関連

山村麻予1, 大谷和大2 (1.京都市立芸術大学, 2.北海道大学)

キーワード:社会的目標、学級、言葉かけ

問  題
 今日,児童の学級生活において,学級環境は重要な要素である。この学級環境を形成するためには,集団の秩序やルール維持のために,目指すべき目標やその必要性を,教師を含めたクラス全体が共有していることが大切である。とくに,教師が学級集団に向けて発するメッセージは,学級の目標構造とよばれ,学業的なものから社会的なものまでさまざまである。本研究では後者を社会的目標構造(大谷他,2016)として焦点を当てる。
 社会的目標構造は,向社会的目標構造と規範遵守目標構造から構成されており,規範遵守目標は向社会的目標に比べて心理的リアクタンスを喚起させやすいことなどが先行研究では指摘されている(大谷・山村.2017)。しかし,実際の学級場面において,どのような文脈で社会的目標が提示され,その意図が共有されているかの詳細を検討した研究は少ない。また,目標の内容だけではなく,その伝え方によっても,児童らの印象や認知は変動することが考えられるため,目標の表現方法も重要であるだろう。
 そこで,本研究では学校場面において観察を行い,社会的目標の提示が行われる場面やその内容,その表現方法,そしてその関連を探索的に検討することを目的とする。
方  法
対象 201X年度に関西圏内公立小学校4・5・6年生の各1クラスにおいて撮影された観察ビデオ。
撮影時期 201X年4月(学級開き),7月(一学期末),12月(二学期末)のホームルーム時。
手続き 教員ならびに学校との打ち合わせの上,発話者である教員の声が収録でき,かつ全体の様子が分かる教室後方にカメラを設置し,児童らに調査目的について説明したうえで撮影を実施した。記録されたデータについて,意味が分かる発話単位で抽出し,そのときの様子とともに文字起こしを行った。この際,教師が目標を伝達するために発する言葉や,ルールの共有・強調ならびに秩序の維持を目的としたと考えられるもののみを分でき対象とした。
結果と考察
分析対象 目標に関する教員の発話は,時期・学年を通して合計137件抽出された。
分析 分析に際しては,KJ法に類似した方法を用い,教育心理学専攻の研究者2名でカテゴリを決定した。まず,伝達したい目標に関する①具体的内容,そのあと②表現方法について,それぞれ小カテゴリを作成し,第二ステップとして類似した内容をまとめた大カテゴリを作成した。
①具体的内容 目標の具体的な内容に関する言葉かけは,教室での着席や傾聴姿勢に関する「A:教室での静かさ,落ち着き」,準備や宿題・提出物についての「B:課題に対する態度」,攻撃行動の抑止である「C:反社会的ふるまいの禁止」,返事や謝罪行動の促進を含む「D:あいさつ」,周囲を見て動くといった「E:状況を把握したうえでのふるまい」,協力行動や配慮を促す「F:向社会的行動の促進」,そして分類不能の「G:その他」の7つの大カテゴリに分類された。
②表現方法 言葉かけの表現方法については,大きく3つに大別した。それぞれ,取るべき行動・望ましい事柄を明示した「接近」(例:~しよう),望ましくない状態を避ける表現の「回避」(例:~しない),それ以外の「その他」(ほめ,許可,事実や価値観のみの提示等)である。接近・回避の小カテゴリには,共通して「命令」,「指示」が含まれた。
伝達内容と表現方法の関連 伝達内容の7カテゴリと,表現方法の3カテゴリの関連を検討するため,クロス集計表を作成した。表現方法については,「その他」の表現が多用される傾向にあるものの,回避に比べると接近が多く用いられることがわかった。また,D,E,Fといったの向社会的目標の提示について,回避表現はほとんど使用されていないことが明らかとなった。