[PD42] 乳幼児・児童虐待の特徴に関する基礎的分析
キーワード:子ども、虐待、ネグレクト
問題と目的
近年,一向に減らない悲惨な幼児・児童虐待の事例がマスメディアに多く取り上げられ社会問題化している。2019年2月には千葉県野田市の小学校4年生が父親からの虐待によって死亡した事件が,また2018年10月には東京都目黒区で5歳の女児が虐待死した事件が報じられている。このような悲惨な事件が報じられる度に,責任の所在が強く追及され,また何故に防げなかったのかの議論が多くなされる。このような議論は非常に重要ではあるが,社会問題化しているにもかかわらず,虐待に関しての科学的な分析が多くなされているとは言い難い現状も一方ではある。社会における「乳幼児・児童虐待」に関する関心は高まっているが,それに対する科学的アプローチは多く行われていない。現在も乳幼児・児童虐待に関連する多くの論文は出されているが,その大部分は「虐待事例に基づく知見のまとめ」「虐待事例における関係機関との連携」「虐待予防または虐待した親に向けた教育プログラム」などに焦点化したものである。これらの研究および提言は非常に重要ではあるが,一つ一つの個別の事例に基づくものであり,全体的な虐待の特徴の把握には至っていない。しかし,今後,乳幼児・児童虐待への対策を考えるうえで,これまでに行われてきた虐待事案の特徴を把握しておくことは非常に重要なことであるといえる。しかし,実際に虐待事案の全体的な特徴に関して検討した研究がほとんど見られないのは,その全体を把握するのが困難であるということが挙げられる。現在では子どもの虐待に関しての全体的データとして厚生労働省が毎年まとめている「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」がある(現在の最新は第14次報告)。ここで挙げられているデータは死亡事例と重症事例に分けられており,死亡事例は厚生労働省が新聞報道等から抽出し,地方公共団体が把握した死亡事例と合わせて地方公共団体に詳細に調査したものである。対して重症事例は全国の児童相談所が児童虐待相談として受理した事例の中で,子どもの死亡には至らなかったものの「身体的虐待」等による生命の危険に関わる受傷,「養育の放棄・怠慢」のために衰弱の危険性があった事例としている。そのため死亡事例は多く挙げられているのに対して,重症事例はどの報告においても非常に少ないという問題点が挙げられる(第14次報告では14例)。また,年次ごとに報告が出されるため,年次によって定義や分類が変わることがあり,虐待の傾向を捉えることは可能であるが,子どもの虐待としてどのような特徴があるのか全体として分析するには不適なデータとも言える。しかし先述した通り,今後の子どもへの虐待防止対策やそれを踏まえたうえでの政策を論じる際には,まずそのための基礎研究として虐待の全体的特徴を把握する必要があるといえる。そこで本報告では,これまでの虐待事案を死亡・重症事例と併せて分析できる指標を用いてこれまでの虐待事案に関する基本的な特徴を分析すること目的とした。
方 法
これまでの虐待(もしくは虐待が疑われる事例)の抽出として,新聞記事を利用した。朝日新聞記事データベースを用いて,1984年~2017年1月31日までの期間を分析対象として,「虐待」「ネグレクト」をキーワードとして記事検索を行い,抽出された記事の中の事件の内容を吟味し,養育者からの虐待による傷害・死亡事件と判断できる事件を本研究における虐待事件として抽出した(学校及び施設における事案は本研究の対象外とした)。抽出した虐待事案に対して,「発生日」「場所」「子どもの年齢」「性別」「加害者」「関係」「家族構成」「動機」「内容」「結果」「分類」の11のフィールドを設定し,データベース化した。
結 果
虐待をした養育者と年齢区分との間に有意な関連が見られた(χ2 =24.53,df=8,p<.01)。年齢区分が若い母親および年齢区分の高い父親による虐待件数が多くみられるという結果であった。また,養育者と虐待の結果との関連を調べた結果,有意な関連が見られた(χ2 =30.45,df=4,p<.01)。虐待の加害者が母親の場合,虐待による結果が死亡であることが有意に多く,ケガであることが有意に少ないという結果であったのに対して,虐待の加害者が父親であった場合,虐待の結果がケガであることが有意に多いという結果であった。
近年,一向に減らない悲惨な幼児・児童虐待の事例がマスメディアに多く取り上げられ社会問題化している。2019年2月には千葉県野田市の小学校4年生が父親からの虐待によって死亡した事件が,また2018年10月には東京都目黒区で5歳の女児が虐待死した事件が報じられている。このような悲惨な事件が報じられる度に,責任の所在が強く追及され,また何故に防げなかったのかの議論が多くなされる。このような議論は非常に重要ではあるが,社会問題化しているにもかかわらず,虐待に関しての科学的な分析が多くなされているとは言い難い現状も一方ではある。社会における「乳幼児・児童虐待」に関する関心は高まっているが,それに対する科学的アプローチは多く行われていない。現在も乳幼児・児童虐待に関連する多くの論文は出されているが,その大部分は「虐待事例に基づく知見のまとめ」「虐待事例における関係機関との連携」「虐待予防または虐待した親に向けた教育プログラム」などに焦点化したものである。これらの研究および提言は非常に重要ではあるが,一つ一つの個別の事例に基づくものであり,全体的な虐待の特徴の把握には至っていない。しかし,今後,乳幼児・児童虐待への対策を考えるうえで,これまでに行われてきた虐待事案の特徴を把握しておくことは非常に重要なことであるといえる。しかし,実際に虐待事案の全体的な特徴に関して検討した研究がほとんど見られないのは,その全体を把握するのが困難であるということが挙げられる。現在では子どもの虐待に関しての全体的データとして厚生労働省が毎年まとめている「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」がある(現在の最新は第14次報告)。ここで挙げられているデータは死亡事例と重症事例に分けられており,死亡事例は厚生労働省が新聞報道等から抽出し,地方公共団体が把握した死亡事例と合わせて地方公共団体に詳細に調査したものである。対して重症事例は全国の児童相談所が児童虐待相談として受理した事例の中で,子どもの死亡には至らなかったものの「身体的虐待」等による生命の危険に関わる受傷,「養育の放棄・怠慢」のために衰弱の危険性があった事例としている。そのため死亡事例は多く挙げられているのに対して,重症事例はどの報告においても非常に少ないという問題点が挙げられる(第14次報告では14例)。また,年次ごとに報告が出されるため,年次によって定義や分類が変わることがあり,虐待の傾向を捉えることは可能であるが,子どもの虐待としてどのような特徴があるのか全体として分析するには不適なデータとも言える。しかし先述した通り,今後の子どもへの虐待防止対策やそれを踏まえたうえでの政策を論じる際には,まずそのための基礎研究として虐待の全体的特徴を把握する必要があるといえる。そこで本報告では,これまでの虐待事案を死亡・重症事例と併せて分析できる指標を用いてこれまでの虐待事案に関する基本的な特徴を分析すること目的とした。
方 法
これまでの虐待(もしくは虐待が疑われる事例)の抽出として,新聞記事を利用した。朝日新聞記事データベースを用いて,1984年~2017年1月31日までの期間を分析対象として,「虐待」「ネグレクト」をキーワードとして記事検索を行い,抽出された記事の中の事件の内容を吟味し,養育者からの虐待による傷害・死亡事件と判断できる事件を本研究における虐待事件として抽出した(学校及び施設における事案は本研究の対象外とした)。抽出した虐待事案に対して,「発生日」「場所」「子どもの年齢」「性別」「加害者」「関係」「家族構成」「動機」「内容」「結果」「分類」の11のフィールドを設定し,データベース化した。
結 果
虐待をした養育者と年齢区分との間に有意な関連が見られた(χ2 =24.53,df=8,p<.01)。年齢区分が若い母親および年齢区分の高い父親による虐待件数が多くみられるという結果であった。また,養育者と虐待の結果との関連を調べた結果,有意な関連が見られた(χ2 =30.45,df=4,p<.01)。虐待の加害者が母親の場合,虐待による結果が死亡であることが有意に多く,ケガであることが有意に少ないという結果であったのに対して,虐待の加害者が父親であった場合,虐待の結果がケガであることが有意に多いという結果であった。