[PE07] 幼児・児童の抑制的教示行為
向社会的行動としての「教えない」行動の発達
キーワード:抑制的教示、発達、向社会的行動
目 的
教示行為とは「他者の知識を増やそうとする意図的な行為」(Frye & Ziv, 2005)である。人は生来的に向社会的存在であり(Warneken & Tomasello, 2006),1歳代の幼児でも指差しを通して他者が知らないことを教えたり,誤った行動を修正したりするような行動が観察されている(赤木,2004; 岸本,2011)。
ところで,赤木(2008)は乳幼児期に既に観察されるような,他者の行為に直接的に介入する行為を「積極的教示行為」と呼び,他者の行為に介入しないことで他者の知識や技能の向上を促す教え方を「抑制的教示行為」と定義した。抑制的教示は行動レベルでは何もしていないが,その行為の背景に向社会的な動機を認めることができるために向社会的行動であると考えられる。抑制的教示についての研究は少ないが,児童期後半には可能になること(赤木,2008),1人でできるようになりたい等の欲求が明示されれば幼児期後半から可能になること(赤木,2006; 小川,2010,2011)等が示されている。
本研究では,幼児,児童を対象として,抑制的教示の発達を検討することを目的とする。特に,行為者の欲求が明示された場合と明示されなかった場合で教示行為にどのような差が生じるのかを検討する。
方 法
実験参加者 A県内の幼稚園に通う幼児66名(年中児33名,年長児33名)と児童197名(2年生67名,4年生68名,6年生62名)を対象とした。対象者は全員,入学(園)時に研究参加について保護者の代諾が得られている。また,所属長と担任に説明の上,研究実施の許可を得た。実施に当たっては当人の意思を尊重し,児童には参加辞退の権利についても口頭で説明した。
抑制的教示課題 主人公が折り紙(パズル)をしており,少しずつできるようになっているという内容のストーリーを,幼児には紙芝居形式で,児童には質問紙形式で呈示した。この際,心的状態有群には「1人でできるようになりたいと思っている」という主人公の欲求を明示した。その後,主人公に対して参加者が取る行動について選択肢を呈示して回答を求めた。選択肢は「主人公にやり方を教える」「主人公にやり方を教えないで見ている」の2つとし,選択後に理由も尋ねた。
結果と考察
心的状態の有無と主人公に対する行動の選択の連関について,幼児の結果をTable 1に,児童の結果をTable 2に示した。
学年別に2項検定を行ったところ,幼児は「教える」の選択が多く(ps < .09),2年生は選択の偏りがなく(p = .46),4・6年生は「教えない」の選択が多かった(ps < .03)。続いて,心的状態の有無によって主人公に対する行動が異なるかを検討するために学年別にFisherの正確確率検定を行った。その結果,2年生で心的状態が明示された場合に「教えない」が選択される傾向が認められたが(p = .09),他の学年には有意な偏りは認められなかった(ps > .19)。
以上のことから,幼児期の向社会的行動は直接的な行動として表現されるものであり,心的状態という手がかりの有無に関わらず,幼児では抑制的教示は難しく,児童期の半ば以降に「教えない」という教え方ができるようになることが示された。
教示行為とは「他者の知識を増やそうとする意図的な行為」(Frye & Ziv, 2005)である。人は生来的に向社会的存在であり(Warneken & Tomasello, 2006),1歳代の幼児でも指差しを通して他者が知らないことを教えたり,誤った行動を修正したりするような行動が観察されている(赤木,2004; 岸本,2011)。
ところで,赤木(2008)は乳幼児期に既に観察されるような,他者の行為に直接的に介入する行為を「積極的教示行為」と呼び,他者の行為に介入しないことで他者の知識や技能の向上を促す教え方を「抑制的教示行為」と定義した。抑制的教示は行動レベルでは何もしていないが,その行為の背景に向社会的な動機を認めることができるために向社会的行動であると考えられる。抑制的教示についての研究は少ないが,児童期後半には可能になること(赤木,2008),1人でできるようになりたい等の欲求が明示されれば幼児期後半から可能になること(赤木,2006; 小川,2010,2011)等が示されている。
本研究では,幼児,児童を対象として,抑制的教示の発達を検討することを目的とする。特に,行為者の欲求が明示された場合と明示されなかった場合で教示行為にどのような差が生じるのかを検討する。
方 法
実験参加者 A県内の幼稚園に通う幼児66名(年中児33名,年長児33名)と児童197名(2年生67名,4年生68名,6年生62名)を対象とした。対象者は全員,入学(園)時に研究参加について保護者の代諾が得られている。また,所属長と担任に説明の上,研究実施の許可を得た。実施に当たっては当人の意思を尊重し,児童には参加辞退の権利についても口頭で説明した。
抑制的教示課題 主人公が折り紙(パズル)をしており,少しずつできるようになっているという内容のストーリーを,幼児には紙芝居形式で,児童には質問紙形式で呈示した。この際,心的状態有群には「1人でできるようになりたいと思っている」という主人公の欲求を明示した。その後,主人公に対して参加者が取る行動について選択肢を呈示して回答を求めた。選択肢は「主人公にやり方を教える」「主人公にやり方を教えないで見ている」の2つとし,選択後に理由も尋ねた。
結果と考察
心的状態の有無と主人公に対する行動の選択の連関について,幼児の結果をTable 1に,児童の結果をTable 2に示した。
学年別に2項検定を行ったところ,幼児は「教える」の選択が多く(ps < .09),2年生は選択の偏りがなく(p = .46),4・6年生は「教えない」の選択が多かった(ps < .03)。続いて,心的状態の有無によって主人公に対する行動が異なるかを検討するために学年別にFisherの正確確率検定を行った。その結果,2年生で心的状態が明示された場合に「教えない」が選択される傾向が認められたが(p = .09),他の学年には有意な偏りは認められなかった(ps > .19)。
以上のことから,幼児期の向社会的行動は直接的な行動として表現されるものであり,心的状態という手がかりの有無に関わらず,幼児では抑制的教示は難しく,児童期の半ば以降に「教えない」という教え方ができるようになることが示された。