日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-67)

2019年9月15日(日) 13:30 〜 15:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:30~14:30
偶数番号14:30~15:30

[PE23] 授業ノートの代わりとしての教科書の活用可能性

教科書へのメモ書きと説明活動による学習効果

福田麻莉 (東京大学大学院・日本学術振興会)

キーワード:教科書、説明活動、中学生

問題と目的
 日本における数学の授業では,教師が黒板を使って学習内容を解説し,生徒が板書内容をノートにメモするという活動が一般的に行われている。しかし,生徒は効果的なノートテイキングを行っているのであろうか。重松・西部(2006)は高校生への調査を行い,回答者の約70%は板書を写したり強調するだけのノートテイキングに陥っていることを明らかにした。逐語的なノートテイキングでは学習効果が薄いことが古くから指摘されているため,(Bretzing & Kulhavy, 1979),単なる板書ではなく,「なぜ公式が成り立つのか」といった理解を深めるポイントのメモを促す必要がある。
 しかし,数学の授業では,数式や図表など様々なシンボルを用いられるため,板書を写すだけで手一杯になる生徒も少なくないだろう。福田(2018)は,教師の板書と教科書に既に書かれた内容には重複が多いことに着目し,ノートは取らず,教科書には書かれていないポイントのみを教科書に直接書き込ませるという工夫と,ポイントの理解を深めるために生徒同士に説明させるという活動を高校の数学授業に導入した。その結果,ノートに板書をメモし説明活動を取り入れなかった統制クラスに比べ,テスト成績が高く,ノートの代わりとして教科書を活用できる可能性が示唆された。
 ただし,学校現場での介入研究では,様々な剰余変数の影響を否定できない。そのため,介入効果を同定する上では,ランダム割り当てによる実験も必要である。また,高校生以外でも教科書活用が機能するかは明らかでない。そこで本研究では,中学生に対し5日間の実験授業を実施し,ノートに板書を写した後に説明活動を行うクラスと比べ,教科書にメモ書きして説明活動を行うクラスの方が学業成績が高くなるかを明らかにする。
方  法
参加者 中学2年生62名(教科書+説明群19名,ノート+説明群21名,ノート・説明なし群21名)。全て,研究協力に同意し,申し込んだ生徒である。
介入内容 (a)教科書へのメモ書き 教師が解説中に板書をする際,教科書に書かれていないポイントを明示し,教科書に直接書き込むよう促した。ノート群には白紙ノートを配布し,メモさせた。
(b) 説明活動 教師からの教授後,ペアで説明活動を行わせた。例えば,「平行線のとき錯角が等しいのはなぜか,隣の人に説明しよう」と求めた。
授業内容 (1)教師が学習内容を教授し,その間教科書かノートにメモを取らせた。(2)説明活動の発問を提示し,プリントに説明を記述するよう求めた。続いてペアで互いに説明させた。説明なし群では,ノートを取る時間とした。(3)教科書群は教科書,ノート群は板書に沿って模範説明を確認した。(4)教師から例題の解説を行い,同様に説明活動を行った。(4)発展問題を提示し,考え方を説明しながら協同的問題解決を行わせた。
事後テスト (a)手続き問題 図の中の角度について,式・考え方・答えを記述させる問題を4問出題した。((b)説明問題 性質が成り立つ理由を説明させる問題を2問出題した(例:「平行線のとき錯角が等しいのはなぜか,図を使って説明せよ」)。「対頂角が等しいことを述べているか」といった4つの基準を設け,採点した(1問4点)。
結果・考察
手続きテスト クラスを独立変数,事前成績および校種(公立・附属校)を共変量,手続きテスト得点を従属変数とした共分散分析を行った。その結果,クラスの効果は有意ではなかった。協同的問題解決を全クラスに導入したこと,制限時間が短く,考え方を記述する上では十分でなかったことが理由として考えられる。
説明テスト 手続きテストと同様に共分散分析を行った。その結果,クラスの効果が有意であり(F(2.52)=3.75, p <.05),多重比較の結果,説明活動を取り入れた2群のうち,教科書にメモしたクラスの方が成績が高いことが示された。その理由として,ノート群は授業中に説明の回答に当たる内容をノート書き写したため,単なる知識陳述の説明活動に陥り,内容理解が深まらなかった可能性があると考えられる。今後は説明の音声データも分析し,上記の可能性を検討する必要がある。