日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF21] フィードバックによる作文の改善に及ぼす適性要因の影響(2)

プロセスモデルの検討

福富隆志 (慶應義塾大学大学院)

キーワード:作文、フィードバック、制御焦点

目  的
 福富(2018:教心総会)では,フィードバック(以下,FB)による作文の改善過程に,適性要因としての制御焦点,達成目標,学習観,認知スタイルが及ぼす影響を検討した。その結果,制御焦点が方略や感情などの内的過程と関連する一方で,他の適性との関連は示されなかった。そこで本研究では,新たにパフォーマンス要因を加えて,適性,内的過程,パフォーマンスの関連を示したプロセスモデルを検証する。
方  法
分析対象者 全調査参加者157名のうち,最後まで調査に参加し,かつ回答に欠損値の無い133名の短期大学生および大学生を分析対象者とした。
課題 「これまでにした苦労体験と,そこから学んだことは何ですか?」というテーマで文章を書く課題を実施した。
手続き 集団を対象に,2回に分けて課題を行った。ただし,2回目では,最初に1回目の課題に関するコメントが記されたシートを渡した後に,課題を実施した。シートには,作文の「良かったところ」と「直した方がよいところ」がそれぞれ1点ずつ記されていた。
制御焦点適性 尾崎・唐沢(2011)のPPFS邦訳版の一部を使用。下位尺度は,(1)損失回避志向:否定的な結果や安全などへの関心。防止焦点に対応。(2)利得接近志向:肯定的な結果や進歩などへの関心。促進焦点に対応。
達成目標志向性 田中・山内(2000)の目標志向性尺度を使用。下位尺度は,(1)マスタリー志向:学習によって能力を高めることへの志向,(2)遂行接近志向:自分の有能さを誇示しようとする志向。(3)遂行回避志向:自分の無能さが明らかになる事態を避けようとする志向。
学習観 瀬尾(2007)などを参考に,学習に対する信念を測定する尺度を作成。下位尺度は,(1)失敗活用志向:失敗を学習改善の材料と捉える考え方,(2)結果重視志向:学習過程よりも結果を重視する考え方。
認知的熟慮性 滝聞・坂元(1991)の熟慮性-衝動性尺度を使用。得点が高いほど,情報を分析的に処理し,論理的に問題解決をする傾向にある。
従属変数 主なものは,(1)不安,(2)興味・楽しさ,(3)内容生成方略:じっくり考えるよりも,まずは文章を書くことを優先する方略,(4)内容吟味方略:じっくり考えながら文章を書く方略,(5)全体改善意図:作文全体を改善しようとする意図,(6)文字数,(7)指摘点の改善:FBで指摘された点の改善の程度。
結果と考察
 統制変数等を入れた重回帰分析の結果をもとに,適性,内的過程,パフォーマンスの関連を示すモデルを作成した(Figure1)。SEMによる分析の結果,適合度は良好であった(χ2(58)=45.56,p=.25,CFI=.97,RMSEA=.03,SRMR=.07)。安全に関心のある損失回避志向の人は文章の完成を優先させるために内容生成方略を,進歩に関心のある利得接近志向の人はより良い文章を書くために内容吟味方略をそれぞれ使用したと考えられる。さらに,防止焦点と不安は環境の脅威さを示し,促進焦点と楽しさは環境の安全さを示す,認知面と感情面のシグナルであると考えられる(Friedman & Förster, 2001など)。また,マスタリー志向は興味・楽しさなどの内発的動機づけと関連する(Elliot & Church,1997)。しかし,他の達成目標志向性,学習観,認知スタイルは,改善の内的過程との関連が示されなかった。この結果は,目標や信念などに関する適性よりも,制御焦点に関する適性の方が,直近の課題改善の内的過程との関連が強いことを示している。したがって,作文の改善過程に対応した介入を行う場合には,学習者の制御焦点を考慮する必要があると思われる。