日本教育心理学会第61回総会

Presentation information

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

Sun. Sep 15, 2019 4:00 PM - 6:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF52] 就職を希望する普通科高校生のキャリア選択に対する納得感(2)

納得感の構成と規定因

山本奬1, 大谷哲弘2 (1.岩手大学大学院, 2.立命館大学)

Keywords:キャリア選択、高校生、就職

問題と目的
 キャリア選択に対する納得感について,大谷・竹下・山本(2018)は,内的基準による外的基準の吟味と,外的基準が内的基準に与える刺激の繰り返しの結果であることを質的検討に基づいて報告している。内的基準とは個人の中にある価値観や適性・能力など自己理解に係るものを指す。外的基準とは仕事内容や労働条件など職業情報に係るものを指す。本研究の目的は,大谷ら(2018)で示唆されたキャリア選択に対する納得感の構造を量的に明らかにした上でこれを規定する要因を探索することであった。

方  法
時期:2018年6月
対象:就職を希望する高校生1836人(内,普通科387人,他に農業科,工業科,商業科,家庭科,総合学科,その他の学科を対象とした。)
材料:「キャリア選択に対する納得感」;大谷ら(2018)で得られた納得感を表現する10項目,「キャリア選択に対する熟考」;大谷・山本(2019)によって作成された8項目からなるキャリア選択に対する熟考尺度,「特性不安」;日本語版State-Trait Anxiety Inventory for Children(谷ら, 2011)のうち特性不安を表す7項目
手続:協力校(35校(内,普通科18校))の担任教師等がこれを生徒に配布しその場で記入を求め回収した。その際回答は任意である旨等を口頭で説明するとともにフェイスシートに記す等倫理上の配慮を行った。実施に際しては関係大学の倫理委員会の承認を得た。
結果と考察
 不備のあったものを削除した結果,1830人(内,普通科385人)の回答が分析された。
1 キャリア選択に対する納得感の測定
 まず,キャリア選択に対する納得感の構造を捉えるために,これを表す10項目について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った。学科別に分析を行ったところ同一の解が得られたと考えられたことから,合わせて分析を行うこととした。その結果,高い相関が見られる(r=.737)2因子が抽出された。第1因子は「7この仕事を選んだ理由がある」「10この仕事を選択した意義を理解している」などで高い負荷量が示され,仕事や選択に意義を見いだそうとする内的作業だと解されたので『意義』と命名した。第2因子は「8職場環境に適応することができそうだ」「5これからの生活に慣れることができそうだ」などで高い負荷量が示され,仕事内容や職業生活への展望を得ようとする内的作業だと解されたので『見通し』と命名した。内的整合性もα=.898,.877と十分であり,足し上げによる尺度が作成された(r=.721)。安定性については今後の課題とされた。確認的因子分析の結果,CFI=.951,AGFI=.900,RMSEA=.095であり,2因子モデルの適合性は高かった。
 これらの結果は大谷ら(2018)の質的検討を指示するものであり,キャリア選択に対する納得感は,『意義』と『見通し』で捉えることが可能であることが示されたと言えよう。
2 キャリア選択に対する納得感の規定因
 次にその納得感の規定因について,質的検討で示されたキャリア選択に対する熟考とパーソナリティに依存する不安を材料に探索することとした。そこで,上で作成された「キャリア選択に対する納得感」の2下位尺度のそれぞれを従属変数,大谷ら(2019)による「キャリア選択に対する熟考」と「特性不安」を独立変数とする重回帰分析を行った。また,この時点では学科による個別性に論が及ぶことを避けるために,普通科のみを抽出して分析することとした。
 その結果,『意義』では,比較的大きな重相関係数が見られ(R=.700***),「キャリアに対する熟考」の標準偏回帰係数は.699***であり,「特性不安」は有意にはたらかなかった。『見通し』でも重回帰式は有意であり(R=.696***),「キャリアに対する熟考」が有意な独立変数であり(β=.688***),同時に「特性不安」も有意にはたらいた(β=.101**),(***<.001, **<.01)。
 これらのことから,キャリア選択に対する納得感を構成する『意義』『見通し』共に,内的基準による外的基準の吟味と,外的基準が内的基準に与える刺激の繰り返しによる熟考と深い関係にあり,この作業により高まることが示唆されたと言える。
 また,当該生徒のパーソナリティ特性の一つである不安の強さは,『意義』の理解には影響しないが,『見通し』の獲得については,一定の影響があることが示唆された。
付  記
 本研究はJSPS科研費JP17K04838 の助成を受けたものです。