[PF53] 情動知能と学校環境適応感の関連性についての検討
小学3年生へのアンガーマネージメントの実践から
Keywords:情動知能、学校環境適応感、アンガーマネージメント
問題と目的
友人関係や教師との関係は学校適応感と関係しており,集団行動を基本とする日本の学校生活において,対人関係は学校適応感を規定する重要な要因と考えられる (橘川・高野, 2008)。そして福田・内田・山崎 (2013) は「感情は人間関係において,互いの気持ちを伝えあうなどの情報伝達の役割を担い,社会性と密接な関わりがある」としている。しかし,情動に関する包括的な能力(情動知能)が実際にどれだけ児童生徒の社会的スキルの獲得ひいては学校適応感と関連しているかを詳細に検討した研究は少ないため (豊田・吉田, 2012; 下田・石津・樫村, 2014),この点についてはさらなる検討の余地があると考えられる。そこで本研究では,情動知能と学校環境適応感の関連性について検討することを目的とする。
方 法
調査対象者 調査対象は,東京都内の公立A小学校1校に通う3年生2学級で合計56名 (男子21名,女子35名) であった。
実施期間・場所 プログラムは2018年9月末~11月初旬において,学活の時間を活用し,各学級の教室で全6回 (45分/回) 実施された。
評定尺度 本研究の効果測定では以下の2つの質問紙を倫理的配慮に基づき実施した。
(1)学校環境適応感尺度ASSESS(栗原・井上, 2016)
(2)中学生版情動知能尺度(豊田・桜井, 2007の項目表現を小学生用に変更)
結 果
情動知能と学校環境適応感の相関係数を求めたところ,「生活満足感」,「友人サポート」,「向社会的スキル」,「学習的適応」でPre, Post, FUの全ての因子間に有意な相関が確認された。またPre, Post, FUの「情動の利用」と「教師サポート」,「自分の情動の調整」と「非侵害的関係」で一貫して有意な相関が確認された(Table 1)。
考察と展望
ASSESSの「生活満足感」は他の全ての因子と高い相関があり,「生活満足感」以外のどの因子得点が高くなっても「生活満足感」は改善し,また生活満足感が改善すれば他の因子にも良い影響をもたらす可能性が指摘されている(栗原・井上, 2016)。今回得られた結果からも,情動知能の高さが良好な友人関係の形成や学業達成感に良い影響を与え,ひいては「生活満足感」の向上にも繋がる可能性が示唆された。一方「非侵害的関係」で一貫して「自分の情動の調整」に相関が見られた。これは自分の情動をうまく調整する能力が否定的な友人関係の形成を防いでいることを示唆していると考えられる。これらのことから,情動知能の向上に焦点を当てた予防的心理教育プログラムであるアンガーマネージメントプログラムの重要性が示唆された。また「教師サポート」で一貫して「情動の利用」に相関が見られた。担任の先生への信頼感や,被承認感,困ったときに助けてもらえる安心感などが,児童の自己肯定感に良い影響を与えていることが示唆された。
友人関係や教師との関係は学校適応感と関係しており,集団行動を基本とする日本の学校生活において,対人関係は学校適応感を規定する重要な要因と考えられる (橘川・高野, 2008)。そして福田・内田・山崎 (2013) は「感情は人間関係において,互いの気持ちを伝えあうなどの情報伝達の役割を担い,社会性と密接な関わりがある」としている。しかし,情動に関する包括的な能力(情動知能)が実際にどれだけ児童生徒の社会的スキルの獲得ひいては学校適応感と関連しているかを詳細に検討した研究は少ないため (豊田・吉田, 2012; 下田・石津・樫村, 2014),この点についてはさらなる検討の余地があると考えられる。そこで本研究では,情動知能と学校環境適応感の関連性について検討することを目的とする。
方 法
調査対象者 調査対象は,東京都内の公立A小学校1校に通う3年生2学級で合計56名 (男子21名,女子35名) であった。
実施期間・場所 プログラムは2018年9月末~11月初旬において,学活の時間を活用し,各学級の教室で全6回 (45分/回) 実施された。
評定尺度 本研究の効果測定では以下の2つの質問紙を倫理的配慮に基づき実施した。
(1)学校環境適応感尺度ASSESS(栗原・井上, 2016)
(2)中学生版情動知能尺度(豊田・桜井, 2007の項目表現を小学生用に変更)
結 果
情動知能と学校環境適応感の相関係数を求めたところ,「生活満足感」,「友人サポート」,「向社会的スキル」,「学習的適応」でPre, Post, FUの全ての因子間に有意な相関が確認された。またPre, Post, FUの「情動の利用」と「教師サポート」,「自分の情動の調整」と「非侵害的関係」で一貫して有意な相関が確認された(Table 1)。
考察と展望
ASSESSの「生活満足感」は他の全ての因子と高い相関があり,「生活満足感」以外のどの因子得点が高くなっても「生活満足感」は改善し,また生活満足感が改善すれば他の因子にも良い影響をもたらす可能性が指摘されている(栗原・井上, 2016)。今回得られた結果からも,情動知能の高さが良好な友人関係の形成や学業達成感に良い影響を与え,ひいては「生活満足感」の向上にも繋がる可能性が示唆された。一方「非侵害的関係」で一貫して「自分の情動の調整」に相関が見られた。これは自分の情動をうまく調整する能力が否定的な友人関係の形成を防いでいることを示唆していると考えられる。これらのことから,情動知能の向上に焦点を当てた予防的心理教育プログラムであるアンガーマネージメントプログラムの重要性が示唆された。また「教師サポート」で一貫して「情動の利用」に相関が見られた。担任の先生への信頼感や,被承認感,困ったときに助けてもらえる安心感などが,児童の自己肯定感に良い影響を与えていることが示唆された。