[PG23] 感情制御と学習態度は中学2年生のテスト不安を低減するか?
キーワード:テスト不安、感情制御、認知的再評価
問題と目的
テスト不安とは,テスト状況で特異的に生じる不安で(Spielberger & Vagg, 1995),数学の成績に負の影響を及ぼす(von der Embse et al., 2018)。テスト不安の影響が最も顕在化する中学2年生のテスト不安のメカニズムの解明は重要な課題である。
人は不安の伴う目標達成状況では,自発的に感情制御を行う (Volkhov & Demaree, 2010)。感情制御の中でも不安の低減に有効な方略は認知的再評価である(Gross, 1998)。認知的再評価は,状況や刺激,心的状態に対する解釈を変化させることで,感情の強度や種類を(肯定的に)変化させる方略である。一方で,実際には多くの中学生はテスト勉強を行うことでテストに対処するが,こうした学習態度,テスト不安,認知的再評価,実際の成績の間の関係について検討は行われていない。
そこで,本研究では,中学生を対象に,実際の期末テストにおいて,テスト不安が数学の成績に影響しているかどうか,そして,学習態度や感情制御がそうした影響の低減に役立っているかどうかを明らかにすることを目的とする。
方 法
参加者:中学生150名(平均年齢 = 13.92,SD = .27)を対象とした。使用尺度:テスト不安を測定するために,Friedman Test Anxiety尺度日本語版(6件法,23項目; Friedman & Bendas-Jacob, 1997; 松原他,2001)を使用した。期末テストに対する学習態度を測定するために,学習の態度尺度(児玉・石隈,2015)のテスト課題対処項目(5件法,4項目)を使用した。期末テストにおける中学生の認知的再評価の使用傾向を測定するために,小学校高学年・中学生用情動制御尺度(杉山他,2017)の認知的再評価の項目(4件法,5項目)を使用した。テストに対する認知的再評価を測定するために,教示を「テストで失敗したり,勉強で辛いことがあったときに」と変更した。学業成績の指標として,期末テストの数学の成績を使用した。手続き:期末テストの1週間前に,質問紙調査を実施した。
結 果
まず,先行研究と同様の数学におけるテスト不安の影響が,学習態度を統制した上でも生じるか調べた。数学の成績を従属変数,学習態度得点とテスト不安得点を独立変数とする重回帰分析を行なった。その結果,学習態度得点 (β = .34, t = 4.37, p <.01) とテスト不安 (β = -.19, t = -2.43, p <.05) の双方で,標準化偏回帰係数が有意であった。学習態度を統制した上でも,テスト不安が数学成績に対して負の影響を持つことが示された。
次に,テスト不安における認知的再評価と学習態度の影響を調べるため,テスト不安を従属変数,認知的再評価得点と学習態度得点を独立変数とする重回帰分析を行った。その結果,認知的再評価の標準化偏回帰係数のみが有意で (β = -.29, t = -3.41, p <.01),学習態度得点は有意ではなかった (β = -.12, t = -1.42, p = n.s.)。したがって,テスト不安の緩和において,テスト勉強は有効ではなく,認知的再評価のみが有効であることが示された。
最後に,テスト不安が数学成績に及ぼす影響を,認知的再評価が調整するか調べた。認知的再評価得点の平均値(M = 12.8)を基準に,高群(M = 14.96)と低群(M = 10.22)に群分けを行なった。そして,認知的再評価の高群,低群において,数学成績を従属変数,テスト不安得点を独立変数とする重回帰分析を行った。その結果,低群ではテスト不安得点の標準化係数が有意(β = -.40, t = -3.55, p <.01)であったが(Figure 1),高群ではテスト不安の標準化係数は有意ではなかった(β = -.07, t = -.63, p = n.s.)(Figure 2)。したがって,認知的再評価の使用傾向が高い中学生では,テスト不安が数学に及ぼす負の影響が緩和されることが示された。
考 察
数学の成績を向上させるためには,テスト勉強だけではなくテスト不安を緩和する必要があることが示唆された。さらに,テスト不安の緩和において,テスト勉強は有効ではなく,認知的再評価が有効であることが示された。海外では,認知的再評価を促進する「短期筆記開示」介入を用いて,高校生の試験成績を向上させる研究が既に行われている(Ramirez & Beilock, 2011)。今後は国内においても同様の介入方法を開発していく必要性があるだろう。
テスト不安とは,テスト状況で特異的に生じる不安で(Spielberger & Vagg, 1995),数学の成績に負の影響を及ぼす(von der Embse et al., 2018)。テスト不安の影響が最も顕在化する中学2年生のテスト不安のメカニズムの解明は重要な課題である。
人は不安の伴う目標達成状況では,自発的に感情制御を行う (Volkhov & Demaree, 2010)。感情制御の中でも不安の低減に有効な方略は認知的再評価である(Gross, 1998)。認知的再評価は,状況や刺激,心的状態に対する解釈を変化させることで,感情の強度や種類を(肯定的に)変化させる方略である。一方で,実際には多くの中学生はテスト勉強を行うことでテストに対処するが,こうした学習態度,テスト不安,認知的再評価,実際の成績の間の関係について検討は行われていない。
そこで,本研究では,中学生を対象に,実際の期末テストにおいて,テスト不安が数学の成績に影響しているかどうか,そして,学習態度や感情制御がそうした影響の低減に役立っているかどうかを明らかにすることを目的とする。
方 法
参加者:中学生150名(平均年齢 = 13.92,SD = .27)を対象とした。使用尺度:テスト不安を測定するために,Friedman Test Anxiety尺度日本語版(6件法,23項目; Friedman & Bendas-Jacob, 1997; 松原他,2001)を使用した。期末テストに対する学習態度を測定するために,学習の態度尺度(児玉・石隈,2015)のテスト課題対処項目(5件法,4項目)を使用した。期末テストにおける中学生の認知的再評価の使用傾向を測定するために,小学校高学年・中学生用情動制御尺度(杉山他,2017)の認知的再評価の項目(4件法,5項目)を使用した。テストに対する認知的再評価を測定するために,教示を「テストで失敗したり,勉強で辛いことがあったときに」と変更した。学業成績の指標として,期末テストの数学の成績を使用した。手続き:期末テストの1週間前に,質問紙調査を実施した。
結 果
まず,先行研究と同様の数学におけるテスト不安の影響が,学習態度を統制した上でも生じるか調べた。数学の成績を従属変数,学習態度得点とテスト不安得点を独立変数とする重回帰分析を行なった。その結果,学習態度得点 (β = .34, t = 4.37, p <.01) とテスト不安 (β = -.19, t = -2.43, p <.05) の双方で,標準化偏回帰係数が有意であった。学習態度を統制した上でも,テスト不安が数学成績に対して負の影響を持つことが示された。
次に,テスト不安における認知的再評価と学習態度の影響を調べるため,テスト不安を従属変数,認知的再評価得点と学習態度得点を独立変数とする重回帰分析を行った。その結果,認知的再評価の標準化偏回帰係数のみが有意で (β = -.29, t = -3.41, p <.01),学習態度得点は有意ではなかった (β = -.12, t = -1.42, p = n.s.)。したがって,テスト不安の緩和において,テスト勉強は有効ではなく,認知的再評価のみが有効であることが示された。
最後に,テスト不安が数学成績に及ぼす影響を,認知的再評価が調整するか調べた。認知的再評価得点の平均値(M = 12.8)を基準に,高群(M = 14.96)と低群(M = 10.22)に群分けを行なった。そして,認知的再評価の高群,低群において,数学成績を従属変数,テスト不安得点を独立変数とする重回帰分析を行った。その結果,低群ではテスト不安得点の標準化係数が有意(β = -.40, t = -3.55, p <.01)であったが(Figure 1),高群ではテスト不安の標準化係数は有意ではなかった(β = -.07, t = -.63, p = n.s.)(Figure 2)。したがって,認知的再評価の使用傾向が高い中学生では,テスト不安が数学に及ぼす負の影響が緩和されることが示された。
考 察
数学の成績を向上させるためには,テスト勉強だけではなくテスト不安を緩和する必要があることが示唆された。さらに,テスト不安の緩和において,テスト勉強は有効ではなく,認知的再評価が有効であることが示された。海外では,認知的再評価を促進する「短期筆記開示」介入を用いて,高校生の試験成績を向上させる研究が既に行われている(Ramirez & Beilock, 2011)。今後は国内においても同様の介入方法を開発していく必要性があるだろう。