日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

2019年9月16日(月) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG34] 高校生の勉強に対する価値と質問力の関連

松本明日香1, 小川一美2 (1.愛知淑徳大学大学院, 2.愛知淑徳大学)

キーワード:課題価値、質問力、批判的思考

問題と目的
 専門教育が本格化する前に必要な力の1つとして批判的思考力があり,とりわけその土台として「疑問を持つ力」の獲得の重要性が示されている(道田,2011など)。道田(2011)や松本・小川(2018)は大学生を対象に,質問力を獲得するための重要な要因として,質問経験を伴う授業や専攻学問に対する価値を取り上げ,検討を行っている。しかし,大学教育に先駆け,高校においても質問力の育成に取り組むことで,自律的な学習者の育成に貢献できると考えられる。松本・小川(2018)は,複合的な学びに対する価値である,専攻学問に対する価値と質問力や質問態度間の関連を検討し,価値の組み合わせによって質問力との関連が異なることを示した。そこで本研究では,高校生を対象として,「勉強」に対する価値と質問力および質問態度の関連を検討する。
方  法
 調査対象者 高校生39名(男19名,女20名;3年生20名,2年生7名,1年生12名)。
 質問力の測定 質問力の測定は,道田(2011)の方法を採用した。質問力の測定に使用した課題は,高校生向けに作成された心理学の書籍(小川他,2013)の“社会心理学”と“教育心理学”に関する,難易度が同じ2種類の文章であった。測定では課題をランダムに配布し,1種類の課題のみに解答した。20分の制限時間内で,文章に対しできるかぎり沢山の質問を,箇条書きで記入するよう求めた。
 分析に用いた調査項目 (1)勉強に対する価値:中西・伊田(2006)による総合動機づけ診断尺度から,課題価値に該当する16項目(7件法)を用いた。(2)質問態度:道田(2011)による6項目(6件法)を用いた。
結果と考察
 質問力については,道田(2011)のカテゴリ表を参考とし,記述された質問を“思考を刺激する質問”,“事実を問う質問”,“意図不明な質問”に分類した(Table 1)。なお,生成された質問数に関しては,道田(2011)と同様にZ得点に変換し以降の分析を実施した。また,意図不明な質問数は,最頻値が0であったため分析から除外した。
 勉強に対する価値に関して,中西・伊田(2006)の下位尺度に基づき信頼性係数を算出したところ,問題のない値であったため(興味価値:α=.894,利用価値:α=.735,私的獲得価値:α=.720,公的獲得価値:α=.706),4つの下位尺度得点を算出した(Table 1)。
 勉強に対する価値を第1群,質問態度,質問力を第2群とした正準相関分析を実施した結果,第1正準変量のみ有意であった(Table 1)。第1群では,興味価値が負の高い値を,公的獲得価値が正の中程度の値を示した。第2群では,思考を刺激する質問数が高い値を,事実を問う質問数が負の中程度の値を示した。つまり,勉強は面白いといった価値は高いが,勉強をすることは周りから望ましいと思われているという価値が低いと,深い質問である思考を刺激する質問生成数と浅い質問である事実を問う質問生成数両方が多くなることが示された。松本・小川(2018)は大学生において,興味価値が高く,公的獲得価値が低いと,事実を問う質問数には負の,思考を刺激する質問数には正の影響を与えることを示しており,思考を刺激する質問数に関しては整合した結果が得られた。興味価値は一貫して自律的な学習動機づけと関連することが示されており(伊田,2001など),勉強に対し興味価値が高い生徒は,日常的に,自律的に学習に取り組むことにより,批判的思考力の土台となる質問力も身についたと考えられる。なお,質問をする力は大学生においても身に付ける事が難しく,高校生では,浅い質問の生成であっても容易ではないと予想される。以上から高校生では,同様の組み合わせの価値を持つ際,事実を問う質問の生成数も多くなったと考えられる。