日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

2019年9月16日(月) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG50] 入学前後のストレッサーが通信制高校生徒の幸福感に与える影響

不登校経験の有無という観点から

藤後悦子1, 平部正樹#2, 小林寛子3, 竹橋洋毅4, 藤本昌樹#5, 藤城有美子#6, 北島正人7 (1.東京未来大学, 2.東京未来大学, 3.東京未来大学, 4.奈良女子大学, 5.東京未来大学, 6.駒沢女子大学, 7.秋田大学)

キーワード:通信制高校生、不登校、幸福感

目  的
 不登校経験者にとって,通信制高校は柔軟な学習形態により,学校へのストレスが軽減できるため,進学先の重要な選択肢となっている。不登校経験者は,過去に様々な葛藤を経験しているため,精神的健康という視点から進学後においても彼らへの支援は不可欠である(杉田,2009)。
 精神的健康を支えるものとしては,近年ポジティブ心理学の文脈から幸福感の重要性が指摘されている。葛藤を抱えながらも,現在「幸せ」と感じることができることこそがwell-beingの実現につながるであろう。高校生にとっては,友人関係をはじめとした対人関係や学校生活を中心としたストレスにどのように対処できるかが課題となる。不登校経験者への支援の検討には,どのようなストレスが幸福感と関わっているのかを把握することが重要である。そこで,本研究では,不登校経験者の通信制高校入学前後のストレスが通信制高校生の幸福感に与える影響を男女別に明らかにすることを目的とする。
方  法
対象者:2015年11月から2016年1月の間に全国の私立I通信制高校に在籍していた3888人を対象とした。2423人の生徒から回答を得た(回収率62.3%)。回答者は男性が875人,女性が1470人,不明が78人であった。回答者の年齢の平均は17.03歳,標準偏差は1.40歳であった。
質問項目:年齢,性別,学年を尋ねた。入学前の経験として,不登校の有無を尋ねた。幸福感:現在,どの程度幸せであるかについて「とても不幸(1)」~「とても幸せ(10)」の10件法で尋ねた。ストレッサー量:入学前,入学後の各ストレッサー(学業,友人関係,教師,部活動,学校行事,家庭環境,健康状態)量について「全く感じていなかった(1)」~「非常に感じていた(5)」の5件法にて尋ねた。
倫理的配慮:本研究は東京未来大学の倫理委員会の承認を得て実施した。自由意志であること,成績に関係しないこと等を紙面にて説明した。
結果と考察
 対象者2423人のうち,過去の経験に関する項目の無回答者73名を除き,2350人を分析対象とした。その結果,不登校経験あり群1085人(46.2%),不登校経験なし群1265人(53.8%)となった。
 幸福感得点の群間差を検討するために,不登校経験と性別を独立変数,幸福感を従属変数とした二要因分散分析を行ったところ,不登校経験の主効果が示された(F(1,2251)=31.41,p<.01)。幸福感得点は,不登校経験なし群6.49(SD=2.41)が,不登校経験あり群5.96(SD=2.15)より有意に高かった。
 次に,不登校経験及び男女別に入学前後のストレスが幸福感に与える影響を検討するために,入学前後の各ストレッサー7項目合計14項目を独立変数,幸福感を従属変数としステップワイズ法による重回帰分析を行った。その結果,不登校経験あり群では,男女ともに入学後の学業,友人関係,家庭環境が,女子では入学前の友人関係と現在の健康状況が幸福感を抑制していた。
 不登校経験なし群の男女共通要因は,入学前の教師との関係と入学後の家庭環境であり,これらが幸福感を抑制していた。加え女子では入学前の学校行事が,男子では入学後の学業,友人関係が幸福感を弱めており,反対に入学後の教師との関係と部活動のストレッサーが幸福感を強めていた。
 以上より,不登校経験あり群は,入学後の学業面や友人関係のストレス軽減を目的とした支援を中心に,不登校経験なし群の男子には,学業や友人関係のストレス軽減に加え,教師との関係や部活動を中心とした肯定的な負荷を高める支援が有効であることが推測された。また,不登校経験の有無に関わらず通信制高校入学後の家庭環境は有意に幸福感を弱めていることから,親子関係への支援や子育て講座の開催など親へのアプローチが重要であることが示唆された。  
引用文献
杉田郁代 (2009). 通信制高校における学校教育相談の研究(1) 環太平洋大学研究紀要, 2, 103-108.
付  記
 本研究は科研費17K01801の補助を受けた。